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60話:心配と信頼

「頼む!!」


 グランシスタ王は土下座、は流石にしていないが、王という立場であるにも関わらず公爵令嬢であるわたしに頭を下げて必死にお願いをしている。


「どうか‥‥どうか! ギルドナイトになってくれないか!」


 続け様に王はそう言った。


 どうしてこのような状況になっているかというと、それは少し前に遡る。


 フェシアさんに挨拶する為に、聖女の部屋を訪れた。

 そして、何故かアリシアまで加わり、わたしたちは授与式が始まる前に王の間に向かって王に挨拶しようとしていたのだ。本来であれば‥‥‥


 アリシアによると、わたしとリーベル、もっと言えばシリウスまでもが、王によって勝手にギルドナイトというものになっていたというのだ。

 先日、わたしたちが王から貰った天使の翼の装飾がついた勲章こそが、そのギルドナイトの一員であることを示すものだった。しかし、わたしたちはそのことを説明されないまま、勝手にこの勲章を贈られてしまった。


 そのせいで、本来であれば王に挨拶するはずだったはずが、わたしは王の間に入って王と相まみえた瞬間、わたしはそのことについて王を問いただした。

 もちろん、王に無礼のないように怒りを抑えて、しかしその怒りが瞳をピクピクと微動させた状態で、王の目をしっかりと見て聞いたのだ。


 そうして、こうなった。


「王様? 別に、わたしはギルドナイトにしたことに怒っているのではありません。ただ‥‥‥”勝手に”、一切何の説明もせず、わたし‥‥ましてや、リーベルまでもを巻き込んで、そのようなものにしたことに怒っているのです」


 王に対して丁寧な言葉使いをしているつもりが、何故だか刺々しい言い方になっている。

 もうどうしようもない。実際、わたしは本当に怒っている。そして、怒らせたのは王だ。


「すまない! それについては事情があるのだ‥‥‥」

「はぁ‥‥事情? ですか?」

「あやつら! 全く我の言うことを聞かぬのだ!」


 王は切羽詰まった様子で、顔をしかめるわたしを説得するように言い放った。


「あやつらって、もしかして今のギルドナイトのこと?」


 わたしの後ろにいたアリシアが王にそう聞いた。

 王はアリシアがいることに気付いた瞬間、時が止まったかのように動かなくなり、自分の中で娘に恥ずかしいところを見られたと悔いているようだった。


 王は一度呼吸を落ち着かせ、椅子に座り直した後、静かに口を開いた。


「そうだ‥‥現在、ギルドナイトのメンバーは王都の最高位冒険者のみで構成されている。これは、我が王都の冒険者しかその実力を知らないからだ。もしかすれば、他の領地にもギルドナイトになれる実力を持った者がいるかもしれん。だが、我にはそれを知る術がない。冒険者を管理しているのは、我ではなく、ギルドボスだからだ」


 ギルドボス。またその名が出てきた。

 わたしは王都の冒険者ではないから、王都のギルドマスターを知らないが、何だか名前からは物凄いオーラを感じる。わたしの中ではムキムキなポーズを取っている巨漢が、そのギルドボスということになってしまって、もう他の姿を想像できなくなってしまった。


「だが! あやつら、我の言うことを何も聞かぬのだ!」


 王の言葉には怒りというスパイスが一振りされている。


「ギルドナイトのメンバーは今三人しかいないのにね」

「そうなのか?」

「そうだよ。そもそも王都の最高位冒険者は三人しかいないから。まぁ、それでも多い方なんだけど‥‥‥」


 アリシアの発言の後ろに、王が「そうだ」と言って話を続ける。


「たった三人だ。にも関わらず、誰も言うことを聞かぬ」

「は、はぁ‥‥そうですか」

「マルスは今回は来たと聞いておったのに、気付けば姿を消しておる。ギルドボスは王都に常駐しているというのに、今回の招集に応じなかった!」


 ‥‥ん?

