94話:計画再始動! ‥‥の前に。
本日から追加ストーリーに入ります。
それと同時に、大変申し訳ないのですが、執筆時間確保のため、稿頻度を二日に一度に変更させていただきます。(投稿時間は変わりません)
「たった今から、調査員会議を始める!!!」
リーベルのその一声から”調査員ごっこ”が始める。
シリウスは相変わらず乗り気で、「イェッサー」と元気に返した。しかし、わたしはまだ慣れていなくて、「イェッ‥‥サー?」とぎこちない感じになってしまう。
「今回の議題はこれからの調査方針だ!」
お遊びのように思えるこの調査員ごっこだが、意外と内容はしっかりとしている。
わたしたちの計画は新たな段階へと進んだ。
”魔王復活”。この言葉の意味が少し変わったことで、この計画の方針も少し変化することになる。
「ミリア調査員! 今、我らが成すべきことをまとめるのだ!」
うわ、こっちに来てしまった。最初はシリウスでいいだろ。
「え、えっと‥‥とりあえず、魔王の残滓集めは継続していくべきだ」
「ふむ。そ、そうだな! それがいい!」
本当に分かってるのかリーベルは‥‥‥
「ディアベルが言っていたが、恐らく魔王の残滓はまだある。ハッキリ言って、魔王の残滓は危険因子だ。だから、それをわたしが回収しなければならない」
そう、わたしだけが魔王の残滓の器になれる。
誰かが魔王の残滓で悪だくみをする前に、わたしが魔王の残滓を手に入れて正しく使ってやらないといけない。
これがセルシエルとの誓いである以上、絶対だ。
「‥‥‥」
リーベルが無言で見つめてくる。
‥‥ん? 何か期待されているような気がする。
「‥‥あ、あぁ。え、えっと‥‥サー」
「うむ!」
なんだこれ。
「上官! 報告があります!」
「なんだ!」
「じゃん!!!」
シリウスはわざわざ自分で効果音を付け足して、わたしたちの目の前に”何か”を差し出す。
「こ、これは‥‥!!!」
これ‥‥
「<影収集機>‥‥で、あります!」
そう言うシリウスの手には、以前の<影収集機>よりも更に薄型になった新たな<影収集機>があった。
「直したのか?」
「そうだよ‥‥そうであります」
いや、わたしにその喋り方をする必要はないだろ。
そう思っていると、シリウスは思考を読んで察したのか、口調を一時的に戻した。
「まぁ、ケガレちゃんに壊されちゃったけど、ボクにかかれば直すことなんて簡単さ」
「うぅ‥‥ごめん」
「あはは、別にいいよ。むしろ、いろいろと機能を付け足せたからね」
‥‥機能。
なんだろう。嫌な予感しかしない。
「前回のが<影収集機ver.2>だったわけだから、今回は<影収集機ver.3>‥‥いや、もはや<影収集機MASTEREDITON>だね」
なんというか‥‥魔道具の性能は置いておいて、ネーミングに関しては終わっていると思う。
マスターエディション? なんだそれ。
「つまり、完成形ってことだよ」
「はぁ‥‥そう」
「かっこいい!!!」
シリウスは「しかも」と言って、一枚に重ねていた<影収集機>をトランプのようにずらして、三枚にする。
「なんと、今回は三人分作ったよ」
「それって‥‥」
リーベルが期待の眼差しをシリウスに注ぐ。すると、シリウスは「うん」と言って、<影収集機>を一枚リーベルに渡した。
「やったぁ!!!」
リーベルは童心を取り戻したのか、いやもとから童心なのか、とにかく喜びを体全身で表現した。
「三枚もいるのか?」
「まぁ、<影収集機>には連絡機能があるからね。普通に便利だろう?」
「確かに。別に、わたしはリーベルが喜んでるならなんでもいいけど‥‥‥」
「ふ~ん」
コホンッ!
