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41話:集結、最高位冒険者

「だ・か・ら、わたしだ。ランタノイド公爵家の令嬢の‥‥‥」


 たった今、わたしは入国審査の裏技に挑戦している。それは、公爵令嬢という身分を利用して列に並ばずに入国しようというものだ。

 だが、結果は見ての通りだ。


「何度も申し上げておりますが、身分証明書が無ければ入国を認めることはできません。貴族なのであれば、その家の者であることを証明する物を提示してください」


 身分を証明する物って‥‥‥

 一応公爵令嬢として王都には一度訪れているんだが、わたしはそんなにも顔が通っていないのか?

 一介の門番では、わたしが公爵令嬢であることなど到底知る由もないというのか?

 まさかこんなところで引きこもり癖が仇になってくるとは思いもよらなかったが、このままではこの天にすら届きそうなこの長打の列を並ぶ羽目になってしまう。


「ミリア、ギルドカードならいけるんじゃないの?」

「いや、それが‥‥‥捨てた」

「えぇ!!」


 更に詳しく言うと、捨てたんじゃなくて壊した。ギルドカードには個人情報が乗っているし、変に利用されても困るからそれが一番だと思って壊してしまった。

 そもそも、わたしを一方的に追放したあのアホ(ギルドマスター)の方が悪い。


「ふ~む‥‥では、こちらで如何でしょう」


 ディアベルは胸ポケットから一枚のギルドカードを取り出し、門番に渡した。


「こ、これは!!」


 門番はそのギルドカードを見た瞬間、驚いてその金色の装飾を目を大きくしてじっくりと観察する。

 あれは、ギルドカード? それも金色ってことは、最高位冒険者のものだ。でも、ディアベルが冒険者をやっているわけ‥‥‥


 不思議にその光景を見ていると、門番は何かを確認し終えてわたしたちを王都の中へ通した。

 訳も分からないが、ひとまずはあの長すぎる列を並ぶ必要は無くなったというわけだ。


 ――――王都グランシエ

 熾天使のまとめ役である熾天使グランシエルが加護を与えし王家によって治められる巨大都市。公爵家の領地に囲まれた中心に位置しており、最も多くの人間が住む場所。

 技術力が集中する先進国であり、現代における最先端技術の全てはここ王都で生まれていると言っても過言ではない。その為、生活水準が非常に高く、一般市民であっても一部の点においては貴族を超えるような技術に囲まれて生活している。

 その技術の最たる例が、”科学”と呼ばれる魔法学の後継とも言われることのある最先端技術だ。


 わたしたちは王都の中へ入り、ひとまず招集命令書に従って王都の冒険者ギルドへと向かうことにした。招集命令書に指定されている日付は、一応は明後日までとなっているから、とりあえず顔を出しておこうということだ。


「それで、さっきはどうやって王都に入ったんだ?」


 わたしがディアベルにそう聞くと、ディアベルは再び胸ポケットからギルドカードを取り出し、わたしの目の前に持ってきて見せた。


「こ、これ‥‥シリウスのギルドカード?」

「えぇ、そうですよ。まさかワタクシが冒険者になっているとでも思いましたか? ふふっ、ご冗談を。いったい誰が自分よりも下の種族に縛られる選択をするのですか?」


 んん~‥‥まぁ、シリウスが事前にディアベルに自分のギルドカードを渡しておいたんだろう。いや、だとしてもこの場にシリウスはいないはず‥‥‥‥


 ―――まさかとその時、言い得て妙な可能性が浮かんでくる。


 ディアベルをシリウスと勘違いした?

 自分でも変だと思うが、無駄に大きな三角帽子を被っているディアベルの顔は隠れており、その身長はシリウスとそう大して変わらない。そして何より、ある一点において狂気的という部分が非常に似ている。

 何度もまさかと思ったが、何故かしっくりときてしまった。


「ミリア‥‥?」


 リーベルの一声で、意識が戻される。その時、自分が意味の分からないことを考えていたと冷静になる。


「とりあえず、冒険者ギルドに向かうか‥‥‥」


 そうして、わたしたちは冒険者ギルドに着いた。

 王都の冒険者ギルドはわたしたちのそれとは一目で別物だと感じさせられる。


 冒険者たちの品性は高く、決してわたしたちのところにいるような、いつも酔っ払っては何かしらの問題を起こしているやつらとは違う。

 そのせいか、王都の受付嬢にも違和感がある。わたしの知っている受付嬢は、冒険者からナンパされたらそのまま殴り飛ばすような風格を持った歴戦の受付嬢しかいなかった記憶があるが、こっちの受付嬢は何というかおしとやかだ。


 わたしたちは受付嬢の前に立ち、ディアベルがギルドカードを差し出し、招集命令書に従ってやって来たと告げた。

 受付嬢はそのギルドカードが偽造されていないか、端から端までこれでもかという程くまなく調べた後、冷静に一切表情を変えないまま、わたしたちを冒険者ギルドの奥まで連れて行った。


 通路を抜けて行き、その冒険者ギルドがどれだけ大きかったのかを知る。

 とてつもなく長い通路の先には、扉の上部に会議室と書かれた部屋がある。そして、わたしたちはその中に足を踏み入れるのであった。


 バタッ‥‥‥ギィィィ‥‥‥


 扉を開けると、木がきしむような音がその緊張感ある部屋にいる者たちの視線を一心に集めた。


「おいおい、誰が貴族のお嬢ちゃんをここに呼んだんだよ」


 何個もある椅子の端の方に座っていた男がわたしを見て開口一番そう言い放った。

 そんなにもわたしは貴族のお嬢ちゃんっぽいのだろうか。別に今は普通の女の子という設定でやっているつもりなんだが‥‥‥まぁ、合ってはいるか。


「冒険者番号25304、ミリアさんですね。どうぞお座り下さい。たった今、会議をしている最中だったのです」


 中心と端の一部が取られた食べかけのドーナツのような机の中心にいる、一見幼くリーベルと同じか少し上ぐらいの少女がわたしを見て一瞬で判断し、わたしを空いている椅子に座らせた。


