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61話:偽りの計画

 授与式が終わって、他の最高位冒険者たちは報酬を受け取るとぞろぞろ帰りだした。

 そんな中、わたしは王の間に残って、シリウスからの提案について考えていた。


 安全。それは何よりも優先されるべきものだ。

【魔王復活計画】。これ自体、別に問題はない。いや、あるかもしれないが、わたしとしては問題はないと考えている。そう言い切れるのは、この計画の発案者がシリウスだからだ。


 シリウスは確かにやばいやつだ。どうせ今こうやってわたしが考えているのも聞いているだろうから、しっかりと聞こえるように何回でも考えてやる。

 シリウス、お前はやばい。


「魔王を復活させる」なんて言っているやつ、どう考えても魔王軍側の人間の発言にしか思えない。

 だが、違う。シリウスは確かに人間だと思う。むしろ魔王軍とはかなり縁遠い存在のようにも思える。


 これは信頼じゃない。信頼じゃないが‥‥シリウスは、多分危険なことはしない。やばいやつかもしれないが、誰かが犠牲になるようなことだけは絶対にしない。

 これまでも、わたしが危険になるようなことがあれば必ず手を貸していた。偶に他人任せのように思えることもあるが、それでも見捨てるなんてことはしない。


 シリウスの行動の隅々には常に完璧があって、いつだって未来を見据えているからこそ、今を絶対に疎かにしない。

 もしかすれば、長いこと一緒にい過ぎたせいで変な勘違いをしているだけかもしれない。ただ、勘違いだとしても、わたしにこれだけ思わせる程、あいつの行動はあまりにも綺麗すぎる。だが、それは結果だけしか見ていない悪い魔女という意味ではなく、常に結果には過程が存在しているという、何よりも過程を大事にしている、そんなただの感情的な人間でしかない、という意味だ。


 マッドサイエンティストでも、悪の魔王軍幹部でもない限り、「結果だけが全てだ!」なんてことは言わない。いや、言えない。いざ犠牲が生まれた時に、きっと後悔するんだ。後悔しないやつは、ただのクズだ。

 少なくとも、シリウスはそんなやつの対極に位置する存在だと思う。


 そんなシリウスが考えた【魔王復活計画】だからこそ、きっとその先にあるのは破滅じゃない。


「王様」

「な、何だ‥‥何か用か‥‥?」

「わたし、ギルドナイトになります」


 だから、わたしはそう決めた。

 これが【魔王復活計画】に必要なことなら、それに協力することにした。


「‥‥な!? ほ、本当か!!」


 喜ぶ王に対して、「ただし」と言って条件を付け加える。


「わたしたちはとある”計画”を進めているので、あまりそれを邪魔しないようにしてもらいたいのです」

「計画? それはいったい何の計画だ」



「魔王復活”阻止”計画です」



 わたしはもったいぶって、そう言った。

 もちろん大嘘だが、流石にそのまま計画の内容を伝えるなんてことはしない。


「より詳細に言えば、わたしたちはこれから先、魔王がこの世界に残した様々な災厄がどのような悪影響をもたらすのかを調査して、最悪の結果、つまり魔王の復活を阻止することが目的なのです」


 シリウスから提案されたのは、この嘘だ。

【魔王復活計画】のことは勿論伏せて、偽の計画を伝える。そうして信頼を得ると同時に有力な情報を得られるようにするのだ。

 魔王がこれから与えるかもしれない影響を調査していると言えば、きっと王都が持っている魔王に関する極秘情報を教えてくれるだろう。そうすれば、より潤滑に本来の【魔王復活計画】を進められるという考えだ。


「‥‥なるほど。魔王、その名は500年経った今でも語り継がれる程のものだ。民の中にはそれがただの神話だと思っている者もいるが、確かに魔王は存在した。そういった文献が残っている」

「はい。ですので、これから先、それに類似した者が現れる可能性も否定できないのです。だからこそ、今の内からしっかりと調査をして対策をしておく。これが重要だと、わ、わたしたちのリーダー? のシリウスは考えています」