少し、いやかなり話がズレた。
とりあえず、リーベルは喜びの余り調査員ごっこをしていたことを忘れているようだから、これからの方針について今一度整理しよう。
魔王の残滓探しは継続するとして‥‥
個人的には悪魔と天使が仲良くなれるようにしたい。
わたしがその旨を伝えると、シリウスが突っ込んでくる。
「それは構わないけど、残念ながら500年以上続いているこの現状をボクたちだけで変えるのは不可能に近い」
「それはそうだが‥‥このままにしていい理由にはならない」
「じゃあ、どうするの?」
リーベルにそう聞かれても、正直答えに困る。
悪魔と天使が仲良くなんて、そもそも問題が抽象的すぎる。具体的にどうすれば悪魔と天使が仲直りできたというのかはよく分からない。
ただ、いろいろとややこしい部分はあるにしても、結局のところ、悪魔と天使がしていることは”喧嘩”だ。つまり‥‥‥
「お互いに、謝ることができれば」
「ごめんなさい?」
「そう、ごめんなさい。今の悪魔と天使は、そもそもお互いに謝罪できるような関係にない。だから、せめてそこさえどうにかできれば、活路は導き出せるはずだ」
「つまり、天魔仲良し計画だね!」
まぁ、そういうことになる。
仲良し計画と簡単には言ったものの、具体的にどうするかは追々決めていくということでいいだろう。
「あとは‥‥‥」
「ん? まだあるのかい?」
そう、まだある。
そして、今そのことについて考えたから、シリウスは察したようで少し苦い顔をした。
「勇者を蘇らせる」
「‥‥はぁ、本当にいいのかい?」
シリウスがそう聞いてくるのは、勇者復活計画こそがシリウスの本来の計画であり、その計画にわたしたちを利用していたからだ。
だから、今のシリウスにとってはあまり気乗りしないのだろう。
「別に、利用していたとかいなかったとか、そういうのはもうどうでもいい。シリウス、お前もわたしたちと同じ”調査員”なら、お前の望みはわたしたちの計画の一部ということになる。だろ?」
「‥‥はいはい、そういうことでいいよ」
シリウスは突き放すように言ったが、その顔には微かな笑みが滲んでいた。
「よ~し! 決まったね! じゃあ、早速実行しよ!」
少し気の早いリーベルに手を掴まれて、外へ連れ出されそうになる。
正直、ここ最近いろいろとありすぎて疲れているんだが‥‥せめて一日ぐらいは休ませてほしい。
「まぁまぁリーベルちゃん」
その時、シリウスがわたしの気持ちを察したのかリーベルを止める。
「ここ最近忙しかったし、疲れたんじゃないのかい?」
「う~ん? そんなに?」
なんだこの体力バケモンは。
「ケガレちゃんは?」
「‥‥疲れた」
この疲れを無視するとぶっ壊れてしまいそうだから正直に答える。
「‥‥そうなの?」
リーベルが心配そうに見てきた。そして、暫く悩んだように片手で頭を掻くと「じゃあ、私も疲れた」と言った。
「よぉし! そんな疲れたお二人に朗報だ」
シリウスはそう言って、また何かを差し出してくる。
「次はなんだ?」
シリウスが持っているもの。これまたペラペラとしたものだが、<影収集機>ではなく普通の紙? チケット? 的なものだった。
「温泉旅行券だよ」
「温泉旅行券?」
「そう。ここ最近魔道具用の材料を買いまくってたからね。それで手に入れた福引チケットで回したら、なんと、じゃん! というわけさ」
福引‥‥あぁ、あれか。最近やってるなとは思っていたが。
あれ、当たるものなのか?
