10-6 sideルイス(ハヤト)
ハリエットと俺が俺のベッドで横になっていると、部屋のドアをノックする音がした。
「ハリエット様、お目覚めでございますか?」
ハリエットの侍女の声だ。
「ええ。起きていますわ。ルイス殿下もお目覚めですわよ」
ハリエットが答えると、侍女が入ってきた。
が、侍女の後ろにオットーバッハ国王と王妃もいた。
婚前の男女がひとつベッドというのはまずいのでは…と、俺は慌てて飛び起きた。
だが、国王と王妃の反応は予想外だった。
「ルイスよ…大事ないか?」
国王が何やら心配そうに言った。
すると王妃も心配そうな顔で
「昨夜やけに早く休みに行った後、その…泣きながら眠っていたそうですね…」
と言った。
なんだかわからないが、まずいことにはなっていないらしい。
「ハリエットがルイス殿下のことが心配なので様子を見たいと申したため、そなたの部屋に行くことを許したのだが…」
国王が眉を下げてそう言うと、
「はい、何やらとても悪い夢をご覧になっていらしたご様子でしたので、私が小さい頃にお母様にして頂いたように添い寝をしていました」
とハリエットが答えた。
どうやらハリエットは、小さい子供にするように添い寝をしたことにしておくようだ。
すると王妃が
「ルイス王子もまだ15歳。おうちが恋しくていらしたのね」
と生温かい目をして言った。
…そういうわけじゃないんだが…
それでもここは話を合わせた方がいいだろうと思ったので、
「はっ…お恥ずかしい限りです。ハリエットは一年近くも家族と離れて我が国で暮らしても泣いたりはしなかったのに…」
と俺は言っておいた。
「…それほどに淋しがられぬのも親としては淋しいのだがな…」
国王がしょんぼりした様子で言うので、俺は
「ハリエットはオットーバッハ王国を代表して学園に来ていたので、きっとずっと気が張っていたのでしょう。私は物見遊山気分でこちらに参りましたので、ハリエットほどには緊張感もなく、気が緩んでおりました。本当にお恥ずかしい限りでございます」
と国王にそう言った。
「そうか、そうか…ハリエットは頑張っていたのだなぁ…」
国王がハリエットに向かって言うと、
「はい、頑張りましたわ!これからも頑張りますけれど、淋しくなったらまたお手紙を差し上げますわ、お父様、お母様」
ハリエットの言葉に国王は目に涙を浮かべた。
「うむ、またしばらく会えなくなるが、いつでも手紙を寄こすが良いぞ」
と涙目の国王に、
「さあ!明日はルイス王子とハリエットを送り出さなくてはいけませんわ。晩さん会の手配をしなければ。陛下、参りましょう」
きりっとして王妃が言い、国王を引きずって行った。
何とか場はしのいだが、俺は”ひと月も家を離れてないのにホームシックで泣いた王子”というレッテルを貼られた気がして気まずかった。
夜が明け、俺はハリエットと共にクロス王国に向けてオットーバッハ王国から旅立つことになった。
ハリエットはみんなへの土産を何にするか色々と悩んでいたが、最終的にはオットーバッハ王国の特産品であるリンゴとナシを土産にすることにした。
いくら前世の日本より夏場の気温が低いとはいえ、馬車で一週間近くも運べば果物などは傷むのではないかと思っていたのだが、携帯用の冷蔵庫に入れて運ぶことで何とかなるだろうとのことだった。
オットーバッハ王国は冬の寒さが厳しいため、大きな氷室に大量の氷が備蓄されていて、それを携帯用冷蔵庫に入れればかなりの日数もつらしい。
前世なら電源が必要だった冷蔵庫だが、この世界では自然の力で結構何とかなるというのは、正直すごいと思った。
「生のリンゴとナシの他に、ジャムも準備しましたの。こちらは常温でも大丈夫ですわ」
ハリエットがにっこり笑って言った。
「そうか、みんな喜んでくれるだろう」
と笑い返しつつ、俺は悩んでいた。
どうしよう、ハリエットが今まで以上にかわいく見える。
抱きしめたくなるぐらいに。
あの長い長い夢の中で、俺はユウヤを抱きしめた。
夢から覚めた後に抱きしめたハリエットのぬくもりは、夢の中のユウヤのぬくもりと同じだった。
俺は前世でも今世でもゲイで、だからハリエットの手さえ握れないのだ…とそう思っていた。
でも今なら…あの夢を見た今なら、ハリエットの手を握ったり、抱きしめたりできるだろう。
というか、手も握りたいし、抱きしめたい。
でもタイミングが分からない。
前世の俺は片思いばかりで、好きな男と付き合えたことがなかったので、スキンシップに関してはからっきしだ。
実際やったことがないんだから。
喪女とかいう言葉が前世にあったが、俺は喪女ならぬ喪男ってことになるんじゃないのか…と考えて、俺は落ち込んだ。
なんかだんだんオットーバッハ国王がかわいく思えるようになってきましたw




