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62話:ギルドボス

「よーよー! やーやーやー!」


 その少女は椅子を回して姿を現すと、そのまま椅子の上に立って敬礼のポーズをしながらゴーグルを通してこちらを見ている。


「さーさー、どちらさん!」

「え? いや‥‥‥」

「あーあー! そーそー! 自己紹介! あたいはミカ! ここでギルドボスをしているーーーーよ!」


 椅子の上に立って、椅子を一緒にクルクルと回りながら、ミカという名の少女は妙に声を伸ばしてそう言う。

 その時、椅子を勢いよく回しすぎて、その勢いに振り回されて椅子から転げ落ちる。


「「あ!」」とわたしとリーベル二人が同じ反応をして、ミカは空中に放り投げられた。


「あーあー! まーーずい!」


 本当にまずいと思っているのか‥‥

 そう思いつつも、触手を出してミカを助けようとする。しかし、わたしが助けるよりも先に、わたしたちをこの場に連れて来た受付嬢がミカを受け止めた。


「はぁ‥‥少しは大人しくできないんですか? いつまで子どものつもりですかミカ」


 襟を掴まれて、子猫のように運ばれると、受付嬢はミカを椅子に座らせた。

 そうして、ようやく落ち着いたミカは目に掛けていたゴーグルを上げて、こちらをまじまじと見る。


「さーさー! おーおー! これはーーーーーー!!! だれー?」


 いや、知らないんかい。


「え、えっと‥‥初めまして、わたしはミリア。こちらは‥‥‥」

「やーやー! 私の名前はーーーーー! リーーーー‥‥‥」


 息が続くまで終わらなさそうな伸ばし棒に呆れて、わたしはリーベルを横肘で小突いて終わらせる。


「ベルです」


 そう、それでいい。


 にしても、まさかギルドボスがこんな少女だったとは‥‥‥


 わたしが想像していた筋骨隆々の巨漢ではなく、ギルドボスはわたしより少し大きい程度の少女だった。この言い方だと、まるでわたしがとても小さいみたいに聞こえるが、誰も文句は言うまい。

 そんなことはどうでもよく、ギルドボスはひまわりのように黄色い髪と、これまたひまわりのようにオレンジ色の瞳をした、もうひまわりの擬人化のような人物だ。この騒がしい口調が更に拍車をかけている。


「えーえー! ミリアーーーーと、リーーーーーーーーーーーーーー」

「リーベルです」


 ほら、こうなった。わたしですら意味の分からないぐらい伸ばされるのに、リーーーーーーなんて言ったら、それこそ”ベル”が行方不明になってしまう。

 そのことに今更気付いたのか、リーベルは恥ずかしそうに訂正した。


「はぁ、話になりませんよミカ。いい加減普通に喋ってもらってもいいですか?」

「えーえー?」


 毒舌な受付嬢に観念したのか、ミカは落ち着いた様子で話し始めた。


「えーさぁさぁ。まぁ、その‥‥あー」


 突然語彙力が消失したミカにむしろこちらが困らせられる。

 そんな状況を見て受付嬢は軽く溜息をつくと、口元をミカの耳元に近づけ、手で隠しながらボソッと何かを言った。

 次の瞬間、ミカの顔つきが変わる。




「=跪け=」




 一言、たったそれだけの言葉が放たれる。

 その瞬間、全身が何かに掴まれたかのように動かない。

 膝が勝手に曲がっていく。必死に抵抗しようとするが、その度にわたしを掴む力が強くなり、それに抵抗する為に必要な力も増していく。

 膝が床につくと、次は頭が押さえつけられる。顔を上げられなくなってきて、それに抵抗するように首元に力を入れた。


 必死に顔を上げてミカを見ると、肘を肘掛けに置きながら頬杖をついてこちらを静かに見つめている。


 まるで試されているような気がする。それと同時に、突然意味の分からないことをされて、苛立ちが募っていく。


 クソが‥‥‥


 抵抗を続けることにした。

 どうして誰も何も言わずこんな失礼なことをしてくるのだろうか? こっちはただ冒険者辞めにきただけなのに。王が勝手にギルドナイトにしてきてイライラしている時なのに‥‥‥


