4-13 sideゴードン(ニシダ先生)
春の学祭のバザーについての話し合いが昨日から始まった。
俺たち男は、女生徒たちが出品する物に必要な材料などへの寄付を募るのが主な役割なので、女生徒たちの意見がある程度まとまってからしか動けない状態だった。
我がクラスでは刺繍、お菓子、そして何かわからないが小冊子を作るということになり、女生徒たちは各々の準備に忙しそうだった。
そんな中、刺繍グループのハリエットが何やら元気がない様子だった。
ルイスは俺たち男子より先に、大体どのような材料が必要で、どのぐらい寄付をしてもらえるのかを貴族や商家に交渉しなければならないため朝から出かけていたので、ハリエットに会う時間もなかった。
そのため、ハリエットのそんな様子に気づく者はあまりいないようだった。
気づいたらしい刺繍グループの女子のひとりが
「ハリエット様、いかがなさいました?ご気分でもお悪いのでしょうか?」
と声をかけていたが、ハリエットは
「いいえ…どのような作品を出品するか悩んでおりますの」
と、弱々しい声で返し、薄く笑った。
なので俺は、思い切ってハリエットに声をかけることにした。
前世で教師だったので、生徒たちに何かあれば力になってやりたい…とついそう考えてしまう癖がついている俺には、ハリエットを放っておくことはできなかった。
俺はハリエットに話しかけた。
「ハリエット、どうした?元気がないようだが…」
と言って、ふと今世での己の立場を思い返して慌てた。
「いや、殿下の婚約者に呼び捨ては無礼だな」
俺がそう言うと、ハリエットは驚いた顔をしてから、微笑んだ。
「レイズ様も敬称をつけずお呼び下さっていらっしゃいますので、ゴードン様も敬称などつけて下さらなくてよろしいのですよ」
いい子だ。
「そうか、ならそうさせてもらおう…で、どうした?体調でも悪いのか?」
と俺が尋ねると、ハリエットは
「いいえ、そういうわけではございませんが…」
とうつむいて表情を曇らせた。
これは何か悩みごとがありそうだな…と思ったので、
「何か悩みがあるなら言うといい。人に言えば心が軽くなることもあるだろう」
そう言ってみたが、ハリエットはかぶりをふって
「いいえ…人様に申し上げられるようなことではありませんわ…」
と、また表情を曇らせた。
こんな時、前世ならどうすれば良かった?
俺はあれこれ迷ったあげく、
「よし、俺が何かおごってやろう!」
と言ってしまった。
一国の第一王女に対してこれはまずかったか?と焦った俺に対するハリエットの返答は予想外だった。
「ふふっ…先生みたいな仰りようですわ」
ん?この学園でそんなことを言う教師はいたか?
俺がそう考えていると、ハリエットは
「あっ…」
と、まずいことを言ってしまったような顔をした。
俺の言葉に対してそういう返し方をするということは…
これはもしや、と思った俺は、できるだけ小声で…でもハリエットだけにはちゃんと聞こえるように尋ねた。
「…お前、前世があるのか…?」
ハリエットは若草色の大きな瞳をさらに大きく見開いて
「…ニシダ…先生…?」
と、確かにそう言った。
そういえばルイス…ハヤトが言っていた。
ハリエットがユウヤかもしれないと。
だが、今ひとつ確信が持てないというようなことも言ってたっけ。
だとしたら、俺の口から”お前はユウヤか?”とは聞けない。
とにかく俺が今伝えるべきなのは、俺がニシダだったということだ。
なので俺は、
「そうだ、担任だったニシダだよ」
と笑って伝えた。
するとハリエットは小さな小さな声で
「…よかった…先生もこの世界に転生していらして…人生を続けることができたのですね…」
と言い、うっすらと目に涙を浮かべて微笑んだ。
ユウヤ…?いや、完璧な淑女じゃないか。
ハリエットが自分の前世は誰なのかを言ってくれないので、俺は混乱した。
が、誰であってもあの時若い命を散らせた生徒の誰かなのだ。
俺は
「ああ…ありがとな…」
とうなずくことしかできなかった。
昨夜はブランデーを飲みすぎましたwでもおいしかったので後悔はありません。←




