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6話:魔王復活計画

 リーベ‥‥エルフを救出した後、わたしとエルフはシリウスの家に戻った。

 道中、彼女は不安なのか、わたしの手を握り続けていた。何度も「ミリア‥‥ミリア」とわたしの名前を呼び続けていたが、名前を呼ぶだけで何か話題があるわけでもなく、ただそんな彼女を見ていた。


「おや、お帰りケガレちゃん」

「あぁ‥‥ただいま」


 シリウスは笑顔でわたしを迎え入れた。エルフを助けに行く前の笑顔で塗り固めたような顔ではなく、影のない、普通の笑顔で。

 わたしを迎え入れた後、シリウスはすぐに作業に戻った。


「あの‥‥それは、何をしてるの?」

「‥‥んぅ?」


 シリウスの作業が気になったのか、エルフはシリウスの隣に立つと、シリウスの手先にある不思議な魔道具を見つめた。


「あぁ、これね。これはボクの”計画”のための魔道具で‥‥その名も<影収集機>だよ」


 そう言ってシリウスが見せてきたものは、ただの薄い板だった。

 影収集機? この薄い板みたいなものが? サイズも小さいし、収集機という割には収集した物を保管する場所もない。


「影‥‥? 影って‥‥この影?」


 エルフは地面に映る自分の影を指さした。


「う~ん、少し違うんだけど‥‥まぁ、それはケガレちゃんがよく知ってるだろうね」

「わたし? 別にわたしはお前の研究に何か手を貸したことはないが」

「影‥‥ほら、キミが操るその”影”のことさ」


 わたしの”影”? 闇魔法で出してる触手のことか? 

 あぁ、そうか。元々シリウスがわたしをこの家に置かせてくれているのは、この”影”に興味を持ったからか。


「そう、その通り。相変わらずケガレちゃんは頭の中で考えることが多いから、いちいち話さなくていいのは楽でいいよ」

「あんな魔法‥‥私、あんなの見たことない。炎でも、水でも、風でも、土でもない‥‥‥」

「そうだろう! キミも気になるだろう? ケガレちゃんの魔法‥‥その名も”闇魔法”。何を言おうと‥‥あの”魔王”が使っていたとされる魔法だよ」

「ま、魔王!?」


 その名が出てきた瞬間、エルフは目を見開いて、口を手で押さえながら時が止まったかのように固まった。


「そ、それで‥‥シリウスさんの言う、計画って何なんですか?」

「そうだねぇ‥‥そろそろいい頃合いだし、ケガレちゃん、キミの為でもあるしね」

「わたし?」

「そう、だってキミ‥‥困っているだろう? お・か・ね」


 ‥‥うぐっ、それは言わないで欲しかった。

 エルフはあの時それほど余裕が無かったようだし、自分がどれぐらいの値段で買われたのかなんて知らないだろうが‥‥いくら最高位冒険者としてかなり稼いだわたしでも、10億は‥‥高い。というか、全財産だ。


「それに、ケガレちゃん。冒険者協会から追放されたんだろう?」


 次々とシリウスの口からわたしの急所を突くよう言葉が発せられる。


「どうして知ってるんだ‥‥‥」

「そんなの、わざわざ思考を読まなくてもすっかり噂になっているさ。ケガレちゃんの収入源は冒険者。それを失ったということは、キミは今無職ということだ。まぁ、とにかく今のケガレちゃんには、収入源が必要というわけさ。だから、ボクの計画を手伝う代わりにボクがケガレちゃんにお金を渡す。どうだい? 悪くない話だろう?」


