2-11 sideゴードン(担任・ニシダ)
俺は前世では、高校教師をしていた。
教育大学を出てすぐに生物教師として就職が決まったんだが、新任であるにも関わらず、一年生の一クラスの担任を命じられた。
中学生のころに良い担任に巡り合ったおかげで教職を目指すようになった俺からすれば、とても喜ばしく光栄なことだった。
が、大卒ほやほやの新米教師の俺に、クラスをまとめることなどできるのだろうか?と俺は少々不安になっていた。
だがそんな俺の不安は、とある生徒たちによって払拭された。
それは、クラスのオタク系男子生徒たちだった。
特にリーダー格と言えるハヤトは、オタクでありながら世間の流行も熟知していて、誰とでもどんな話でもできる上、成績も優秀で皆から頼られていた。
その上ハヤトはイケメンでスポーツもできる…と、完全無欠とも言えるやつだった。
普通ならそこまで出来が良ければ、調子に乗って”俺が王様”みたいな態度を取りそうなものだが、ハヤトは全くおごることなく、皆に気さくで親切だった。
そんなハヤトと、ハヤトと特に親しいユウヤ、マユ、リオがクラスの中心的存在になって皆をまとめてくれていたので、はっきり言って俺の出番はなかった。
おかげで俺は必要以上に気張ることもなく、俺生来の呑気でおおざっぱな性格そのままで、クラス担任としてのんびりやっていくことができた。
…が、二年の修学旅行ですべては一変した。
スキー場に向かうバスが事故を起こし、俺を含む数名が命を落としたからだ。
俺は運転手のすぐ後ろに一人で座っていたんだが、その後ろにはハヤト達が席を取っていて、その頃流行していた乙女ゲームの話で盛り上がっていた。
高校生らしくてかわいいなぁと思いながら、耳をそばだてていた俺は、そのゲームのあらすじを聞いていた。
なるほど、こういうのが今のオタク系高校生には人気なのか…とうなずきつつ聞いていたのだが、気づけば結構な時間になっていたので、
「お~い、そろそろみんな寝ろよ~」
と皆に声をかけると、皆素直に寝る準備に入ってくれた。
いい子たちだった。
俺は激しい熱さと痛みで目が覚めた。
どうやらバスの運転手が操作を誤ったか何かで対向車線に入り、その右側の斜面に激突したようだ。
俺自身もすでに虫の息だったが、何とか後ろを振り向くと、ハヤトにユウヤ…そしてマユとリオあたりまでは俺と同じような状態だった。
なんてことだ…楽しい修学旅行でこんなことになるなんて…まだ若いこの子たちの前途がこんなところでこんな風に断たれるなんて…と、俺は辛くて悲しくて、どうしようもなくなった。
だが、バスの左側の子たちは悲鳴を上げたり立ち上がったり、何とか無事なようだった。
俺は最期の力を振り絞って、左側前列の女生徒に声をかけた。
「…左…上の壁…に、非常用…レバ…あるから…引いて…ドアあけて…逃げ…」
”せんせぇぇぇ!!”と泣き叫ぶ女子たちの声がする中、他の男子が
「俺が開ける!!みんな逃げろ!!先生、先生も…っ」
と涙声で叫ぶ声を聞きながら、俺は息絶えたようだ。
そんな前世を持つ俺が、この世界に転生した。
ハヤト達のおかげで、こういうシチュエーションはすぐに理解できたし、マユがおすすめしていた乙女ゲームのキャラに転生していたことに気づくのも早かった。
転生したのは、俺だけなのか?
ハヤトにユウヤ、マユとリオ…そしてその後ろの席のユウキたちももしかしたらあの時死んでしまったかもしれない。
だったら、あの子たちもこの世界に転生しているかもしれない。
神様、どうか、どうかあの子たちも…若くして命を落とすことになった教え子たちも、転生して幸せでいてくれますように…
日々そう祈りつつも、ヘイワード子爵家次男として勉学や剣術に励んでいるうちに月日は流れ、いよいよ国立クロス学園に入学することになった。
俺は王子たちと同じく寮生活を送ることになったんだが、寮生活というのは修学旅行先での宿のような感じだなと思った。
早く寝る者、まだ廊下でしゃべったり走り回ったりしている者…ここにあの子たちがいれば…そんな感傷に浸りつつ、つい俺はまだ寝ない生徒たちに言ってしまった。
「お~い、そろそろみんな寝ろよ~」
その時、細く開いたドアの隙間から王子がこちらをじっと見つめて
「…先生…?」
と、そう言った。
なんと担任もいましたw




