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53話:落ちよ、稲光

 =ボルトヘイズ=


 火属性と雷属性の複合魔法。巨大な火球の周りを雷が走り抜ける。

 そして、フェシアは杖を振り抜き、その魔法をドルマンとその軍勢に向かって放った。


 火球は形を保ったまま移動する。そして、その火球からは雷が辺りの空気を切り裂くように走り抜けていた。


「な、何だ!?」


 ドルマンはフェシアにはもう何もできまいと思い上がり、フェシアが魔力覚醒を起こすことなど考えてもいなかった。いや、ドルマンはそもそも魔力覚醒など知らなかった。常に予想外の状況を考えていなかったドルマンという名ばかりの支配者の末路だ。


 ドオォォォォオン!!!


 火球はドルマンとその軍勢を燃やし尽くす。そして、畳み掛けるように燃えた体に雷が走り抜けた。雷は体内にまで到達し、その神経を狂わせる。

 外から火が焼き尽くし、中からは雷が走り抜ける。その威力は、ドルマンに死にも等しい苦しみを与え、ドルマンは悲鳴を上げた。


「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!」


 肌は焼けるように、いや焼けているから痛い。そして、感電しているせいで、思うように体も動かせない。地獄に堕ちてからもこのような苦しみを与えられることなど、ドルマンは全く予想していなかった。


「ふぅ‥‥ふぅ‥‥ふぅ‥‥」


 ドルマンは息を漏らしながら、地面に倒れ込む。門の方からその光景を見ていた王は、その魔法の衝撃に腰を抜かして驚愕していた。


(な、何という威力だ‥‥‥これは、まさか聖女の魔法? しかし、彼女が持っている魔力の属性は火ではなかったのか?)


 王の疑問も当然だった。通常、複数の属性を持つことは滅多に無い。稀に複数の属性を持った者が確認されることもあるが、そういった者は大抵魔物だった。人間、それも先天的なものではなく、後天的に属性が増えることなど、前例が無かった。

 しかし、王はこれまで読み漁ってきた古代の文書の内容を思い返す。

 大賢者、それが王の辿り着いたものだった。


(読んだことがある。大賢者に関する文書は数少ないが、唯一、勇者と行動していた時の記録が残っていた。確かその中には‥‥大賢者はこの世の全ての属性を扱っていた‥‥などという、信じ難い記録が残っていた)


 まさか、と王は片手で顔を覆った。変な汗が流れるが、フェシアが大賢者ではないことなど明白であった。しかし、王が冷静さを失う程、驚いたのは、フェシアがこれほどの才能を持っていたことだった。


「ははっ‥‥アリシア、まさかお前はこのことすら見通していたのか‥‥?」


 王は恐怖すら感じる。もちろん、アリシアが本当にフェシアの才能に気付いていたのかは分からない。だが、王にはアリシアが全て分かっていたかのように思えたのだ。魔法学会ですら気付かなかったフェシアという普通の魔法使い。それが、今や複数の属性を扱っている。もし、アリシアがこのことを見越してフェシアを推薦したのであれば、それこそアリシアの特異なまでの才能を見せつけられたということだ。


 カリスマ。それは、誰もを魅力させる才能。だが、それだけではない。他とは違う、圧倒的なセンスを持っているからこその、知識とは違う潜在的な感覚から見出される可能性の発掘。それこそが、アリシアの持っている才能だった。




 * * *




「いいね、見事」


 まさか魔力覚醒をこの眼で見れるなんてね。いやぁ、フェシアはとっても才能ある魔法使いのようだ。

 まぁ、才能があると言っても、才能があるから魔力覚醒したんじゃなくて、その才能を信じたからこそ魔力覚醒したんだけどね。それもこれも、彼女が強い心を持っていたから。

 だから、うん‥‥いいものを見せてもらった。


 その時、フェシアは全ての力を使い果たしたのかその場に倒れる。

 ボクはフェシアを支えた。


「よく頑張ったね」

「シリウス‥‥さん‥‥」

「さぁ、お眠り。今は休憩が必要だよ」


 ボクがそう言うと、フェシアは安心したように眠った。

 ボクはフェシアをその場に寝かせた後、ひょいっと城壁の上から飛び降りる。その時、箒がボクの元に駆けつけてボクはその箒を手に持ったままゆっくりと地面の上に足を着けた。


