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93話:魔王復活計画

 次の日、ついにお楽しみのパーティが始まった。


「おーほほほほほ!!! 見てくださいこちら、扇を新調したのですわ~~」

「おや、そうなんだね。でも、どこが変わったのかボクの眼でも全く分からないよ」


「アリシア、あまり食べ過ぎないでください。スイーツの食べ過ぎは体に毒です」

「うんうん、そうだね。はい、あ~ん」


 各々が楽しんでいき、パーティは盛り上がる。


 とりあえず、アリシアとフェシアさんの時間が空いていてよかった。せっかくだから、他にも誘いたい人‥‥いや、悪魔たちがいたが、生憎ディアベルとアーデウスは地獄にいる。

 地獄の影で地獄の穴を開くこともできたかもしれないが、まだ使いこなせていない。もう少し練習が必要だ。


 その時、会場の中心に天界の門が開いて、その中からグレイアが出てきた。


「お嬢様、ロリエル様をお連れしました」


 そう言うと、後ろから少し気まずそうなロリエルが顔を出す。


「お、お久しぶり~‥‥ですの」


 数日前に会ったばかりだから、それほど久しぶりというわけでもないはずだ。だから、ロリエルの気まずい雰囲気が余計に伝わってくる。


 それもそうだ。

 ロリエルにはかなり迷惑をかけた。途中、グランシエルから理不尽な判決を受けてしまって、天使のことを悪く言ってしまったし、ディアベルと友達なことも黙っていたし、なんなら止めようとしてくれたロリエルを振り払ってわたしは勇魔戦争跡地に行ってしまった。

 それ以外にも多くの迷惑をかけてしまった。


「ロリエル」

「ミ、ミリちゃん‥‥‥」

「ごめんなさい」

「‥‥え?」


 わたしは素直に謝ることにした。

 いや、素直かは分からないが、こういう時は謝るべきだ。それで許されるかは置いといて、謝るべきだとグレイアに教わった。


「本当はわたしがしてしまったこと全部並べて謝罪するべきだが‥‥とにかく、ごめんなさい」


 そう言って、深く頭を下げた。

 ただ、これはロリエルが天使、それも熾天使だからじゃない。そして、わたしが公爵令嬢だからでもない。

 身分なんて関係なく、ただミリアとしてロリエルに謝っているんだ。


「わたしは‥‥気付いたんだ。天使とか、悪魔とか、人間とか‥‥他にも魔物みたいな多くの種族が世界にいる。それら皆が平等とは言わずとも、せめて素直に謝ることができるくらいにはお互いの壁が薄くあってほしい」

「ミリちゃん‥‥‥」


 天使だから敬うべきとか、悪魔だから恐ろしいとか、そういうのは抜きにして素直になれることが大事なのだと思う。


「いろいろ迷惑はかけたことは謝る。ただ‥‥知ってほしい。ロリエルがわたしが魔王の魔力を持っていても”良い子”だって言ってくれたように、悪魔だって昔に罪を犯してしまっただけの”良い子”なんだって、知ってほしいんだ」