 そっちがその気なら、こっちだってその気でいかせてもらう。


 全身に影を纏わせる。すると、全身に黒い靄がかかったかのように影で染まっていく。

 何をされたかは分からないが、これで抵抗できるようになる。

 影を纏うことで身体能力と魔法耐性を上げて、わたしは立ち上がった。


「次、こんな失礼なことをしたら、ぶっ潰すぞ」


 生意気なガキにそう言い放つ。


「ミリア、大丈夫?」


 隣でわたしを心配しているリーベルに対してもこんなことをして‥‥‥


「リーベルは大丈夫なのか?」

「え? 私は何もなかったけど‥‥ミリアが突然苦しそうにしゃがみだすから‥‥‥」


 わたしにしただけなのか?


「おーーーー!!!」


 心配そうな顔をするリーベルにこれまた心配しているわたしを邪魔するように、ミカの伸びた声が入り込んでくる。


「うんうん。合格ー!」


 突然訳の分からないことを言われて頭が割れてしまいそうだ。

 だが、合格という言葉を聞いて、やっぱり試されていたのかと納得する。いや、納得するのも何だか癪だが。


「で? 何がしたいんだ」


 せっかく丁寧な口調で話してあげていたのに、ミカの失礼な態度にわたしの口調は荒れる。


「私がミカにあなたたちが”ギルドナイト”であることを告げたのです」

「そーそー! 偽物じゃないかを確かめーるのは、こーれが一番だー!」


 なるほど。ギルドナイトであることを証明する天翼の紋章を見せたから、それを確かめる為にこんなことをしたのか。


「基準はー! そー! マリーー!」


 そう言いながら、ミカは隣にいる受付嬢を手を広げて紹介した。


「はぁ‥‥その子どものような紹介はやめてください。私はローズ。ただの受付嬢です」

「え? ローズ? マリー? どっち?」

「マリー!」

「ローズです」


 もうどちらなのかは分からなくなって、わたしもリーベルも頭を抱える。

 とりあえず、本人が言っているのだから、ローズと呼ぶことにして色々と話を続ける。


「とりあえず、こういうことは止めて欲しい」

「そーそー、りーりー。でもでも、すごー! だね」

「はぁ?」

「マリーは結構つよーだから。マリーが耐えられるぐらいで”命令”したのに、そっちのリーーベルは、簡単に耐えちゃったし。ミリアーも最初はダメーと思ったら、すげーことしたから、おっけー!」


 もう解読するのも面倒くさいが、多分このローズという受付嬢が耐えられるぐらいの力でわたしたちを試して、リーベルは耐えて、わたしも耐えられたから、合格ということだろう。

 リーベルが耐えられたのは、恐らく光属性が体から溢れる程の魔力を持っているから? かもしれないが、どうしてローズを基準にしたんだ? そうなると、本当に”ただの受付嬢”か怪しくなってくる。


「はぁ‥‥まぁいいや。とりあえず、そろそろ話を続けてもいいか?」

「おっけー!」


 わたしはミカに色々と話を始める。


「まず、わたしがここに来たのは、冒険者を辞めに来たから」

「えー? 辞めちゃうのー?」

「そう、辞める。その手続きをしに来た」

「おっけー」


 簡単に承諾するミカに、ローズが口を挟んだ。


「ミカ。彼女は最高位冒険者です。簡単に辞めさせてはいけません」

「え? ギルドボスなのにわたしが最高位冒険者であることを知らなかったのか?」


 更にわたしが口を挟むと、ローズはこちらを見てボソッと「ミカは全く覚えませんから」と愚痴を零した。


「それで、どうしてお辞めになるのですか?」


 そう聞かれて、わたしはギルドマスターに追放されたことを話した。もちろん、犯罪者扱いをされたことやその経緯までしっかりと話した。そのせいで、うちのところのギルドマスターがとてつもない悪人に仕上がっていったが、その通りなので問題ない。