 まぁ、フェシアの魔法はとても素晴らしいものだったけど‥‥‥


 案の定、ドルマンとその軍勢はゆっくりと立ち上がる。


「ぐぬぬ‥‥クソが! だが‥‥この程度で倒れると思うなよ‥‥」


 まぁ、仕方ない。相手は魔王の残滓持ちだ。それに、今回の魔王の残滓はかなり厄介だからね。いくら所有者が弱いとはいえ、魔王の残滓が強すぎて全部帳消しになっている。

 さて、ケガレちゃんたちが着くのにも暫く時間が掛かるだろうし‥‥それに、幸い今回はディアベルちゃんがボクの振りをしてくれているお陰で、ボクが行動したとしても、それは全部ディアベルちゃんがしたことになるだろう。何だか責任転嫁のようにも聞こえるけど、ごめんねぇディアベルちゃん。


「さて‥‥‥」

「‥‥貴様、何者だ」


 とまぁ、ボクはドルマンの前に立つ。


「やぁ、始めして‥‥というわけでもないかな。ついさっき会ったよね。ほら、偽りの体で」


 まぁ、対峙したのはボクじゃなくてケガレちゃんたちだけどね。


「ん‥‥? そうか、貴様か。あの時は吾輩の体を無駄に消費しよって。他の女ニ人はどうした」

「あぁ‥‥そうだね。少し、遅れているよ」


 その時、ドルマンはまるでボクの愚かな行為を笑うように吹き出した。


「クック、ハッハッハッハ!!! ま、まさか偽りの体を殺した程度で吾輩に勝てるとでも思ったのか? はっ! 無駄無駄。見ろ、この不死の軍勢を。そして、吾輩を」

「うん、見えてるよ。その醜い、軍勢も、キミの姿も」

「なにぃ」


 ボクの煽りに引っ掛かったのか、ドルマンは機嫌を悪くする。


「行け! 不死の軍勢よ!!!」


 ドルマンは手を前にかざし、それに従うように不死の軍勢はボクに向かって押し寄せて来る。


「ふふっ」

「笑っていられるのも今の内だ。終わりなき地獄を味わえ」


 終わりなき地獄‥‥ね。もうとっくに味わってるよ。



「――――じゃじゃ~ん! <影収集機ver.2>!!」



「‥‥‥は?」


 ボクは手を掲げる。その手には、巨大な筒がある。そう、これこそ<影収集機ver.2>。ケガレちゃんに持たせているのは<影収集機>のver.1。と言っても、進化系ってわけじゃない。

 <影収集機>には連絡機能とかが付いているし、あくまで影を見つけるのが役目。けれど、このver.2は影を吸い取って保管することに特化した、まぁほぼ別物だね。ややこしいし、別の名前を考えようかな?


 ま、今はそんなことどうでも良くて‥‥‥


「さぁ、<影収集機ver.2>! 迷える魂を元の場所に帰してあげて」


 すると、<影収集機ver.2>の筒の先がパカッと開き、そこに影が吸い込まれていく。そう、ドルマンが不死の軍勢に埋め込んだ偽りの魂。それこそが、魔王の残滓であり、この<影収集機ver.2>が収集すべきもの。


 変わらない吸引力で、不死の軍勢に埋め込まれた偽りの魂が吸い込まれていく。その時、ドルマンの中からも何かが吸い込まれていった。

 やっぱり、魔王の残滓の本体は彼が持っていたんだね。不死の軍勢、あれほど刻んで渡したとしても圧倒的な治癒力を持つんだ。その本体を持っているとなれば、それこそ不死身だろうね。

 でも、残念。もう無駄だよ。


 偽りの魂が吸い取られた不死の軍勢は、ただの軍勢となる。それは、死体だ。残ったのはただの死体。だから、その場に倒れ込んで死んでいる。

 しかし、ドルマンは違ったようだ。彼自体は生きている。その上で自身に魔王の残滓を埋め込み、不死身の体を手に入れていた。けれど、もう残っているのはキミの体だけだよ。


「な、何が起こった!」


 ドルマンは動かなくなった軍勢を見て慌てふためいている。


「キミが持っていた魔王の残滓は全て回収したよ」

「な、なにぃ!?」


 ドルマンはボクの言葉が一瞬理解できなかったのか、固まっていた。しかし、すぐにまずい状況だと気付くと逃げようとする。


「お、おい! 助けろ! 見ているんだろ! 早く吾輩を地獄に帰せ! 早くしろ!!!」


 ‥‥ん?

