第5章:名声の芽生え
魔力回復速度の改変に成功して以来、僕は様々なクエストに挑戦していった。
ゴブリン討伐、コボルト討伐、そして大型の魔物退治。僕は常に「鑑定改変」を駆使した。
例えば、凶暴なオーガとの戦闘では、オーガの「攻撃力」を「0」に改変した。すると、巨大な体で襲いかかってきたオーガは、まるで無力な赤子のように、僕の小さな剣の一撃で倒れていった。
それはまさに、一方的な戦いだった。僕の力を目の当たりにした冒険者仲間たちは、僕を「改変の魔術師」と呼び、畏敬の念を抱くようになった。僕の名声は、瞬く間に近隣の町にも知れ渡っていった。
ある日、ギルドに一人の女性が訪れた。見慣れない聖女のローブを纏ったその女性は、僕を見つけると、信じられないものを見るかのように目を大きく見開いた。
「佐久間さん……?」
それは、リリア・フォルティアだった。
彼女は僕に近づいてきて、おずおずと口を開いた。
「あの、佐久間さん。まさか、あなたがこんなところで……。勇者パーティーで、あなたが追放されたと聞いた時は、本当に……」
彼女の言葉に、僕は冷たく突き放した。
「今さら何の用ですか。あなたたちは、僕を裏切った。もう、あなたたちとは関係ありません」
リリアは顔を曇らせた。彼女は勇者パーティーの内紛、特にカイルの横暴に悩んでいるようだった。僕に謝罪をしようとしているのは明らかだったが、僕の心は、まだそれを許すほど寛大ではなかった。一度壊れた信頼は、そう簡単に元には戻らない。
その頃、僕のいる町に大規模な魔物の襲撃が迫っているという情報が入った。町の防壁は老朽化が進んでおり、このままでは町が壊滅する恐れがある。
僕は町の責任者に申し出た。
「僕が、防壁を強化します」
周囲の冒険者や住民たちが驚く中、僕は能力を発動した。町の外壁の「防御力」を「無限」に改変する。
すると、石造りの防壁が、まるで生きているかのように輝きを放ち、見る見るうちに硬度を増していく。押し寄せてきた魔物の群れは、その強固な防壁に阻まれ、一歩も町に侵入することができなかった。
僕は町を救ったのだ。住民たちは僕を英雄と讃え、その歓声は、僕の心に温かいものを灯した。僕を追放したカイルは、今頃何をしているだろうか。彼への対抗心が、僕の中で一層強くなった。
その夜、町の上空に、不気味な黒い影が姿を現した。それは、魔王軍の幹部らしき魔族だった。魔族は僕の姿を見下ろし、不気味な笑みを浮かべた。
「ほう、面白い力を持つ人間がいるものだ。勇者ごときが束になっても敵わない、なかなかの器だ」
魔族はそう告げると、闇の中に消えていった。
物語に、暗雲が立ち込め始める。僕の名声は広がり、そして、魔王軍の脅威が、僕のすぐそこまで迫ってきていることを、僕は肌で感じていた。