第3章:裏切りと追放
大規模な魔物討伐任務が言い渡された日のことだった。王都の北に位置する「嘆きの森」で、異常繁殖したオークの群れを掃討するという任務だ。パーティーは森の奥へと進んでいく。
不意に、カイルが立ち止まった。
「佐久間、お前はここで待機しろ。僕たちがオークを誘い出すから、お前は後方で援護射撃だ」
僕は戸惑った。僕の能力では、援護射撃などできるはずがない。鑑定しかできないのだから。
「でも、僕には……」
「うるさい! 僕の指示に従え! それができないなら、このパーティーには不要だ」
カイルは有無を言わさぬ口調でそう言い放ち、ミリアとリリアを連れて森の奥へと進んでいった。
僕は言われるがままにその場に留まった。しかし、しばらくして、周囲から異様な数の魔獣の気配が迫ってくるのを感じた。オークだけではない、リザードマンやコボルトまでが混じっている。
カイルは、僕を囮にしたのだ。
「そんな……!」
僕は絶望した。パーティーに必要とされないどころか、使い捨ての駒として扱われたのだ。背後から、凶暴な魔獣の咆哮が聞こえてくる。
僕は慌てて逃げ出した。必死に森の中を駆け抜け、振り返ると、そこには血走った目で僕を追う魔獣の群れがいた。そして、その向こうには、僕を置き去りにしたカイルたちの姿が見えた。リリアが一瞬、僕の方を見たように感じたが、すぐにカイルに引っ張られ、彼らも僕から遠ざかっていく。
「お前みたいな無能は必要ない! そこで野垂れ死ね!」
カイルの嘲笑が、森にこだました。
僕はもう、限界だった。足はもつれ、転んでしまう。迫りくる魔獣の影が、僕の視界を覆う。
「ああ、まただ……また、僕は一人で死んでいくのか……」
転生前の過労死の記憶が、鮮明に蘇った。あの時と同じだ。誰も助けてくれない。誰も僕を必要としない。
死を覚悟した瞬間、僕の体から、尋常ではない熱が湧き上がった。頭の中に、何かが弾けるような感覚。
「僕を捨てた奴らを見返す……! こんなところで、死んでたまるか……!」
強い怒りと、生への執着が、僕の心を支配した。その瞬間、「鑑定改変」の能力が、本当の意味で覚醒した。
目の前に、襲いかかってくるリザードマンのステータスが表示される。
リザードマン。生命力:100。攻撃力:50。
僕は、自分のステータスを確認した。
佐久間蓮司。生命力:5。
絶望的に少ない。だが、僕は改変する。自分の「生命力」を「1000」に。
途方もない魔力消費だった。だが、今の僕には、死への恐怖と怒りが、その魔力を生み出す原動力となっていた。体が熱くなり、力が全身に満ち渡る。リザードマンの爪が僕の肌を切り裂くが、信じられないことに、全く痛くない。傷は瞬く間に塞がっていく。
次に、僕はリザードマンの「攻撃力」を「0」に改変した。一瞬で、目の前の魔獣は力を失い、ただの置き物のようにその場に倒れ込んだ。
僕は震える手で、近くに落ちていた木の棒を拾い上げた。
木の棒。攻撃力:1。
「攻撃力」を「100」に改変。木の棒が、まるで聖剣のように輝きを放つ。僕はその棒で、次々と襲いかかってくる魔獣たちを打ちのめしていった。魔力消費は激しいが、それでも、僕の能力は、確実に魔獣たちを無力化していく。
すべての魔獣を倒し終えた時、僕は力尽きてその場に倒れ込んだ。だが、僕の心には、絶望ではなく、確かな決意が宿っていた。
「見てろ、カイル。ミリア。リリア。お前ら全員、僕を追放したことを、後悔させてやる……!」
能力の研究を始めよう。この力の真の可能性を引き出し、僕を捨てた奴らに「ざまあ」を食らわせてやる。改変の幅が魔力次第で無限に広がることを、僕は直感していた。