 ギルドボス‥‥まさか冒険者もやっているのか? それも、最高位冒険者‥‥‥うちのギルドマスターとは大違いだな。


 優秀さが‥‥と、ボソッと思った。


 王がギルドナイトの面々に文句を垂れ流していると、わたしたちの眠気はどんどんと強くなっていく。


 ギルドナイトが全然言うこと聞かないのは分かったが、正直どうでもいい。

 そもそも冒険者ギルドは、”自由を求めて”、というスローガンを掲げており、それに従うように冒険者は自由人だ。特に最高位冒険者となれば、必然的にそうなってくる。わたしとシリウスが良い例だ。


「‥‥はぁ。王様、事情は分かりました。とりあえず、今回の招集命令に従ってくれたわたしたちであれば、ギルドナイトになっても信頼できる、ということですね?」

「うむ、そうだ」


 とまぁ、あたかもギルドナイトになってあげるような言い回しをしたが‥‥‥


「では、ギルドナイトのお話は無かったということで‥‥‥」

「な!? 何故だ!!」

「いえ‥‥そもそもリーベルはわたしの弟子というだけで、冒険者ではありません」

「それは問題ない。ギルドナイトというのは、我が何となく付けた名なのだ。つまり、端から冒険者しかなれぬというルールは存在せぬのだ」


 アリシアから聞いた情報と少し違っているような気もするが、王はルールを曲げてまでわたしたちをギルドナイトにしたいのか。

 今のギルドナイトはどれだけ自由人なんだか‥‥‥


「あと‥‥実は、わたしは近々冒険者を辞めるつもりなのです」

「‥‥は?」

「ということで、そのような危険なことからは身を引きたいのです」


 とは言っても、わたしはきっぱりと断る。

 今の王に「追放された」なんて言ったら、いよいよあのギルドマスターが殺されそうな上に、面倒くさいことになりそうだから、そのことは伏せておく。

 だが、嘘はついていない。冒険者を辞めるつもりというのは本当だ。何故と聞かれても、単に冒険者が嫌いだからとしか言えない。せっかく王都に来たのだから、しっかりとした手順で冒険者を辞めるつもりだ。


 王はそんなわたしに行き場の無い悲しみを向けてきたが、わたしが顔を背けると、その悲しみを今度は地面に向けた。

 そうして、王は普段の威風堂々な立ち振る舞いをどこかに忘れ、俯いたまま授与式が始まってしまうのだった。


 アリシアに続くように入って来た王族たちは、放心状態の王の隣に座っていく。以前であれば、王族全員が揃うというこの光景は、わたしでも圧倒される程の威圧感があった。しかし、今では一番威圧感のある王がこの状態であるために、全くその威圧感を感じない。


 次にわたし以外の最高位冒険者たちがぞろぞろと入って来る。

 普通に遅刻している者も多かったが、それについて叱ることができる者は、その場にはいなかった。


 次々に最高位冒険者たちの名前が呼ばれ、”特に何もしていない”という功労を称える言葉が付け加えられる。その後、フェシアさんが勲章を首にかけていった。


 無駄に人数が多く、最後の方のわたしたちまでは暫く時間が掛かる。


(いやぁ~、まだ終わらないのかい?)


「‥‥え!?」


 突然大声を出す。それは突然の出来事によって出されたものだった。


「ミリアさん? どうかしましたか?」

「え‥‥? あ、いや‥‥‥」

「ふふっ、アミリアスちゃん。そんなに早く勲章が欲しいのぉ?」


 違う。

 違うが、そうじゃない。


(随分と長いんだねぇ。やっぱりボクは参加しなくて、正解、だったね)


 今度は身構えていたから、驚いた声は出さなかった。


 突然頭の中によく知っている声が鳴り響く。

 この喋り方もそうだが、そもそもこういったことができるのは、シリウスだけだ。


(そうだよ、ボクだ)


 何してるんだ、シリウス‥‥‥というか、どうやって‥‥‥


(ボクは今、ケガレちゃんの脳内に直接話し掛けている)


 それは知ってる。どうやってるのか聞いてるんだ。


(そうだねぇ‥‥実は、<影収集機>に別の機能を搭載しておいたんだ)


 機能?


