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7話:エルフの里

 魔王を復活させるとはいえ、元々決めていたエルフを故郷に帰すということは変わらない。


 わたしとエルフはシリウスの転移魔法でエルフの里近くにやって来ていた。


 エルフの里に向かいながら、シリウスが無理やり渡してきたこの<影収集機>を観察していた。ただの薄い板にしか見えないそれには様々な機能が付いているらしい。

 そして、わたしは何故シリウスがこんなものを渡してきたのかを思い返す。


『ケガレちゃんにしてほしいことは、その<影収集機>で魔王の残滓を集めるということ』

『魔王の残滓?』

『そう、魔王の残滓は‥‥まぁ、言ってしまえば魔王の魔力のこと。500年前、魔王が勇者に倒された後、魔王のその強大な力は消えることなく世界に散らばった。魔王の魔力はあまりに強すぎたがために、”塊”として残った。というわけさ』

『それで、その魔王の残滓とやらはどこにある?』

『それはボクにも分からないさぁ‥‥けど、ハッキリと言えることが一つある。魔王の残滓についてよく知っているのは、魔王と最も近かった者たち。そう、魔王軍幹部、四魔将たちに聞くのが一番‥‥だね』


 魔王軍幹部、四魔将。生きているのかすら怪しいと思うが‥‥そもそも、シリウスが魔王に関してやけに詳しいのは、彼女が魔王の研究ばかりをしていたからなのか、それとも別の理由があるのか‥‥わたしにも分からない。


 何せ、彼女はわたしと初めて会った日からあまり自分のことを話さない。かく言うわたしも、あまり自分のことを話さなかったから、わたしとシリウスは長いこと一緒にいる割にはお互いのことを殆ど知らない。


 そんなことを考えながら歩いていると、エルフが突然前を指さした。


「ミリア! 着いたよ」


 エルフが指さす方向を見ると、静かな森の中にドッシリと構えた木製の外壁が見えた。外壁の上端にはトゲが付いており、侵入者を許さない構造になっている。


 道なりに進んでいくと、外壁の間に門があり、門の両隣には門番らしきエルフが槍を縦に構えた状態でわたしたちのことを見ていた。


「止まれ、何者だ」


 門番たちはわたしたちに槍を向けて足を止めさせた。

 門番たちはわたしが人間だと分かると、険しい顔でわたしを見つめる。普通に考えて、嫌いな人間が何食わぬ顔で里に現れたらそういう反応にもなるだろう。


 門番たちは親の仇でも現れたかのようにわたしを見ると、今度はこちらに聞こえないような声量でコソコソと話し始めた。何を言っているのかは聞こえないが、ちょくちょくこちらを見ては、またコソコソ話し始めたりと、何だか悪口を言われているような気がする。


 暫くそんな状況が続いた後、今度はわたしの隣にいるエルフに目を向けた。


 まぁ、わたしだけでは里に入れるとは思っていなかったし、彼女にどうにか説得してもらうしかないだろうという端から投げやりな感じではある。


 彼女がどうにかしてくれるだろうと思っていた次の瞬間―――


「「うぇ!?」」


 門番たちは目を丸くして、言葉にもなっていないような声を零した。

 その後、わたしたちに何かを言うこともなく、慌てふためいた様子で里の中に走って行ってしまった。


 何をそんなに慌てて‥‥‥


 どうしようもできないので暫く待っていると、里の中から里のまとめ役らしき長老が現れ、わたしたちを里の中に招待した。


 長老はわたしたちを長老の家に迎え入れると、そのまま通路を進み、応接間へと案内した。


 わたしたちと長老で向かい合うようにして座った後、長老は侍女に茶を用意させた。茶が人数分用意された後、長老はようやく話し始めた。


「よくぞ帰られました。王女様」


 王女様? 誰のことを言って‥‥まさか‥‥‥

 隣を見ると、エルフが照れくさそうに頭を掻いている。


「お前‥‥王女だったのか」

「う、うん‥‥そうなの。えへへ、ミリア‥‥驚いた?」


 そんなの驚くに決まっている。

 彼女が王女なのだとしたら、なぜ奴隷になっていた? 魔物とはいえ、エルフは比較的大きな種族だ。その王女ともあろう者が、そう簡単に人間に掴まって奴隷になるなんてありえるのだろうか?