「‥‥‥‥」

「あ‥‥ごめん。なんだか、論点がずれた。今はただ謝るべきなのに」


 少し感情的になってしまって、話がおかしな方向に飛んでしまった。それに、言ってることの内容が少し恥ずかしい。

 わたしはいい加減下げていた頭を上げて恥ずかしさを消すように頭を掻く。


「え、えっと‥‥‥」


 謝るのが下手くそなわたしは、それ以上喋ることが思いつかなくて、更に頭を掻くスピードを速くした。


「ミリちゃん」


 会話の糸が切れそうになっていた時、ロリエルが糸の端を掴むように架け橋になってくれる。


「あたちも、そう思いますの。悪魔だって、良い子がいるって信じたいんですの。でも‥‥‥」

「でも?」

「でも、現状では難しいんですの。悪魔が悪いんじゃなくて、あたちたちが悪いんですの」

「どういうことだ‥‥?」

「天魔人条約」


 ロリエルはその単語を口にした。


「これは、悪魔たちが人間に干渉できないようにした上で、天使たちが人間を支配できるようにした‥‥天使にだけ都合の良いものなんですの」

「ロリエル様‥‥」

「いいんですの」


 止めようとするグレイアを振り払って、ロリエルは―――頭を下げた。


「ロ、ロリエル!?」

「ごめなさい‥‥ですの」


 突然の謝罪に驚きが隠せない。


 正直、天使自ら”天使は人間を支配していた”なんてことを聞くとは思っていなかった。

 シリウスの言う、天使は人間を支配しているなんてものは、妄言のようにしか聞こえなかったが、ロリエルが言うと強い確信をもたらしてくる。


 ロリエルは確かに正直者だ。嘘をつくことなんてありえない。

 だからと言って、明らかに天使が不利になるようなことは言わないだろう。それ自体、悪いことじゃない。

 誰にだって隠したいことの一つや二つはあるものだ。それの規模がどれだけ大きかろうと、嘘をつくからこそ守られるものだってある。

 実際、わたしはロリエルに守られていた。


 それに、こんなことをわたしたちに言ってくれたということは、それだけ信頼してくれたということなのだろう。


「‥‥ロリエル、頭を上げて」


 わたしがそう言っても、ロリエルは頭を上げない。だから、わたしは屈んで下からロリエルを覗き込んだ。


「あたち‥‥悪い子ね」

「そんなことない。だから、顔を上げて」


 そう言うと、ようやくロリエルは頭を上げた。


「正直に言うと、”加護”なんて聞こえをよくしただけで、悪魔の”契約”となんら変わらないんですの」

「‥‥そう」

「あたち、ミリちゃんたちを支配してたんですの」


 だからと、ロリエルは「ごめんなさい」と言ってまた頭を下げようとしてしまう。

 わたしはロリエルの方を掴んで、頭を下げさせないようにした。


「それならよかった」

「‥‥?」

「ずっと守ってくれてたのは知ってたから。支配って、そういう意味でしょ?」


 操るという意味の支配じゃなくて、守るという意味の支配。


「あたちは‥‥‥」

「ロリエルがしてくれたことは、そういうことだから。それに―――」


 決めたんだ。

 ようやく決めることができた。


「わたしは、そういう世界を望んでいる」

「‥‥?」

「今、ロリエルが謝ってくれたように、種族なんて関係なく謝れる世界を創りたい」


 そうだ。そういう世界。

 そして、わたしはその架け橋となる。


「わたしは、”魔王になる”」


 わたしがそう言った瞬間、会場全体が凍り付くのが嫌でも分かる。その原因は、いろいろは説明を省きすぎたからだ。だから、付け加える。


「全ての種族の架け橋になれるような、そんな存在になる。それこそが、新しい魔王という存在なんだって証明してみせる」


 そうだ。

 もともと、魔王だって”全てを支配する災厄”という意味じゃない。ただ、少し間違った方法を取ってしまったから、本来の目的を達成できなかっただけだ。

 だから、わたしはその反省を、この魂に刻まれた無念を取り払う為に全ての種族の架け橋になる。そして、魔王という言葉が”全ての架け橋”という意味だと言うことを、皆に知らせる。


