2-8 sideハリエット(ユウヤ)
ルイス殿下が入学式の後、クラスの皆様に対して「気さくに接するように」と仰ったので、クラスの女性たちはなにかと殿下のおそばに寄ってお話などをしようとするようになりました。
ですが、ルイス殿下はいつでも私を最優先して下さり、
「ごめん、ハリエットと一緒にいたいんだ」
と、女性達にお断りして、私との仲を深めようとしてくださいます。
それは当然と言えば当然でしょう。
私たちの婚約は、言わば国同士の契約のようなものです。
ならば殿下が私を最優先してくださるのは、国同士の結びつきを強固にするためと言えるでしょう。
殿下は皆に「気さくに接するように」と仰いましたが、殿下御自身も皆に対して…私に対しても本当に気さくに接して下さるようになったのですが、その中で気になることがあります。
殿下が私に対して話しかけて下さるときの、ちょっとして言葉遣いや表情などに、前世でのハヤトに通ずるものがある…と感じるからです。
前髪を少しかき上げて眉を下げて笑う表情や、私の母国での色々なおけいこ事などの話を聞いてくださった後、
「ハリエットはホントにすごく頑張ってきたんだね」
と、とても優しく微笑みかけて下さる表情…どれも前世でのハヤトを思い起こさせます。
もしや、殿下はハヤトなのでは…?と思うようになってきたのですが、そのようなことはとてもではありませんが殿下には言えません。
「殿下には前世がおありなのですか?」
などと言ってしまっては、頭のおかしい女だと思われるかもしれません。
そのようなことを考えては悩んでいると、同じクラスの女生徒たちが私に
「ハリエット様、少々お時間頂けますでしょうか?」
と声をかけてきました。
あまり人目につかない校舎の隅に導かれて行った私は、数人の女生徒たちに取り囲まれたのですが、そのうちのおひとりが
「ハリエット様と殿下のご婚約は、国同士の取り決めなのですよね?」
と、そう仰いました。
なので私は素直に
「はい、クロス王国とオットーバッハ王国のさらなる強固な結びつきのため、クロス王国国王陛下と我が父であるオットーバッハ王国国王との間で決定された婚約です」
と答えました。
すると、他の女生徒がふふっと笑って、
「国同士の取り決めであって、ハリエット様と殿下は恋仲…というわけではないのですよね?」
と仰いました。
私はその問いに対して、どうお答えすべきか悩みました。
確かに私たちの婚約は、国同士の契約のようなものであって、殿下と私は一般的な恋人同士というわけではありません。
ですが、いくら貴族のご令嬢とはいえ、国同士で取り決めた婚約に意見するなど、許されることではないのでは…と思っていると、
「こんな人目につかない場所で何をやってるんだ?」
…ルイス殿下の声がしました。
「大勢でハリエットを取り囲んで、一体何をやってるんだ?」
と、殿下は女生徒たちをにらみつけながら仰いました。
女生徒たちは戸惑ったように口をぱくぱくと開閉し、その中のおひとりが
「あ…あの…」
と言いかけた所にルイス殿下はいつもよりかなり低い声で仰いました。
「国と国との結びつきを強固にするための婚約に物申すのか?今言ったのと同じことを陛下の御前で言えるのか?言えないだろ?もし言ったら不敬罪でお前ら全員修道院行きだぞ?最悪、お家取り潰しってことにもなりかねないぞ?」
女生徒たちは完全に気圧され、がたがたと震え始めました。
「…今回の件は陛下に申し上げることなく済ませてやる…が、もしまた同じようなことをしでかしたら…どうなるかわかっているな?」
凄味のある声で殿下がそう仰って、女生徒たちの顔をぐるりと見回すと、
「も、申し訳次第もございませんでした…」
と、彼女たちは殿下と私に礼をして走り去っていきました。
するとその後すぐに殿下は
「大丈夫か?怖い思いをしただろう…すまない、ハリエット」
と、眉を下げ、申し訳なさそうな優しい瞳で私に話しかけてくださいました。
「いいえ、私は大丈夫ですわ…」
と答えつつも、殿下のりりしさと優しさに、私の胸はどきんと高鳴っていました。
ハリエットが完全にヒロインポジションになってしまいましたw…中身、ユウヤやで…