 疑問は残るが、ただ彼女が注意力散漫なだけかもしれない。


「王女様、そちらの方は?」

「えっと‥‥こっちはミリア。私のことを助けてくれたの。あと‥‥わ、私の‥‥お友達‥‥‥」


 エルフは恥ずかしそうにそう答えた。


 驚いた。まさか彼女の中でわたしがその”お友達”とやらになっていたとは‥‥いや、それについてはどうでもいい。


「そうでございましたか、王女様のご友人様、わたくし、名を‥‥‥」

「長老様。わたしは王女様をこちらにお連れに参りましただけですので、そのように形式的なご挨拶はおやめください」


 少し、自分を偽った。と言っても、初対面なら違和感を持たれない程度には慣れている。

 こういうのは社交辞令というやつで、少し面倒くさいが大事なことだ。まぁ、彼らと仲良くするつもりはないから、どちらかと言えば突き放すような感じではある。


 わたしの丁寧な立ち振る舞いに長老は少し驚いていたようだが、そのまま話を続けた。


「かしこまりました、ミリア様。王女様を助けていただいたこと感謝いたします」

「えぇ、ではわたしはこれでお暇させてもらいます」


 これだけで会話が終わった。短すぎると思うかもしれないが、そもそも人間であるわたしがエルフの里に居座ること自体あまり良い事ではないだろう。それに、長居し過ぎると余計な問題が出てくる可能性がある。


 わたしが長老の家を離れ、そのまま里から出ようとすると、その後ろをエルフが小走りで追いかけてきた。


「ミリア、もう行っちゃうの? その‥‥もう少し、遊んでいかない?」


 エルフは視線を少し下に逸らし、手を後ろで結び、足を交差させながらわたしがもう暫くこの場に留まることを期待していた。しかし、わたしがこれ以上この場にいる必要はない。何故なら、わたしと彼女は友達ではない。―――主人と奴隷だ。


 わたしと彼女がそれについてどう思っているかは関係ない。この世の全ての事象は個人の意思が尊重されることはなく、行動と結果だけが意味を成す。

 わたしは彼女を買った。それがわたしの行動であり、それによって生じた結果だ。


「”王女様”、申し訳ありません。わたしはこの後、所用の為、戻らなければなりません。王女様が故郷にお帰りになられることができ、わたしも嬉しく思います」

「ミ、ミリア‥‥?」

「では、わたしはこれで」


 わざと彼女を王女と呼んだ。彼女がそう呼ばれることを望んでいないのは分かっている。だが、彼女がこれ以上わたしと干渉することは避けなければならない。わたしと一緒にいたところで、ろくなことにならない。


 彼女の瞳がまた暗くなった。それを見ると、もう少し一緒にいてあげた方がいいのかもしれないと思うが、そんな風に思うのは傲慢というものだ。


「じゃ、じゃあ‥‥またね‥‥ミリア」


 静かに手を振る彼女は、わたしの目を見ようとすらしなかった。

 その”またね”という言葉の意味をわたしは知っているが、恐らくもう会うことはないだろう。




 * * *




 用事を終え、里から出た瞬間‥‥‥


 ――――リリリリリリリリリリリリン!!!


 <影収集機>が突然なり始めた。


 な、何!?


「あーー、あーー、聞こえてる? ケガレちゃん?」


 シリウス? <影収集機>を通して話しかけてきてる? こんな機能までついてたのか。

 声の振動を風に通して音を飛ばす魔法?


「惜しいね。音を飛ばすっていう部分は合ってるけど、風魔法は使ってないよ。そうだねぇ‥‥仕組みは、声の波を魔法で微量な電気に変換して飛ばすんだよ‥‥それで」

「そういうのはいいから、あとこんな遠くから思考を読むな」

「‥‥そう、まぁいいや。ところでケガレちゃん。伝えたいことがあるんだけどぉ‥‥今、エルフの里にいるだろう? 実はそこから魔王の残滓を検出してね。ほら、影収集機のメーターを見て、反応してるよね?」


 <影収集機>の下の方についてあるメーターを見ると、確かに針が少し揺れていた。


「確かに、反応ある」

「なら良かった。じゃ、後はよろしくねぇ~」

「‥‥え?」


 カチャッという音と共に、通信が切れた。


 シ、シリウスのやつ、わたしに全部丸投げしやがった‥‥‥

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