「だから、終わってない。まだ、”計画”は――――【魔王復活計画】は終わってなんかいない」


 わたしは拳を強く握って、天井に、更にその奥にある天界に、更に更にその奥にあるまだ見知らぬ世界にも見えるように掲げた。


「ミリア!!」


 その時、強く呼ばれる名前と共に、リーベルが突進してきた。

 抱き締められそうで少し身構えたが、リーベルはわたしの隣に並ぶと、わたしと同じように拳を遥か空に掲げた。


「それ、私もやる!」

「え?」

「私も、魔王を復活させる! その新しい魔王!」


 相変わらず爛漫とした笑顔、そしてそこから放たれる強い意志に驚かされる。


「そうだな‥‥うん。わたしも一人じゃ無理だ!」


 リーベルにつられて、少し声が張ってしまったが、まぁいい。


 その時、後ろの方から愉快そうな笑い声が聞こえてくる。


「あははははは!!! いいね! そうじゃなきゃ」


 シリウスは大げさに手を叩いて、パンッと手を閉じると、そのままこちらに歩み寄ってくる。


「もちろん、計画の発案者であるボクが仲間外れ、なんてことはないだろう?」

「当たりま‥‥」

「当たり前だよ!!!」


 リーベルに言おうとしたことを遮られて、少し調子が崩れる。


「やったぁ! また計画ができるよ!」


 どうやら、それが嬉しくてたまらないようだった。


 まぁ、そうだな‥‥わたしもそうだ。

 だから、これを決意することができて良かったと思う。


 そんな風に思って、天真爛漫なリーベルに笑みが零れた。


「‥‥うん、なれますの。絶対に、新しい魔王さん」


 そのあとは、とにかくパーティを楽しむことだけに専念した。

 やっぱり、時間というものは不思議だ。数日前の戦いはありえないほど長く感じたのに、このパーティはあまりにも刹那だった。


 もっとパーティをしたいという気持ちはあったが、それに体が追いつかなかった。

 スイーツを食べ過ぎてお腹がはち切れそうだ。

 踊るのも疲れた。音楽が頭の中で響き続けている。


 ―――パーティは終わった。これ以上ない、最高のパーティだった。




 * * *




「もう、行ってしまうのか」


 パーティが終わったその日には、わたしたちは既に帰る準備を整えていた。

 グレイアは馬車を用意すると言ってくれたが、もう夜遅いし、シリウスの転移魔法があるから大丈夫と断った。

 ただ、わたしたちは”とある言葉”を言う為、わざわざこうやって別れの場を設けている。


 そして、ランタノイド邸の巨大な庭を抜けた先の門で、わたしたち三人は多くの人に見送られている。


「‥‥お父様、ごめんなさい」


 別れを惜しんでいるお父様に謝罪する。

 これだけ心配させて、その上でもうお別れなんて、わたしはなんて親不孝ものなのだろうか。そんなことをつくづく思うが、お父様はいつだってわたしを責めなかった。


「どうして謝るんだ」

「それは‥‥‥」


 お父様を独りにしてしまうから。

 ただ一人の家族であるわたしがこの家にいなかったら、お父様は寂しくなってしまうから。


「―――わたしは、思うのだ。お前が幸せなら、なんだっていいのだと」


 お父様の静かな声が、夜風に乗って届く。


「だから、一つだけ約束をしてくれ」

「約束‥‥?」

「何があろうと、幸せになれ。少なくとも、それだけは絶対だ。お前が幸せじゃないことだけは、絶対に許さん」


 お父様は、過保護だと思う。

 ただ、それぐらいがわたしには丁度いいのだ。それぐらいの方が、甘えん坊のわたしには‥‥‥


 わたしは足を少し踏み込んで、走り出した。

 そして、お父様の胸に飛び込む。


「‥‥お父様」

「どうした」

「わたしは、必ず幸せになります。それに―――」


 わたしはお父様に見せるように、片手をリーベルとシリウスの方へ差し出した。


「わたしは‥‥自分の幸せを見つけましたから」

「‥‥そうか。それならいい」


 そんなこんなをしていると、シリウスから「そろそろ行くよ」と言われてしまった。

 これ以上別れに時間を掛けるのは、悲しくなってしまう。それに、永遠に別れるわけじゃないのだから、ここで別れを使い過ぎるのはもったいない。


 わたしはシリウスの展開した魔法陣のもとへ行き、もう一度お父様たちがいる方を見る。


「お嬢様、行ってらっしゃいませ」

「気を付けるんだぞ、ミリア」

「ミリア様、また会いましょう、ですわ~」

「またね、アミリアスちゃん‥‥って、私たちも王都に帰るよね?」

「しっ、ですアリシア。とにかく‥‥ミリアさん、また会いましょう」


