4-10 sideハリエット(ユウヤ)
「ハリエット…俺は…俺はきみのことが…」
殿下は確かにそう仰いました。
まるで愛の告白の始まりの文句のように聞こえたのは、私の勘違いでしょうか?
当の殿下はと言えば、お言葉を途中でお切りになった後、レイズ様に向かって何やら仰っていらっしゃいました。
もしも先達ての殿下のお言葉が私への愛の告白だったなら、あのように途中で切り上げてしまったりはしないでしょう。
私はほんの少し、残念な気がいたしました。
出来得ることなら、殿下のお言葉の続きをお聞かせ願いたい…そう考えて、私は首を横に振りました。
私は殿下のことをお慕い申し上げておりますが、殿下と私の婚約は国同士の決めた大切な取り決めです。
殿下にも私と同じようなお気持ちになって頂きたいと願うことは、私のわがままであり、贅沢な願いでしょう…
ふと殿下の方を見ると、殿下はなにやら憔悴しておられるご様子でした。
なのでおそるおそる
「あの…何かございましたか…?」
と私が申し上げると、殿下は
「あぁ…ハリエット…ちょっと…レイズたちが…な…」
と、少々青いお顔で仰いました。
「あの…とてもお疲れになられたご様子ですが…」
と、心配になった私が申し上げると、殿下は
「うん…疲れたよ…精神的に…」
と、心底疲れたようなお顔をなさって、そう仰いました。
私は、何とか殿下をお慰めしたいと思ったのですが、どうすれば良いのかわからず、とりあえずお茶を入れて差し上げようと思い立ちました。
なので殿下に
「お座りになって少々お待ちくださいませ…」
と申し上げ、私はお茶を入れるために小走りに教室を出ました。
殿下のお好きな紅茶を保温カップに入れて、私は殿下の元へと急ぎました。
そして
「どうぞ、お飲みください…お心が少しでも落ち着くと良いのですが…」
と、保温カップを殿下にお渡しいたしました。
殿下は少し驚いたようなお顔をなさった後、微笑んで
「…ありがとう、ハリエット」
と、保温カップを受け取って下さいました。
殿下の笑顔を拝見することはそう少なくありません。
ですが、この時の殿下は少し疲れたご様子なのも相まって、憂い気で儚い笑顔に見えたのです。
私は、きゅっと胸が締め付けられるような思いがして、つい口走ってしまいました。
「あの…よろしければ私の肩をお貸しいたしますので、少しお休みになられてはいかがでしょうか…?」
言ってしまってから、私は後悔をしました。
国同士の決めた婚約者がこのようななれなれしいことを言うのは、あまりにも殿下に対して失礼なのではないかと。
ですが殿下は、目を見開いた後、恥ずかしそうに微笑んで仰いました。
「…ホントに?きみが許してくれるなら…そうさせてもらえるか…?」
もちろん、と私が言葉を返す間もなく、殿下は隣に座った私の肩に形の良い頭をそっと預けられました。
そして
「ちょっとだけ…少しだけでいいから…このままでいてくれるか…?」
と仰ったので、私は
「はい、どうぞ…」
と、そう申し上げる他ありませんでした。
私の胸は早鐘のように打ち続け、恐らく顔は真っ赤になっていたと思います。
ゆっくりと目を伏せられた殿下のお顔を拝見しながら、私はふと前世での出来事を思い出しました。
前世での学園祭の後…メイド役をつつがなく終えたハヤトが疲れた顔をしていた時のことを。
あの時も、私はハヤトに肩を貸して、しばらく休んでもらったのです。
もしも殿下がハヤトだったとしたら…
あの時のことを覚えて下さっていますか…?
この小説で「殿下」って散々入力してるのに、文の流れによっては「電荷」になるといううちのパソw