というか、シリウスは真理の瞳を持っているから、それを使えば‥‥‥ま、まさか。
「ちょっと~、そんなわけないだろう? ボクは賢いけど、ズルくはないんだ。普通に運が良かっただけだよ。ただね―――」
シリウスは先ほどと同様に、一枚に重なっている温泉旅行券をズラした。すると、五枚の温泉旅行券が見える。
「なんと、五人分あるんだよ。ボクたちが行くとしても二人分余ってしまう」
「なるほど‥‥誰を誘うかってことか」
「その通り」
二人‥‥か。
グレイアとロリエルを誘うか? いや、あの二人は忙しいし、来れるか分からない。
じゃあ、アリシアとフェシアさんか‥‥う~ん、あの二人も忙しいな。
ん? 待てよ。
そういえば、少し前にやったあのパーティで誘えなかった二人がいるな。
「ディアベルとアーデウスでも誘うか」
「わぁ、それがいいよ絶対」
うん、そうだな。そうしよう。
「あ‥‥でも、どうやって地獄に行こう」
リーベルがそう言うように、確かにディアベル無しでわたしたちが地獄へ行く方法はない。―――以前なら。
「ふっふっふ」
「どうしたのミリア?」
「見てろ」
わたしはパチンッと指を鳴らす。
=地獄の影=
すると、影のように黒い炎‥‥しかし、熱を持たない不思議な黒炎が円形に広がっていく。
そして、完全に円を形作った時、円の中心が開く。
「これって‥‥」
「そう、地獄の穴だ。ディアベルがやっていたのと同じ」
「わぁ、できるようになったの?」
そう、以前のわたしはまだ地獄の影の使い方に慣れていなくてできなかったが、ここ数日あるていど練習を重ねたことでできるようになった。
わたしは成長しているのだ。
「確かに成長しているね。<影収集機>もケガレちゃんには反応していないようだし」
そういえば確かに。
夢の中で魔王も言っていたが、この影にわたしが支配された時、魔王の記憶が完全にわたしの魂を乗っ取ってしまう‥‥つまり、わたしは死ぬということだ。
少し恐ろしいように聞こえるが、魔王自体そんなことは望んでいないらしい。もちろん、わたしも嫌だ。
少なくとも今は<影収集機>がわたしに反応していないから、影はわたしの中に納まってくれているのだろう。
「そうだね。もし、また<影収集機>がケガレちゃんに反応するようなことがあればすぐに言うように」
シリウスにそう釘を打たれて、再びこの影の危険性を確認する。
そして、シリウスはまだ研究があるからと言って、わたしたちを見送った。
わたしたちは地獄へ着いた。
より詳細に言うと、地獄の”アーデウスの領地”に着いた。
ディアベルはどこにいるのかよく分からないが、アーデウスに関しては絶対にここにいるだろう。そして、アーデウスを見つければ、芋づる式にディアベルも見つかるだろうということだ。
わたしたちはアーデウスが経営している、いわゆる”そういうお店”に着く。
‥‥別に、リーベルとそういうことをするわけじゃない。
「どうしたのミリア?」
「‥‥なんでもない」
というか、そもそもリーベルはそういうことをする前に知識が無さ過ぎるし‥‥あの時も―――
‥‥って! わたしは何を考えてるんだ。
「とりあえず、中に入るか」
そうして、わたしたちは店の中に入った。
ただ、そこで違和感に気付く。‥‥誰もいない。
アーデウスの店はかなり人気のはずだ。以前訪れた時は、女性客で賑わいまくっていた。
にも関わらず、今日はがらんどう‥‥ただ一人だけ、カウンターにはあの悪魔がいた。
「今日はお休みで~す。迷惑なので帰ってくださ~い」
休みなのなら、どうしてこのカウンターの悪魔はここにいるのか。
カウンターにいるから”カウンターの悪魔”というだけで、別にカウンターにいないといけないわけではないと思うが。
にしてもこの悪魔、相変わらず爪を見ていてわたしたちに気付かない。
わたしたちはカウンターの悪魔を無視して進むと、そこで「あのぅ!」と強めに止められる。
「だから迷惑なので、帰って‥‥‥」
そこでようやく顔を上げて、わたしたちに気付いた。
「‥‥なぁんて、そんなわけないじゃないですか~」
‥‥? どうしたんだ急に。
「なぁんだ。お二人ですか~。言ってくださいよも~」
「とりあえず、アーデウスに会いに来た」
「はぁ~い。‥‥え~っと、今日はその~」
カウンターの悪魔は辺りを注意深く確認しながらわたしの耳に口を近づけると「ディ、ディアベルさんは?」と聞いてきた。
「いない」
そう答えると、カウンターの悪魔は安心して溜息を吐いた。
そして、アーデウスの部屋の鍵を渡してくれたので、わたしたちはアーデウスの部屋に向かう。
アーデウスの部屋に入ると、そこにはアーデウスがいた。しかし‥‥‥
「ふへ、ふへへ。ディア。ディアディア~。ふへへ。‥‥うわぁ~ん!!!」
‥‥情緒がおかしい。
 




