5-4 sideルイス(ハヤト)
ハリエットが前世持ち…転生者だということは、ゴードンからの話で確実になった。
だが、ハリエットが自分の前世を明かしたがらないということがどうにも気になる。
俺的には、ハリエットはユウヤだと思っているのだが、だとしたらユウヤが俺に前世を明かしたがらないというのはなぜなのか。
あまりにも不可解すぎる問題に、俺は頭を抱えた。
どう考えてもわからないので、俺はいったん思考をゼロにした。
まずはハリエットの立場を良く考えるべきかもしれない…と。
ハリエットは隣国オットーバッハ王国の第一王女にして、俺の婚約者だ。
そして最近の言動からして、少なからず俺に好意を抱いてくれていると思われる。
ハリエットがデフォルトなら、ここまで何の問題もないだろう。
だが、もしもハリエットの前世がユウヤだったとしたら?
俺と結婚するのに何か支障はあるか?
そう考えて俺は気づいた。
前世のユウヤが俺に対して友情以上の感情を持っていなかったら?
ハリエットとしては…女子としては俺に対して好意を抱いていても、心の奥底がユウヤなら…
俺との結婚はイヤかもしれない。
俺はさらに頭を抱えた。
そうだ…だとしたらハリエットは、自分がユウヤだったなんて言えないだろう。
今世でのハリエットは完璧な淑女だ。
そのハリエットが
「実は俺はユウヤだったんだよ」
なんて言えるわけがない。
俺は運良く…かどうかはわからないけど、前世と同じ男として転生した。
レイズは前世女子だったけど、男に転生しても、リオという相方と再会して、この先も上手くやって行けそうな計画を立てている。
だが、ユウヤは前世男だったのに、女子として転生した。
しかも一国の第一王女として、一国の第一王子と結婚しなければならない立場だ。
もし俺がユウヤ…ハリエットの立場なら、誰にも何も言えないかもしれない。
一人でずっと抱え込むことに耐えきれなくなって、逃げ出したかもしれない。
そう思うと、ハリエットがどんなに辛いかがわかった気がした。
今…そしてこれから、俺はハリエットに対してどうすべきなのか。
考えても考えても答えは出なかった。
ゴードンが俺の部屋から出て行った後、俺はずっとひとりで考えていた。
考えて考えて考えすぎて、昨夜はほとんど眠れなかった。
大方の貴族や商家などとの交渉を終えたので、今日は女子たちが作業する教室を覗くことができる。
が、まだハリエットと顔を合わせるのは怖い。
ゴードンに、自分が前世持ちだと知られたハリエットが、俺に対してどんな態度を取るのかと思ったら、正直怖くてたまらない。
それでも今の俺には、いつも通りハリエットに接することしかできない。
色々考えながら俺が教室に入ると、ハリエットが刺繍をしていた手を止めて顔を上げた。
どう声をかけようかと迷っていると
「…殿下、どうなさいましたの?」
とハリエットは立ち上がって俺に近寄ってきた。
予想外のハリエットの行動に俺は驚いた。
「目に下にクマができておりますわ…お休みになっていらっしゃいませんの?」
とハリエットは心配そうにそう言った。
「あぁ…俺はそんなひどい顔をしているか?」
俺が笑って言うと、ハリエットは怒ったような顔をして言った。
「お顔が真っ青なのにご無理をなさらないでくださいませ…!」
ハリエットの言葉に、俺はまた笑った。
「ハリエットの刺繍が見たくて来てしまったんだ」
俺の言葉にハリエットは赤くなって、また怒った。
「もうっ…そのようなことを仰っている場合では…」
「わかった、わかった。俺が全部買い占めるとはいえ、今見てしまっては楽しみが減るかもしれないな」
と俺が言うと、刺繍女子たちが笑って、ハリエットは口に手を当てて
「もう…おからかいになって…」
と言った。
いつもの俺たちだ。
今は…そう、今はこれでいいんだ。
いつも下書きをディスプレイ手前に置いてそれを見ながら時々ディスプレイを見てブラインドタッチで入力してるんですが、「心配」と打つとなぜか「しんぱお」になることが時々あります。「しんぱお」ってなんやねんw