 皆がそれぞれ別れの挨拶を済ませる中、ぐっと拳を腰元で握っていたロリエルが、満開の笑顔を向けた。




「ミリちゃ~~~~ん!!!! 絶対に、新しい魔王さんになるんですの!!!!」




 ひと際大きな別れの挨拶をするロリエルにグッドマークを差し出して、もちろんだ、と伝える。


「じゃあ‥‥さようならじゃない‥‥そう、”またね”! ‥‥だな」




 * * *




「‥‥ふわぁ、落ち着くぅ~」


 ぽちゃん、と湯舟に浸かったリーベルが情けない声を出す。


「リーベル、わたしも入るから少し避けて」

「う、うん」


 半ば強引にわたしも湯舟に入って、リーベルと同じく情けない声を出す。


「ふわぁ‥‥」

「‥‥‥」


 リーベルが珍しく大人しい。そして、静かにわたしを見ている。

 なんだか、見たことある光景だ。


「‥‥なに」


 そう聞いてみると、リーベルは静かに口を開いた。


「いやぁ‥‥私たち、しちゃったんだね‥‥ちゅう」

「‥‥‥」


 どうして今それを言うんだか‥‥やめてほしい。

 丁度いい温かさのお風呂が、熱くなってしまうだろ。


「なによ‥‥」

「ちゅうしたら、友達じゃなくなっちゃうのかな?」

「はぁ?」

「‥‥そうだとしたら、ちょっと悲しいね」


 意味の分からないことを言うリーベルは、のぼせているのか、少し変だ。

 まぁ、まだ湯舟に浸かって数分すら経っていないから、のぼせているわけないが。

 じゃあ、リーベルが変だ。


「なによ‥‥嫌だったの? ‥‥キス」

「‥‥ううん」


 リーベルは首を横に振りながらそう言った。


「じゃあ‥‥する? ちゅう」

「‥‥‥」


 わたしは静かに首を縦に振った。

 すると、リーベルが近づいてくる。

 湯舟に小さな波が立って、リーベルの位置を伝えてくる。


 唇に柔らかいものが触れた。

 この時、酷く心臓が震えている。ただ、心地良いのだ。


 ――――バンッ!


 その時、お風呂場と脱衣所を隔てる布が強く払われた。

 ちなみに、バンッという音は、お風呂場に入って来た誰かが言ったものだ。


「じゃじゃ~ん、ボク登場っと。‥‥なんだい、なにか文句でも?」

「‥‥ある」

「‥‥そう。まぁ、ボクには関係ないけどね」


 こいつ、真理の瞳を使えばわたしたちが何していたのか分かるはずなのに、どうしてわざわざこういうことを‥‥ちっ。


「いや、もうわざわざケガレちゃんの動向を伺う必要はないからね。というか、プライベートを知られるのは誰だって嫌だろう? ‥‥ただ‥‥まぁ、そうだね。うん‥‥‥」


 シリウスは珍しく、いやもう珍しいのかはよく分からないが、動揺していた。


「‥‥とにかく、まぁ‥‥おめでとうとだけ言っておくよ」

「‥‥何言ってるんだお前」


 わたしがそう言うと、シリウスは誤魔化すように笑顔を作る。そして、シャワーで軽く体を洗うと、無理やり湯舟に入って来た。


「わぁ、狭いよぉ」

「ちょ、馬鹿。少しは湯舟の狭さを考えろ」

「まぁまぁ、頑張れば大丈夫だよ」


 二人入るだけでもぎゅうぎゅうになる湯舟に、三人で入ってお互いに押し合いっこされながらのお風呂が始まる。

 せっかくお風呂で一息つけると思っていたのに、全部シリウスのせいで台無しだ。


 ‥‥まぁ、いいか。


 そんな風に思ってしまうほど、わたしはこの生活を気に入っていた。


「あぁもう! 狭~い!!!」

今回の話で、本編は完結となります。

ここまで読んでいただけたことがとっても嬉しいです。本作に登場したキャラだったり、いろんなキャラの関係性だったりで、一つでも好きだと感じていただけたら幸いです。


次回からは番外編に入ります。(四話あります)

具体的には、グラトニス、アーデウス、ディアベル、あと一人は‥‥内緒です。とにかく、この順番で投稿する予定です。(投稿時間は変わりません)


そして、その番外編も終わったあとはどうなるのかということに関しては、一応続きがあります。

ただ、第二部というよりは、アフターストーリー的な部分が強いです。新キャラなどは登場するのですが、長さでいうと本編の半分もないと思います。(前後するかもしれませんが、30話ほどを予定しています)

内容としては、ディアベルとアーデウスのその後であったり、地獄の世界観の深堀だったり‥‥本編では語り切れていない部分についての深堀がメインです。


もし、本作を気に入って、これからのミリアたちが気になると思っていただけたら、追加ストーリーの方もよろしくお願いします。

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