8-3 sideレイズ(マユ)
ルイスがうまいこと言ってくれたおかげで、アンリエッタのご両親は私たちの婚約を認めてくれることになった。
そして、私がマッコール公爵と二人で決めた善き日に、ラモー一家がマッコール家に来てくれることになり、あとはマッコール家での話し合いをするだけ…という流れになって、私はほっとした。
この週末にラモー一家が私の実家マッコール公爵家に来てくれることになったのが決まると、アンリエッタがハリエットに何やら相談を持ちかけていた。
「ハリエット様の礼はとても美しいので、できれば私にもお教え願えませんか?」
アンリエッタがハリエットに頼むと、
「もちろんですわ!マッコール公を感心させるほど美しい礼を身に着けて、マッコール家に参りましょう」
ハリエットも快諾してくれて、学園のいつもの私たちの部屋で教えてくれることになった。
「あごは引きすぎてはいけませんわ」
ハリエットはこと細かくアンリエッタに指導をした。
「はいっ…」
アンリエッタがハリエットの言うとおりにすると、
「スカートの裾はもう少し上の方でつまむのですわ。マッコール家に嫁ぎましたら、貴族のパーティに参加することもありますもの。パーティでは丈の長いドレスを着用いたしますので、もう少し上の方をつまみませんと、ただドレスの裾を引きずるだけになってしまいますわ」
続けてハリエットが説明する。
「はいっ!」
アンリエッタはまた、ハリエットの言うとおりにスカートの裾をつまむ。
「ドレスをそのようにつまむと、足元も少し見えるようになりますので、足の形も重要になりますわ。このように右足を少し引いて、つま先は少し外に向け、左足はつま先をまっすぐに、そして両膝を同時にゆっくりと曲げてくださいませ」
ハリエットの言葉通りにアンリエッタは必死に動く。
「そうですわ。その一連の動きをゆっくりと優雅に…」
アンリエッタの動きは硬くて、人形みたいだ。
それでもアンリエッタは何とか食らいついて頑張っていた。
「はい、かなりご上達なさいましたわね。あとはドレスを着て練習なされば、さらに感覚がつかめてきますわよ」
ハリエットはにっこりと笑い、アンリエッタははあーっとため息をついて脱力した。
「アンリエッタ、大丈夫?」
と私が尋ねると、
「…けっこう…筋肉にききますわ…」
アンリエッタは疲れた顔でそう言った。
なので私は
「ドレスは?丈の長いのって持ってる?」
と聞いてみた。
「一応…貴族様御用達のお店で作ってもらいましたけど…」
アンリエッタが不安そうに言うので、私も心配になってきた。
ハリエットがアンリエッタに尋ねた。
「今日これからアンリエッタ様のおうちにお伺いしてもよろしくて?」
「え…今日これから…でございますか?」
アンリエッタが首をかしげていると
「ええ。ドレスを着た状態で、今お教えした動きがスムーズにできるかどうか拝見したいですわ」
ハリエットはそう言ってほほえんだ。
…ハリエットが鬼教官に見える…
アンリエッタんちに行くと、アンリエッタのご両親はまたおどおどしていた。
「ルイス殿下のご婚約者様までいらっしゃるとは…」
「いきなりお伺いして申し訳ございませんわ。私、アンリエッタ様の友人として、マッコール家にてアンリエッタ様が恥ずかしい思いをなさらないため、お力になりたいのです」
ハリエットが完璧な礼をしてそう言うと、
「ルイス殿下のご婚約者様が…」
「アンリエッタを友人…と…」
ラモー夫妻は感動にうち震えた。
そんなラモー夫妻を尻目に、
「さあ、ドレスをお召しになってくださいね。私の侍女がお手伝いしますわ」
と、ハリエットは侍女さんと一緒にアンリエッタの部屋に入って行った。
私は今は男の子だからアンリエッタの部屋には入れなくて、応接室でお茶とお菓子を頂きながらしばらくの間待っていた。
三十分ぐらいして、アンリエッタは普通の私服に着替えて、ハリエットと侍女さんといっしょに戻ってきた。
「お待たせいたしました。アンリエッタ様はもう、どこに出しても恥ずかしくない淑女の礼をマスターなさいましたわ!」
やり切った感いっぱいという感じの満足そうなハリエットだったけど、その後ろのアンリエッタは疲れ切ってげっそりとした顔をしていた。
淑女って大変なんだな~…
今世では男の子の私は、他人ごとのようにそう考えて
「お疲れ様…」
とアンリエッタをねぎらった。
今日は手の動きが悪くて間違っては直しを繰り返しました。ドラクエのやりすぎでしょうか?←




