5-5 sideレイズ(マユ)
学祭前の二週間で、私たちは小冊子に載せる小説の大筋を決め、かなり細かいところまで突き詰めてきた。
文章もみんなであーだこーだ言いつつ、書いては直しを繰り返し、何とか一応小説らしい形になってきた。
あまり長い話にすると印刷準備から印刷までが大変なことになるので、要点はしっかりまとめつつ、でも萌え要素はきちんとおさえた。
「うん、いい感じになってきたんじゃない?」
と私が言うと、女子たちも
「そうですわね!」
「そろそろ誤字脱字などのチェックをして、印刷準備にかかっても良いかもしれませんね」
と同意を示してくれた。
中世ヨーロッパ程度の文明しかないこの世界では、これからが大変だ。
学祭まであと残り一週間になり、私たちは印刷用の機械を貸してもらうため、アンリエッタの家に行くことになった。
「お邪魔しまーす」
と私たちがアンリエッタの家を訪ねると、すぐにアンリエッタのお母さんらしい人が迎えに出てくれた。
「いつも娘がお世話になっております。アンリエッタの母・アンナでございます」
と礼をしてくれたのは、アンリエッタと同じ赤い髪に緑の瞳のまだ若い女性だった。
「アンリエッタは今、ご令嬢の皆様にお菓子作りをお教えしておりますのよ」
と言いつつ、アンリエッタのお母さんは私たちを印刷室に案内してくれた。
するとそこにアンリエッタが小走りで入ってきて、私たちに礼をした。
「お菓子作りグループも頑張ってる?」
と私が尋ねると、アンリエッタは
「はい、もう皆様ご上達なさいましたので、私がいなくても大丈夫そうですわ」
とにっこり笑った。
そして
「小冊子組の皆様も小説を完成なさったのですか?」
と聞いてきたので、私たちはうなずいた。
「私にも原稿を読ませていただけませんか?」
とアンリエッタが言うので、私は小説の原稿を手渡した。
ふんふんとうなずきながら原稿に目を通した後、アンリエッタは
「すてきなお話ですが、最後が切ないですわね…」
とため息をついた。
「ん?切ないのも萌えるってみんな言ってたでしょ?」
と私が言うとアンリエッタは
「ですが、これではルード様に救いがありませんわ」
と残念そうにそう言うので
「アンリエッタなら、最後のところどうする?」
と私は聞いてみた。
アンリエッタは何やらひらめいたかのように
「ルイス殿下って、たしか弟君がいらっしゃいますわよね?」
と、そう言った。
あっ…そういえば激しくブラコンの弟…シモンがいたっけ。
「なるほど、シモンとルードを…」
と言いかけて私は大切なことに気がついた。
…ルイスがハヤトだってこと、アンリエッタに言ってなくない…?!
ってことは、シモンがなんで超ブラコンなのかを説明できない。
シモンの前世がハヤトに片思いしてたクラスのオタクのユウキだったってことも言えない。
私はとりあえず、この場を取り繕うために言った。
「ルイスは渋々ではあるけど、小冊子を作ること許してくれたよね?でもシモンには許可とってないから…シモンにも許可とらなきゃ話は進められないよ?」
周りの女子たちも
「まぁ…それはそうですわね」
「勝手にモデルにしては不敬になりかねませんわ」
と、私に同意してくれた。
するとアンリエッタは
「レイズ様からルイス殿下に、そして殿下経由でシモン殿下にお話をさせていただくことはできませんの?」
と尋ねてきた。
「うん、またルイスとアンリエッタと僕とで話してみない?」
と私が提案すると、アンリエッタも了承してくれたので、残念だけど印刷の準備は延期ってことにした。
女子たちは残念がってたけど、私はほっとした。
そしてルイスやシモンのことをアンリエッタに明かしたら…また面白いことになりそう!と私はわくわくしてきた。
お忘れでしょうが、前世オタクのユウキだった、ルイスの弟シモンです。ルイスの四つ下なので学園に同時に通うことはないのでほぼ出番ないですw