(そう。それも、イヤホン機能だよ)


 イヤ‥‥ホン‥‥って何だ。また知らない言葉が出てきた。


(まぁ、簡単に言えばケガレちゃんだけがボクの通信を聞けるようにする機能を搭載したんだよ。元々はボクの声を<影収集機>を通じて発信する。つまり、<影収集機>の周りにある空気を振動させて音を伝えている。だけど、この機能を使うと、空気を振動させるんじゃなくて、<影収集機>を持っているケガレちゃんの体内に循環する魔力を通じて耳元まで持っていってから、振動させる。すると、音の振動がケガレちゃんの耳辺りの骨に伝わって、ケガレちゃんだけがボクの声を聞くことができるんだ。骨伝導ってやつだよ)


 いや、それは知らないが‥‥まぁ、確かに便利ではある。

 それで、今こうやって会話してるのは、わたしの思考を読んでるのか?


(そうだね。もちろんそちらの音声も聞こえているから、普通に通話することもできるけど‥‥こっちの方が、秘密のお話をするのにはもってこいだからね。ボクしかできないけど)


 頭の中だけで会話するとか‥‥‥なんか嫌だ。


(それは、ボクとだからかい?)


 そう。


(あはは)


 ‥‥で、何の用だ。


(そうそう。ついさっきの、ギルドナイト、っていうのなんだけど‥‥‥)


 もちろん断った。


(なってみる、っていうのはどうだい?)


 は?


(う~んと‥‥ケガレちゃんが冒険者を辞めようと思っているのは構わないんだけど‥‥それだと、色々と面倒も増えちゃうよ?)


 面倒?


(そう。今のケガレちゃんの身分を証明できるものはギルドカードだけだからね。今は壊しちゃってるかもだけど、最悪再発行できる。身分証明できるものはとても大事だからね。これから先、色んな場所に行く時、おのずと必要になってくる)


 それもそうだが‥‥‥


(だからこそ、ギルドナイトになるんだ。王が言うには、冒険者じゃなくてもいいらしいからね。じゃあ、冒険者を辞めてギルドナイトになる。そうすれば、ケガレちゃんとリーベルちゃん、それにボクが持っているこの天翼の勲章‥‥‥あ、一昨日貰った勲章のことだよ。これがあれば、ボクたちはギルドナイトという身分を得る。これから先どこへ行こうにも、とても便利なものになるだろう。それに、聞いた感じギルドナイトは最高位冒険者よりも上の扱いみたいだからね。今回王都に入ろうとした時のように、特別な事情が無くても長蛇の列を並ぶことなく様々な領地に入ることもできるだろうし、ダンジョン探索の権利とかも簡単に手に入れられるだろう)


 シリウスはギルドナイトになることで手に入れられるメリットを多く提示してきた。

 確かに、その全てはとても魅力的なものだ。【魔王復活計画】にも大いに役立つことは分かる。分かる‥‥分かるが、もう面倒事はごめんだ。


(ケガレちゃんはリーベルちゃんのことが気掛かりかい?)


 え‥‥?


(人というものは、頭では考えているつもりはなくとも、その本心は現れるものだ。うっすらと、浮かんだんだろう? リーベルちゃんのこと)


 ‥‥‥


(図星だね。まぁ、分かるよ。ギルドナイトになって、ボクやケガレちゃんじゃないとできないような高難易度任務をリーベルちゃんがやることが不安なんだろう?)


 ‥‥そうよ。もしそれであの子が傷ついたらどうするのよ‥‥‥


(う~ん‥‥別に、リーベルちゃんはボクとケガレちゃんの子どもじゃないから、何とも言えないけど‥‥。そうだね、ボクから言えることは‥‥もっとリーベルちゃんを信頼してあげて、だけかな)


 ‥‥‥


(分かってるよ。心配と信頼が違うことぐらい。だからボクから追加で提案をしてあげよう。大サービスだよ)

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