2-1 sideルイス(ハヤト)
あさってから国立クロス学園での生活が始まる。
この国の第一王子ではあるが、俺も学園の寮で暮らすことになる。
弟のシモンは泣いて淋しがったが、これはもうどうしようもない。
というか、寮に入ることでシモンと離れられるのは俺にとってはありがたい。
前世の俺に恋してたらしいシモンは、粘着と言っていいほど俺について歩くので、正直うっとうしくて仕方なかったからだ。
必要最低限の荷物を寮に運び込んだので、あとは寮に入って入学式を待つのみだ。
ハリエットもすでに寮に荷物を運びこんだらしく、俺たちは寮生として三年間共に暮らすことになる。
「ハリエットがユウヤかも…」と言っていたレイズの言葉も気になるが、とにかくあさってから学園生活が始まる…つまり「恋に恋するアンリエッタ」というゲームが始まるというわけだ。
寮の部屋に荷物を運び終え、少し整理をしたあたりで部屋のドアをノックする音がした。
誰だと問う間もなく、間延びしたのんきな声がした。
「ルイス~僕だよ~」
レイズだ。
二人きりで小声で話す時レイズは「私」と言うが、第三者がいる時などには「僕」と言うようにしている。
「レイズか。入れよ」
と言うと、にこにこと笑いながらレイズが入ってきた。
そして俺の耳元で
「ハリエットは?もう寮に入ったの?」
と聞くので
「そうみたいだ」
と俺は答えた。
ハリエットは女子なので女子寮に入ったはずだが、もしホントにハリエットがユウヤなら、居心地が悪いんじゃないかと心配になった。
だが、まだあくまで「ハリエットがユウヤかもしれない」という仮定の話なので、そこまで心配するのもどうかとは思う。
「他の攻略対象者とも会った?」
とレイズが尋ねてきたが、俺は首を横に振る。
「王城のパーティでたまに会ったことがあるだけで、学園ではまだ会ってないな」
とりあえずエイサン伯爵家のルードとヘイワード子爵家のゴードンは、パーティで話した限りでは前世持ちという感じはしなかった。
レイズとルードとゴードンは、俺の未来の側近候補なので、学園で親交を深めるようにとの父王からのお達しだった。
まあおいおい…などとレイズと話していると、ドアをノックする音がした。
「お忙しい所申し訳ございません。ハリエットでございます」
え?!なんで?!女子が男子寮に来るとかどうなってんだ?!とパニクりつつも
「…ハリエット、なぜ男子寮に?」
と落ち着いている風を装った声で返事をすると、ハリエットは答えた。
「殿下の婚約者ということで、私は特別に男子寮…ルイス殿下のお部屋に限れば訪れて良い…と、国王陛下からうかがいましたのでご挨拶にと…」
「あぁ、それならどうぞ…まだ散らかっておりますがお入りください」
俺が答えると、ハリエットはメイドを伴って静かに部屋に入ってきた。
「ルイス殿下、これから三年間の学生生活、どうかよろしくお願い致します」
ハリエットはそう言って完璧な礼をした。
すると俺の横にいたレイズは、俺より一歩前に出て
「よろしくね、ハリエット。僕はルイスの親友…マッコール公爵家次男のレイズだよ。レイズって呼んでね!」
と気さくに話しかけて、ハリエットに向かってにかっといたずらっ子っぽく笑った。
ハリエットは大きな目をまたたかせた後、目元をくしゃっとさせて笑った。
「ルイス殿下の婚約者のハリエットでございます。よろしくお願い致します、レイズ様」
え?今の笑い方って、ユウヤに似てないか?!
いやいや誰でもめいっぱい笑えばあんな感じの笑い方になるよな…とぐるぐる考えているうちに、ハリエットはしずしずと退室していった。
レイズがにやにやしながら寄ってきて俺の耳元で
「あの笑い方、ユウヤに似てたね」
とささやいた。
…マジか…?
やっとゲーム本編の学生生活が始まります。




