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48話:この会話は監視されている!

 ドルマンの計画の全貌が見え隠れし始めたころ、わたしたちは今回の目的を再確認する為に、わたしたち三人だけで一度宿に集まりフェシアさんの調査結果を待っていた。


 今回のわたしたちの目的をおさらいすると、<支配欲>の悪魔ドルマンが魔王の残滓を所持しているという情報がアーデウスによって分かった。そして、そのドルマンが王都に攻め入ろうとしていることも分かり、それとほぼ同時刻に王都からの招集命令があり、聖女の予言によって王都に災厄が訪れようとしているということが分かった。この二つに因果関係があると考えたわたしたちは、その招集命令に従い王都にやって来て、ドルマンが王都に攻め入って来るのを今か今かと待っているという状況だ。


 現状で分かっているドルマンの計画‥‥そうだな、王都支配計画とでも呼ぶことにしよう。王都支配計画の全貌は恐らく、魔法学会の賢者の一人に憑りつき、その賢者にドルマンと名乗らせることで攪乱させ、いかにも予言の災厄がそこで終わったかのように思わせる。そして、その隙をついて大量の軍勢を使って王都に攻め入る。これがおおよその内容だろう。


 もちろん、そのような粗雑な計画は、わたしたちに通用するはずもなく、ディアベルはいとも簡単にその計画に真意に気付き、フェシアさんに指示をした。今は、フェシアさんが外壁周辺の見回り兵などを調べ、ドルマンが攻め入ろうとしている痕跡が無いか調べているところだ。


「というわけで、ドルマンの計画も色々と分かって来たが、依然としてドルマンが所持している魔王の残滓の種類は分かっていない‥‥か」


 声が漏れないように宿の小部屋を借りてわたしとリーベルはベッドに椅子代わりにして座り、向かい合うようにディアベルが小さな椅子に足を組みながら優雅な立ち振る舞いで座っている。


「でも、その‥‥ドルマン? が持ってるのはえーっと‥‥‥」

「地獄の影?」

「そう、それなんじゃないの?」


 リーベルは首を傾げながら隣にいるわたしにそう問い掛けた。


 確かに、地獄の影‥‥恐らく、その可能性が高い。ディアベルによれば、ドルマンは契約や憑りつきなどの手段で人間界に干渉しているのではなく、直接地獄からやって来ている、とのことだ。

 しかし、地獄と人間界を行き来するには、ディアベルのようにかつて魔王から特別な力を持っていない限り、不可能だ。だからこそ、ドルマンはその魔王の特別な力、つまり地獄と人間界を行き来できる能力を持つ地獄の影を持っている可能性が高い、というわけだ。

 わたしもその可能性で考えている‥‥が、それだと一つ不審点が残る。


「どうしてドルマンは騎士都市を襲ったんだ?」


 残る不審点、それこそがこれだ。何故騎士都市を襲ったのか。単純に力を試したかったから? 騎士都市という名前から分かるように、恐らく騎士都市には多くの騎士やその見習いがいる。騎士都市を滅ぼせる程の力があるのなら、王都も大丈夫‥‥ということだろうか。

 だが、王都にも騎士は大勢いる。それに、王都の冒険者は強者揃いで騎士都市を滅ぼせたからと言って、安心はできないだろう。



 ――――プルルルルルルルル


 その時、胸ポケットから微かな振動と音がしてきた。

 それと同時に口から「イヤッ」という二文字を短く切った高い声が出る。


「ミリア‥‥? 大丈夫?」


 リーベルが心配するようにわたしの肩に手を置いた。再び変な声が出ないように口を抑えながらリーベルの方を見ると、またもや胸ポケットから細やかに体をくすぐるような振動が伝わって来る。


「あははははは!!!!」

「ミ、ミリア?」


 その振動は妙に刻まれており、肌に直接触れて擽ってくる。胸ポケットに何が入っていたかを考えながら、リーベルの両肩を強く掴みながら首と胸の間に顔を隠すようにして擽りという名の振動に耐える。


「ミ‥‥リア‥‥?」


 リーベルは心配そうにわたしの名前を呼びながら、わたしの背中に手をまわした。


「取ってぇ‥‥」

「え?」

「いいから‥‥あははっ」


 リーベルの手を握り、胸ポケットの方に持っていき、胸ポケットの中にある物を取るようにお願いをした。


「わ‥‥柔‥‥」

「いいから、早く‥‥‥」

「わ、分かった!」


 リーベルは恐る恐るわたしの胸ポケットの中に手を入れ、中に入っていた物を手に取った。


「はぁ‥‥はぁ‥‥つ、疲れた」


 ようやく擽りから解放されて肺に溜まっていた息を一気に吐く。


「ミリア‥‥‥」

「あ‥‥あぁ、ありがとう‥‥リーベル」

「ご、ごめん‥‥」


 わたしがありがとうと言うと、返って来たのは何故かごめんだった。


「え? 何が?」

「その‥‥触っちゃった」

「何に?」


 わたしがそう聞くと、リーベルの顔が徐々に赤くなっていくのが見て分かる。

 リーベルはその火照りを冷ますかのように首を激しく横に振りながら「なんでもない!」と答えた。


 リーベルが手に持っている、わたしの胸ポケットに入っていたもの。よぉ~く思い出すと、それは一つしかなかった。そう、<影収集機>だ。


「やぁやぁ、久しぶりだね。調子はどうだい?」


 すると、<影収集機>から女性の声が聞こえて来る。


「‥‥シリウス」

「何だい?」

「どうしても変な機能を追加しないと気が済まないのか‥‥?」

「変な機能? あぁ、バイブ機能のことかい? 変な機能とは心外だね。ケガレちゃんがずーっと音がうるさい、音がうるさいって、うるさいから。音を小さくしても、ボクからの連絡に気付けるようにするという画期的な機能だというのに」