「あの者がか? 意外であるな。我にはあまりそのような者には見えぬかったが‥‥‥」

「ま、まぁシャイなだけで、実はそういう人なんですよ‥‥‥」


 大嘘も大嘘だが、まぁいい。


「分かった。それではアミリアス嬢。もとい、ミリアよ。其方と、弟子のリーベル、そしてリーダーであるシリウスはギルドナイトになることを認めてもよいのだな?」


 シリウスは問題ないとして、一応隣にいるリーベルの方を見る。

 リーベルはわたしが嘘をついていることに流石に気付いて‥‥いなかった。

 ギルドナイトになれることが相当嬉しいようで、先ほどから目を瞑り、頭の中でギルドナイトになった自分を思い描いているのか笑みが零れていた。


「リーベル」と軽く呼び掛けると、「なに?」と返事をする。そんなリーベルにギルドナイトになってもいいかを聞くと、物凄い勢いで首を何回も縦に振られた。


「では‥‥王様。わたしたち、これからギルドナイトとして、必ずや魔王の復活を阻止してみせます」

「うむ。その固い意志、我が見届けた。其方らをギルドナイトに任命しよう」


 そうして、大きな嘘の下、わたしたちはギルドナイトとなったのだった。


「それでは、早速ですが王様。何か魔王に関して情報を教えて下さりますか?」

「うむ‥‥と頷きたいところではあるが、残念ながら我はあまり詳しくはないのだ。知らぬわけではないが、恐らく説明とまではいかぬ。アミリアス嬢。其方は冒険者を辞めるつもりなのであろう?」

「はい」

「であれば、ついでにギルドボスに会ってきてはどうだ? ギルドボスであれば、そういった類の情報には詳しいはずだ」


 なるほど、王の言うことも一理どころか百理ある。専門的なことは専門家に聞くのが一番だろう。


 そうして、わたしたちは王城を出て、冒険者ギルドに向かうことにした。


「ねぇ、ミリア」

「何?」

「冒険者辞めちゃうの?」

「どうして?」

「だって、私も冒険者になろうかなって思ってたから」


 リーベルがそう言った瞬間、冒険者ギルドに向かっていたわたしの足が止まって、「は?」という純粋な疑問が零れる。


「ミリアを追放なんてした冒険者ギルドは嫌い‥‥だけど、私、ミリアとお揃いがいい」


 ‥‥リーベルは何を言っているんだか。

 リーベルを冒険者になんかさせるわけがない。あんな変な奴しかいない場所に放り込むなんてことはしたくなし、今も冒険者ギルドに連れて行くこと自体、あまり気乗りしていない。


「別に、わたしが辞めたらお揃いになる」


 だから、リーベルを説得するようにそう返した。


「うん!」


 元気な声を聞いて、正しい返事をできたと安心した。


 冒険者ギルドに着いた。

 わたしがいたところとは違って相変わらず綺麗なギルドだなと思いつつ、突然の笑い声がその感想を邪魔してきた。


「うぇ~い! 俺たち最高位冒険者だぜ~!」


 その発言から、あぁ‥‥と全てを納得する。

 きっと、招集命令に従って辺境から王都にやって来た冒険者がはっちゃけているのだろう。自分が最高位冒険者であることを自慢しまくって、お酒も入って気分は完全にハイ状態のようだ。


「おぉ~そこの受付嬢さん。かわいいね~、俺と一杯飲まない?」


 その調子に乗った最高位冒険者の誘いに一切見向きもせず淡々と作業を続ける受付嬢に、流石王都の受付嬢と感心する。

 にしても、この最高位冒険者‥‥正直、名前も顔も全く覚えていないし、そもそもドルマンが襲撃してきた時に何をしていたのかも知らないが、何となく引っ掛かる。


『おいおい、誰が貴族のお嬢ちゃんをここに呼んだんだよ』


 そんなことを言っていたやつな気がする。本当にそんな気がするだけだが。


「おいおい、無視すんなよ。な? 俺と一杯、いいだろう?」


 ジョッキを片手に、カウンターで黙々と作業を続ける受付嬢にナンパし続けるそいつに、そろそろ止めた方がいいか‥‥と、少し魔法を構える準備でもしようかと思ったその時‥‥‥


