2-6 sideアンリエッタ(リオ?)
私がこの世界に生まれた時、まだ自分が転生者だってことには気づいてなかった。
けど、赤ちゃんなのになぜかしっかりとした自我があった記憶がある。
目がしっかり見えるようになってきて、自分のいる部屋に違和感を覚えたことによって「もしかして転生しちゃった?」と思えるようにはなってきた。
見覚えのない部屋…でも、もし貴族とか王族とかに転生したのなら、きっともっとお金のかかっていそうな天井とか壁とか家具に囲まれてただろう。
な~んだ、どっかの世界のモブかぁ…ってがっかりしてた私に、母親らしい女性が
「かわいいアンリエッタ、お目覚めかしら?」
と、にこにこと話しかけてきた。
そのひと言で私は「あ、コレってあのゲームだ!!」と気づいた。
この世界は前世でハマっていた「恋に恋するアンリエッタ」の世界で、私はヒロインのアンリエッタに転生したんだ!!って。
「恋に恋するアンリエッタ」の世界には、魔法というものは存在しない。
地球で言う所の中世ヨーロッパくらいの文明なので、当然家電もない。
スマホもパソもテレビもなーんにもないので、世間のできごとなどを知るための情報源といえば、街角で売っている新聞くらいなものだ。
唯一、前世での家電に近いと思えるものは冷蔵庫だ。
冬の間に池とか湖とかから切り出された大きな氷を、オガクズ?とかでくるんだやつを、二重構造になってるらしい木の箱に入れることによって、保冷効果のある箱になるのだが、それが冷蔵庫として普及していた。
なので、商家であるうちの出入りの八百屋さんやお肉屋さんから買った野菜や肉をこの冷蔵庫にいれておけば、しばらくは保存できる。
冷蔵庫があるおかげで、乳製品も保存できるから、生クリームのケーキなんかも存在している。
前世でスイーツ大好きだった私にとって、これはとてもありがたいことだった。
でもやっぱり…スマホほしいよ!ゲーム機もほしいよ!!
ランプのぼんやりした明かりの下、ベッドの上で私はもだもだしていた。
うちは結構裕福な商家だったから、国立クロス学園に入学できることになっていた。
ということは、14歳になったら学園に入って「恋に恋するアンリエッタ」のストーリーを進めることができるようになるってことだ。
その日を信じて、私は近所の男子同士の腐妄想を頭の中でだけ展開して楽しんだりしつつも、表面的にはごく普通の女の子として生活をしていた。
学園に入れば、攻略対象者たちの近くにいながら、彼らの腐妄想が楽しめる。
でも、アンリエッタとしては、攻略対象者の誰かと結ばれなきゃなんだろうな…それならルートは決まってる。
前世で大好きだったレイズくんのルートだ!
私は学園の近くに住んでいるので、寮には入らなくても良くて、普通に家から通学することになった。
入学式の日、学園の前庭に人だかりができていたので、これはもしや?!と思ったら、ルイスが登校してきたようだ。
私はレイズくん推しだけど、ルイスのルックスも確認しておきたい。
なので、貴族っぽい女子たちをかきわけてルイスの姿を拝もうとしたら、うっかり転んでルイスの前に飛び出してしまった。
…ほぼゲーム通りの流れになったのは、わざとじゃない。
「きみ、大丈夫?」
と私を気遣ってくれたルイスは、ゲーム通りのプラチナブロンドのサラ髪に、薄紫の瞳、やや低めのイケボ。
「ヤバ…ゲーム通りのルイスだ」
と、ついうっかり小声でつぶやいてしまった後、見上げるとルイスの後ろにレイズくんがいた。
キャー!キャー!!レイズくーん!!と心の中で絶叫しながらも、私はその場を足早に立ち去った。
レイズくん…あぁレイズくん…はちみつ色のふんわりサラッとな髪に、男子にしては大き目のキャッツアイ…実物めっちゃかわいい…!!
…決まりだ。
私はレイズくんのルートをひた走る。
そして、街では見つけられなかった親友を、学園で見つけてみせる。
待っててね、マユ!!
アンリエッタがリオだったことで、まためんどくさいことになりますw