 なるほどね。やっぱり協力者がいたか。ドルマンが持っていたのは、この偽りの魂を埋め込んだ魔王の残滓。地獄の穴を開くことができる地獄の影じゃない。つまりは、地獄の影を持っているやつが手を貸していたんだね。


「もしかして、裏切られたのかい?」

「うるさい! 黙れ!」

「う~ん、それとも単純に‥‥‥見捨てられたのかな~?」


 ボクがそう言い放つと、ドルマンは沸々と火山からマグマが噴き出るように顔が怒りで真っ赤になる。


「クソが!!! どれも使えぬものばかりだ!!! こうなったら‥‥吾輩だけで支配してやるぅ!!!」


 =絶対支配(オーバーロード)


 ドルマンはその昆虫のような翼を広げ、そこから黒い瘴気を放った。



「――――なにぃ!?」


 しかし、ボクには効かない。何故かって? ボクに支配者の才能があるから。なぁんて、冗談だよ。


「はぁ‥‥。キミ、弱すぎるよ」

「な、なんだと」

「魔王の残滓があるからまだ良かったけど、残ったのはただの役立たず。ちなみに言っておくけど、キミが見たあの二人の女の子がここにいたとしても、普通にキミが負けてるよ。というか、前に会った時に彼女たちの強さを理解できなかったの?」

「う、うるさいぞ!!!」

「そうやって怒鳴ってばっかり」


 まぁ、ケガレちゃんに手柄を譲ってもいいけど‥‥‥どうせ今回の功労者はフェシア、あの子だし。それに、ボクが何をやってもディアベルちゃんが肩代わりしてくれるから‥‥ま、いっか。


「もういい! 貴様ごとき、吾輩自らぶっ殺してやるぅ!!!」

「ふふっ」


 ドルマンはノーガードで突進してくる。


「――――絶対支配(オーバーロード)

「‥‥は?」


 その時、ドルマンの動きは静止する。何故なら、ドルマンはボクに支配されたから。


「な、何が起こった。な、何故‥‥貴様が吾輩の魔法を使えるのだ!!!」

「何故って‥‥これ、相手の体内に魔力を送り込んで、拒絶反応を起こさせて、無理やり魔力切れの状態にさせる魔法でしょ?」

「‥‥は?」


 二度目の、は?。

 どうやら、ボクが一瞬で魔法の仕組みを見抜いたことが信じられないようだ。


「そうだね。自分より強い相手にはそもそも使用者自体の魔力が拒絶反応を起こしちゃって意味が無いし、それに加護とかがあっちゃうと、それもまた意味が無くなっちゃうからね。それに、魔法って結構心が大事なんだよね。キミのその弱い心じゃ、全くこの魔法を使いこなせてないと思うよ」

「ふ、ふざけるな! 吾輩は<支配欲>の悪魔だぞ!!」

「だから?」


 ボクがそう言い放つと、ドルマンの怒りは頂点に達する。


「人間如きが! 業魔である吾輩に逆らうなどあってはならん!!!!」


 ボクはドルマンの怒りを嘲笑うかのように、苦笑する。


「あんまり、人間を舐めない方がいいよ」


 こんな汚い心を見せられるボクの気持ちにもなってほしいね。だけど、もう終わりだ。



 両手を大きく広げて――――パンッ!!!


 強く両手を鳴らす。両手の中に雷属性の魔力を閉じ込める。

 ビリッとぴりつく空気のように、辺りに妙な電気が走る。


 これが、一つ目の合図。


「な、なんだ‥‥‥」


 両手をゆっくり離すと、両手間にプラズマが走っている。

 正の電荷を右手に、負の電荷を左手に。そうすると、異なる電荷同士で引力が生じる。そうやって無理やり雷属性の魔力を電離させたような状態にする。


 これが、二つ目の合図。


「や、やめろ‥‥‥」


 ドルマンはそろそろ理解し始めたようだ。もう、自分が十分に死ねることを。

 

 ボクは両手間に集めたプラズマを素早く片手で掴む。確か、ギリシャ神話の最高神はこんな感じで雷を掴んで攻撃していたよね。

 とにかく、そうやって片手にプラズマを掴んだまま、片手を手刀のような形にする。


「さぁ、落ちて」


 そして、縦に一刀両断するように、手刀を振り下ろす。

 地から天まで、雷の道が出来あがる。つまり、空中に一本の線を描くように導電路を作り出す。もっと簡単に言えば、超強力な避雷針の出来あがりってわけだね。


 これが、最後の合図。


 この場にいる全ての者に見せよう。魔法の最高到達点を。

 これが、雷魔法の最高位。



 =雷神(ゼノン)

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