「じゃあ、もう少し振動を抑えろ」

「いや、ケガレちゃんが弱すぎるだけでしょ。下着ぐらい着けなよ」


 シリウスの発言に場が一気に凍るのが嫌でも分かる。


「ミリア‥‥?」

「いや‥‥別に‥‥必要ないだけだし」


 これ以上は意味が無い。そう思い、無理やり話を戻すことにした。


「‥‥で、シリウス。何の用だ」

「う~ん? あぁ、ケガレちゃんたちとようやく話せる状況になったからね。王都に行ってから、大抵誰かと一緒にいるから、中々連絡をあげられなくて。ごめんねぇ、寂しかったかい?」

「いや、別に」

「あはは。まぁ、それはそれとして‥‥‥ディアベルちゃん」

「あら、ワタクシですか?」


 ディアベルは退屈だったのか、突然話しかけられたことに少し驚いているようだ。


「そうだよ、キミ‥‥実際は、もっと分かっているんだろう? ドルマンが王都に攻め入ろうとしている時間帯とか‥‥将又、魔王の残滓の種類とか‥‥ね」


 シリウスがそう問うと、ディアベルは少し口角を上げ、笑っているとも取れるが、怒っているようにも見える表情を見せた。


「えぇ‥‥まぁ、そうですね」

「そうなのか? でも、どうしてわざわざ隠してたんだ?」

「いえ、隠していたというわけではありません。ワタクシの契約上、ミリア様たちの計画には協力しますから‥‥ですが――――」


 ディアベルは突然椅子から立ち上がると、部屋のカーテンを閉め、光すら入らないように部屋の中と外を完全に孤立させた。


「常に警戒は必要というものです。これは、殺人と同じ。バレたら終わりの愉悦(ゲーム)なのですよ。そのことはミリア様も理解しているはずです」


 まぁ‥‥魔王復活計画だから、悪いと言えば悪いか。


「ディアベルはわたしたちが悪い事をしていると指摘したいのか?」

「いえ、そんなことはありませんよ。天界が決めたルールの中では違反行為でも、世界の中ではむしろ正義とも呼べます。ですが‥‥今はそんなこと関係ありません。必要なのは完璧のみ。少しでも信頼が揺らぐような行為は断じて許されません。だからこそ、邪魔者には常に警戒をするのです」


 ディアベルの言動‥‥まるで、何かを注意しているような‥‥‥


「まさか‥‥誰かに監視されてるのか?」


 万が一にでも部屋の外に声が零れないように小さい声量で言う。


「さぁ、それは分かりません。ですが、恐らくは」


 そんな‥‥いったいどこで計画が漏れたんだ? まさか、アリシアか‥‥? いや、アリシアが知っているのは、わたしたちがディアベルをシリウスと偽っていることだけのはずだ。それに、交渉も済んでるから、アリシアが漏らすとは思えない。じゃあ、本当に誰だ?


「何か証拠はあるのか?」

「いえ、勘です」


 勘‥‥‥


「あら、勘違いしないでくださいね。誰も白昼堂々皆に見られている前で殺人はしないでしょう? ヤるのなら、誰もいない場所‥‥これが基本です。バレたせいでヤりづらくなっても困りますからね。言ったでしょう? ワタクシは猟奇的殺人鬼(シリアスキラー)ですが、愚か者ではない、と」

「つまり‥‥自分はいつも人の目を警戒しているから、何となく誰かに見られていることが分かる、って言いたいのか?」

「えぇ、その通り」


 だとしたらそう言えばいいのに。はぁ、長く一緒にいたせいでディアベルの変な言い回しも段々と分かるようになってきてしまった。


「それが誰かは分かるのか?」

「いえ、あくまで、勘、ですからね。つまりは、常に警戒をしておいてください、ということです」


 その場ではとりあえず「分かった」と返事しておくことにした。確かに警戒は必要だ。正直悪い事をしている自覚は無かったが、よくよく考えれば魔王を復活させようとしているのだから、やっていることはほぼ魔王軍だ。‥‥‥まぁいいか。


「それで、魔王の残滓の種類は何なのかも分かってるのか?」

「いえ、正確には分かっていません。ですが、それもすぐに分かるでしょう」


 ディアベルは不敵な笑みを浮かべながら、「今夜」。ただそう言った。


「‥‥え?」

「今夜です。愚か者が現れる時間は」

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