「つまらない」


 微かにそう聞こえた。


「あぁ?」

「つまらない、と申したのです。何度でも申しましょうか? つまらない、本当につまらないですよあなた」


 少し低い声で単調にそう言い放つのは、まさにナンパされている受付嬢だった。

 受付嬢はそのバラのように赤い髪の隙間から、これまたバラのようなピンク色の瞳でその最高位冒険者を睨みつけた。


「一杯、そのたった一杯だけで私はどうにもなりません。勘違いも甚だしいですよあなた。そもそも、私は自分よりも弱い者には興味ありません」


 その毒舌な受付嬢はカウンターから出てくると、自分よりも少し背の高いその最高位冒険者に対して、顎を突き出して見下した。


「はぁ? 何言ってるんだよ受付嬢さん。俺は最高位冒険者だぞ? 受付嬢より強いに決まってるだろう?」

「そういうところが、勘違い甚だしいと言っているのです。そんなことも言わなければ分かりませんか?」


 その毒舌な物言いに、最高位冒険者の怒りは頂点に達したのか、それともただお酒が入っているせいで怒りの沸点が低くなっているのかは分からないが、声を荒げながら暴れ出す。


「うるせぇ! 女のくせに、美人なら何言っても許してもらえると思うなよ!」


 あいつ‥‥女性相手に手を上げようと‥‥流石に止めるか。


 そう思った瞬間、その最高位冒険者が宙に舞う。

 突然の意味分からない状況に混乱したが、最高位冒険者の拳に対する受付嬢のいなし方があまりに綺麗すぎて、逆によく理解できる。


 伸ばされた手を軽く横に避け、そのまま顔の横にある腕を掴んだ後、足払いをする。

 そうして体勢を崩し、先ほど掴んだ腕を引っ張ると、最高位冒険者の体は空中で綺麗に半回転してそのまま地面に頭を打ち付ける。ただ、致命傷にならないようにか、受付嬢は腕を握ったまま多少なりとも手加減をしているように見えた。


 いや、何者?


「かっこいい~!」


 リーベルの感想に少しムスッとした。


「わたしもあれぐらいできる」

「?」


 そんなことはどうでもよく、もちろんこの最高位冒険者のこともどうでもいい。だから、わたしたちは地面に倒れたまま気絶しているそのアホを避けて受付嬢の前に立った。


「あの‥‥」

「はい。クエスト受注でしょうか?」


 先ほどとは違って、受付嬢らしい‥‥毒舌ではない喋り方に少し調子を崩されそうになる。


「いや、ギルドボスに会いに来て‥‥‥」


 わたしは天翼の勲章を軽く見せた。


「では、こちらに」


 受付嬢は片目でそれを見ると、二言返事でわたしたちを奥の部屋に連れて行った。

 そうして意外にもスムーズに着いた先の部屋は、扉の上部に子どものような字で「ギルドボスの部屋」と書いてあるのだから、多分ギルドボスがいるのだろう。


 扉が開かれる。

 最初に目に入ったのは、書斎とかにあるようなクルクルと回る黒い革の椅子の背もたれだった。


 キュキュキュ‥‥‥と、椅子が回る時の頭が回るような音がして、その椅子に座っている者が現れる。


 ギルドボス。いったいどんなやつなんだ。

 ちなみにわたしの中では、もうムキムキマッチョの巨漢しか思い浮かんでいない。多分、腕の太さだけでわたしのウエストぐらいはあるような人物を想像している。


 そんな人物を浮かべながらわたしは身構える。


 そして、ギルドボスが姿を見せた。




「よーよー! やーやーやー!」

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