2-2 sideルイス(ハヤト)
学園生活の始まりと共に、乙女ゲーム「恋に恋するアンリエッタ」は始まる。
…が、実は俺はこのゲームの詳細については全く知識がない。
修学旅行のバスの中でマユから聞いたのは、ゲームの大まかなあらすじメインなので、主人公がどんな風に攻略対象者に接していくのかなどは分かっていない。
とりあえず、入学式前から主人公と攻略対象者の絡みは始まっていくらしいので、俺としては主人公から行動を起こしてくるのを待つ…といった具合だ。
入学式の朝、式に出席するべく俺はレイズと共に寮を出た。
寮から校舎までの間には、両脇に花壇などがある広い前庭があり、そこを歩いていると
「ルイス殿下よ」
「すてき…」
といった女生徒たちの声が聞こえてきた。
まあこういう世界ではやっぱり、王子様は憧れの的なんだろうな…と思いつつ、レイズと他愛ない話をしながら歩いていると、女生徒たちの中から不愉快そうな、困惑したような声がしてきた。
「ちょっとあなた…」
「あなた、邪魔よ」
「押さないで下さる?」
どうやら王子様を見るために群れていた女生徒の中に、多少強引に王子様の姿を見ようとしている人間がいるようだ。
押し合いへし合いしていた女生徒の群れの中から、やがて一人の女生徒が転がるようにして前に出てきた。
俺の目に前に転がり出てきたその女生徒は
「いたたた…」
と、すりむいたらしい膝をこすっている。
王子様としてはこれを無視するわけにはいかないだろう。
そう考えたので、俺はめいっぱい優しい声で
「きみ、大丈夫?」
と声をかけた。
女生徒の群れの中から転がり出てきたのは、この国には珍しい血のような真っ赤な髪に鮮やかなグリーンの瞳の少女だった。
少女はすくっと立ち上がり、
「だ、だだ大丈夫です!!」
と敬礼に近い姿勢を取ってそう言った。
なので俺はさらに王子様らしく
「ケガはない?」
と軽く微笑んで尋ねた。
すると少女はちょっと緊張したような面持ちながらもにこっと笑って
「はいっ!ありがとうございます!」
と大きな声で礼を言ったんだが、その後本当に小さな声で
「ヤバ…ゲーム通りのルイスだ…」
とつぶやいた。
「え?」
と俺が聞き返すと、少女は大きな目をくしゃっとさせて
「なっ、何でもありませんー!!」
と笑って走り去って行った。
隣にいたレイズが、こそっと俺に耳打ちをした。
「あれがこの世界のヒロイン…アンリエッタだよ」
「あれが…」
呆然としている俺にレイズはすかさず
「ユウヤみたいな笑い方だったね」
と、そう言った。
え…ハリエットとアンリエッタ…どっちもユウヤの可能性があるってことなのか…?!
俺は大混乱したまま入学式に出席することとなった。
この後新入生代表挨拶するのにこんな状態で大丈夫か、俺。
…うん、大丈夫、ちゃんと挨拶の内容は紙に書いてあるから。
ただ読めばいいんだから大丈夫…と思いつつも俺はまだ悩み続けた。
主人公と悪役令嬢どっちもユウヤの可能性があるって…マジか…
ちゃんとユウヤに気づけよルイス…とやっぱりじれったくなりますなぁ…