 確かに収入は必要だ。シリウスが保証してくれているのも、あくまで衣食住のうちの住だけだ。着るものや、食べるものに関しては自分で稼がないといけない。


「分かった。計画を手伝う。それで? その計画っていうのは何なんだ?」


 シリウスはその言葉を待っていたかのように突然立ち上がった。



「魔王を復活させる!!!」



 シリウスは拳を握りしめながら強い意志を示した。それはまさに暗躍する魔女そのものだ。

 そんなシリウスを見たわたしたちは「‥‥は?」「‥‥え?」とお互いに見つめ合いながら頭に疑問符を浮かべる。シリウスが言っていることは虚言にしか聞こえなかったのだ。


「な、何言って‥‥」

「ま、魔王を復活させる?! そんなやつを蘇らせたら、世界が滅んじゃう!!」


 エルフが言うことは最もだ。500年前の文献ではあるが、魔王は世界最強の存在と言われている。


 自由自在に武器を生み出す。

 魔力だけでほとんどの種族を圧倒する。

 死者すら蘇らせる。


 こんな逸話はざらにある。その異常性から、少なくとも現代で最強格とされる熾天使‥‥いや、それ以上の強さを持っていたと考える者もいるぐらいだ。

 何より、かつて何万種類といたとされる”種族”が、魔王によって支配され”魔物”というたった一つの種族の統一されたという事実がある。

 そんなやつを蘇らせることは‥‥文字通り、世界の破滅だ。


「世界の破滅‥‥? いやいや、ボクからしてみれば、このままの方が‥‥滅んじゃうけどね。世界」


 そんなわたしとエルフの考えをシリウスは真っ向から否定した。

 まるで世界が滅ぶ原因が魔王以外にあるとでも言いたげなシリウスは、続けて自論を展開する。


「現代において、人間たちは平和を貪っている。まるで、自分たちがこの世界を支配しているとでも思っているようだろう?」

「事実、その通りだ。今、世界の資源を最も多く使っているのは人間だし、そう考えるのは普通だろ?」

「そう‥‥なら、どうして人間の貴族たちは皆、天使を崇拝しているんだい?」


 まるで天使を悪だとでも言いたげなシリウスは、わたしの言う”常識”を、彼女自身の”非常識”で塗り替えてくる。


「どうしてそこで天使が出てくるんだ」

「どうしてって、そんなの、天使が黒幕だからに決まっているだろう?」


 シリウスの極端な考えに溜息が出る。しかし、シリウスはそんなわたしを無視して更に話を続けた。


「人間は例外なく天使を崇拝している。まるで天使が神かのように‥‥あぁ、おかしな話だね。今回の拉致だって、それを裏で操っていたのは貴族の皮を被った天使だ」

「そんなの憶測だろう」


 わたしがそう指摘した瞬間、シリウスは突然前かがみになってわたしの目を覗き込むように、その碧眼を重ねてくる。


「ケガレちゃん」


 真の通った声でわたしのあだ名を言うシリウスに固唾を飲んだ。


「まさか、ボクがあの土足で家に入って来た無礼者たちをただで帰したとでも思っているのかい?」

「はぁ?」

「全部ね、視えてるんだよ。ケガレちゃんの蹂躙も、その後の出来事も」


 何か含みのある言い方をするシリウスに、その心の内が分からなくなってくる。

 シリウスは両手を広げて、まるで革命家ごっこでもしているかのように、続けて天使という存在がこれから人間にどういった影響を与えるのかを説明し始める。


「このまま天使を放置してしまえば、ボクたち人間は天使の傀儡になってしまう。そんなの‥‥くだらない。だからボクはね、魔王の”全ての種族を統一する”という考えに賛成なんだ。魔物が下位種族で、人間が中位種族、そして天使が上位種族なんていうつまらない世界を、もう一度魔王に正してもらう。これ以上に素晴らしい計画はないだろう?」


 シリウスは息を漏らしながらこちらが理解するよりも前に、通り過ぎる風の如く猛スピードで計画を話した。

 少しして、息を切らしたシリウスは机に置いていた水を少量飲み、再び椅子に座った。


「それで‥‥協力してくれるかい? ケガレちゃん」


 手をこちらに差し伸べて協力者を求めるシリウスに、そこでようやく自分が意味の分からない計画に引き入れられそうになっていることに気付く。


 魔王の復活‥‥それが正しいのかは分からない‥‥


 わたしが返事に悩んでいると、シリウスはもう一つ付け加えた。


「もし、魔王を復活‥‥いや、魔王の謎を突き止めれば、どうしてケガレちゃんがその魔法を持っているのかも分かるかもしれない。それに、ケガレちゃん。もうこれ以上キミが人間の味方をする必要が、いったいどこにあると言うんだい?」


 シリウスの悪魔のような囁きが、わたしの心を突き動かす。


 ‥‥そうだ。どうしてわたしがあんな奴らの味方をしなきゃいけない? 一度もわたしを必要としなかったくせに、わたしを勝手に迫害して、”ケガレつき”にした。

 わたしの中に魔王がいるわけでもない。それでも、わたしを”ケガレ”と呼ぶのなら、それらしく振舞っても誰も文句は言えない。



 わたしが魔王を復活させても誰も文句言うまい。



「いいだろう。わたしも、丁度魔王にお前のせいでわたしの人生散々だ! って言ってやりたいところだった」


 シリウスから差し伸べられた手を握らず、わたしは腕を組んだままその提案をのんだ。


「あはっ、ケガレちゃんならそう言ってくれるって信じてたよぉ~」


 正直、わざわざ客観視しなくても、今わたしとシリウスはかなり悪い奴に見える。いや、それが事実かもしれない。

 もちろん、そんなわたしたちはエルフの目には悪者のように映っていた。


「ど、どうして二人共そんな悪い人みたいになってるの~!」

次回から第二章に入ります!


続きが気になる! と思っていただけたら、ブックマークをしてもらえると嬉しいです。


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