「ミリアさん、後ろの方々は‥‥‥」

「え? あぁ‥‥こっちはわたしの弟子のリーベルと‥‥‥‥”シリウス”だ」


 わたしが弟子と言ったことにリーベルは首を傾げているようだったが、流石にこの場に友達を連れて来たなんて言ったら、それこそ笑われてしまう。

 シリウスと言ったのは‥‥‥まぁ、何となくだ。


 わたしがシリウスの名を出した瞬間、会議室が少しザワつく。


「シリウス‥‥まさか、あの魔法学会の異端児か‥‥?」


 会議室にいる冒険者たちの話の中から、”異端児”という言葉が妙に耳に入って来た。シリウスは自分のことを話すことが殆ど無いから、未だに昔何をしていたのか全く知らない。魔法学会の異端児と呼ばれるということは、魔法学会の人間だったのか?


「皆さん、お静かに」


 彼女がそう言い放つと次第に会議室は静かになった。


「では、ある程度人も集まったことですし、今回の予言に関して再度確認しようと思います」


 彼女が短い杖で中央にある台を軽く二回叩くと、投影魔法で空中に映像が投影された。


「まず、私の自己紹介から始めようと思います。私の名はフェシア。この王都の聖女を務めております」


 ――――聖女

 それは、魔法学会から選び抜かれた才能あるただ一人の女性が熾天使グラシエルの祈祷の力を得ることでなることのできる存在。

 王家に次ぐ権力を手に入れると共に、天界に祈祷することで、様々な”答え”を得られることができる。

 何故聖女‥‥つまり、女性だけなのかは誰にも分からない。単にグランシエルの好みというだけかもしれないが‥‥わたしの知る限り、グランシエルは女性の天使だったと思うのだが‥‥‥まぁ、好みは人それぞれ、天使それぞれとも言う。アーデウスの例もあるし。


 しかし、まさか彼女が聖女だったとは。確かに一目でわたしを識別していたとはいえ、何というか、若い。

 わたしが以前王都を訪れた時の聖女は、確か四十代の女性だった気がする。いつの間にか代替わりしていたのか。

 ただ、彼女の目からは、強い才能と、未来を見透かすような信念が見え隠れしている。


「では、予言の内容を再度説明します。今から丁度一週間と3時間2分31秒前、私が天界に祈祷すると、近々災厄がここ王都を襲うという”答え”を得られました。そして、それに真実味を持たせるかのように、今から四日前、王家が治める王都とほど近い騎士都市ナイトシュヴァルツが一夜にして滅びました」


 そう言いながら、フェシアさんは投影魔法のスクリーンにその滅んだ騎士都市の映像を流した。

 その情景はまさに残酷無比というもので、破壊された建物からは火が立ち昇っていた。

 会議室にいた冒険者たちはその情景に絶句しつつも、冷静に事の重大さを再確認していた。


「あら、おかしいですねぇ‥‥死体が、一つもない」


 ディアベルは残念そうにそう言い放った。

 余りに場違いな発言に心臓が掴まれるようにドキッとしたが、フェシアさんはその発言に続けて補足をした。


「その通りです、シリウスさん。そこが問題なのです。これ程にまで無残な破壊、間違いなく大勢の死人が出ていることが容易に想像できます。しかし、現地に赴いた調査員によると、たった一人の死体すら発見できなかった、という調査結果を持ち帰ってきました」


 確かに妙だ。死体が‥‥無い? ということは、ドルマン(<支配欲>の悪魔)は死体を利用しようとしているのか? しかし、いったいどんな用途に使うんだ? 死体を手に入れたところで‥‥まさか、食べるのか? いや、だとしてもわざわざこんな目立つことはしないか。


 現状としては、証拠が足りない。それが答えだった。


「それで、その災厄がいつ来るのかとかは分かってるのか?」


 わたしがそう聞くと、フェシアは静かに首を横に振った。


「残念ながら、正確な時間までは分かっていません。しかし、今回の騎士都市ナイトシュヴァルツのような異変が起きたことを考えると、そう遠くはないかと」


 ふむ‥‥アーデウスによる情報にも、ドルマンがいつ王都に攻め入ろうとしているのかまでは分からなかった。だとしたら、今はただ受け身になって待つしかないのだろうか?




 ――――バンッ!!


 その時、突然勢いよく扉が開かれた。


「すまない、遅れた」


 そう言いながら、部屋の中に一人の白銀のショートヘアの少女が入って来る。


「冒険者番号10444、マルスさん。既に会議は終わりに差し掛かっています」

「あぁ、だから‥‥遅れたと言った」


 フェシアさんは溜息をつくと、そのマルスという人物を椅子に座らせた。

 冒険者番号が1から始まっている‥‥これが意味することは、ここ王都の冒険者であるということだ。

 冒険者番号の最初の文字は、それぞれの領地によって決まっており、ランタノイド公爵家の治める領地の冒険者番号が2で始まるように、王都の冒険者番号は1から始まる。

 そして、この場にやって来たということは、このマルスという人物が王都の最高位冒険者であるということだ。

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