 わたしが説明し終えると、ローズは「ちっ」と舌打ちをして、続けて「クソが」と不満を漏らした。


「はぁ‥‥とにかく、その報連相を知らないカスへの処遇は後で考えるとして、事情は分かりました。こちらにあなたの自由権利を奪うことはできないので、冒険者辞任に関してはこちらで処理をしておきます」


「ありがとう」と感謝したものの、普通は冒険者を辞めることにこんな時間は掛からない。だから、感謝はしたが、その言葉にはあまり気持ちはこもっていなかった。

 続けて、ギルドナイトになった経緯なども話しておいて、話は魔王の情報に関するものに変わる。


「王がギルドナイトであることを認めたのなら、情報を共有しましょう。ミカ」

「えー? おっけー、だけど。もう一人はどこー?」


 そういえばシリウスだけいないな。


「シリウスはあんまりこういう場所には顔を出さないから、とりあえずわたしたちだけでも‥‥‥」

「うーん。まーいーかー」


 その時――――


「大丈夫だよ。ボクもいるから」


 その言葉と共に現れたのはシリウスだ。

 シリウスは突然わたしたちの背後に現れると、わたしとリーベルの間に入って、それぞれの肩に手を置くと、そのまま引き寄せた。


「シリウス?」

「やぁ」

「やぁ、じゃない。来ないんじゃなかったのか?」

「いやぁ‥‥そうするつもりだったんだけど」


(彼女たち、ボクらをかなり警戒しているからね)


 シリウスは突然<影収集機>のイヤホン機能を使って、こんな近距離でコソコソ話を始めた。


「え?」


(しー、静かに。何が言いたいかというと、ミカ、彼女は口先では何も考えていないようだけど、あの力は危険な上に、意外と頭が回る。それに隣にいるローズという名の受付嬢。あっちはダメだね。慎重すぎて、さっきから考えていることと喋っていることが全く一致していない。このままじゃ情報の重要な部分を伏せられちゃうよ)


 シリウスにそう言われると、確かにローズは喋っていない時、常に何かを考えているようだった。まだ完全にこちらを信用してはいないのか。

 ギルドナイトになったからもう大丈夫かと思ったが、そうでもないのか。


(更に言うと、あのローズ。思考を読んだから分かったけど、彼女もギルドナイトだ。わざわざそれを伏せていたことを踏まえれば、もう分かるよね?)


 なるほど。確かに信用できない。

 もしこのまま不十分な情報を掴ませられると、そのせいでこちらが不利になる可能性がある。


(そう、その通り)


 そうして、シリウスを入れて話が始まった。


「あなた、シリウスですね」

「そうだよ」

「どうやってこちらに?」

「転移魔法だよ。というか、それでこの部屋に来たんだから、分かるだろう?」

「‥‥転移魔法。そんな正確にできるわけが‥‥‥」


 シリウスがとんでも発言をしたのか、ローズは少し頭を悩ませていた。

 その時、ミカが「マリー」と声を掛ける。


「おっけー。皆揃ったんだねー」

「そうだよ。それで、もう一度さっきの”無礼なこと”、ボクにもするかい?」


 珍しくシリウスの声は鋭かった。その眼で、ミカを強く睨み、脅すような勢いだ。


「いーや。別にー」

「そう。ならいいんだよ。これからはああいうことをしないようにね」


 そうして、話は進んでいく。

 その中で、一つミカは重要なことを話した。


「未開のダンジョン?」

「そー、ダンジョン。魔王と関係あるかは知らないーけど。最近の極秘調査で、やべーのがいたっていうのが分かったよー。まー、分かってるのはそれだけだけどー」

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