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25話:おしゃまな令嬢

「わぁ~! すごぉ~い! これがミリアのお家なの?」


 リーベルは子どものように庭を駆け回って、感動をわたしに伝えた。


「まぁ‥‥そうだけど、こんなの移動が面倒くさいだけよ」

「では、お嬢様。ご主人様へ挨拶しにいきましょう。お客人の方々もお部屋にご案内しますので、迷わないようわたくしについてきて頂けますか?」


 グレイアが先行して、巨大な庭を進んでいく。


 リーベルはまるで森の中を探索する子どものようなキラキラとした目で、庭師によって綺麗に管理された庭を眺めている。

 そんな彼女がどこかへ行ってしまわないように手を握ったまま、ついていく。


 グレイアはリーベルとシリウスを客室に案内した後、わたしをとある部屋まで連れて行った。


 コンッ コンッ


 グレイアが扉を叩くと、扉の向こうから微かに低い声が聞こえてくる。

 グレイアはそれを確認すると、静かに扉を開いた。


「ご主人様、アミリアス様をお連れしました」

「‥‥‥‥」

「では、お嬢様。わたくしはここで待っていますので」


 今入った部屋は、お父様の書斎だ。そして、その中にいるのは、もちろんわたしのお父様ということになる。


 二年振りにわたしが帰って来たにも関わらず、お父様は表情一つ変えず、書類を見続けたままこちらを見ようとしない。


「お父様‥‥‥」

「なんだ」

「‥‥いえ、何でもありません」

「そうか」


 会話が続かない。

 お父様はこちらを向くことなく、黙々と仕事を続ける。


「お父様、此度のパーティを開いて頂いて‥‥ありがとうございます」


 必死に話題を探したが、これぐらいしか思いつかなかった。しかし、これでは会話にならない。きっと、お父様はわたしがこのパーティを開いてくれたことに感謝なんてしていないと気付いているのだろう。嘘から引っ張り出してきた話題など、お父様は興味を持たない。


「アミリアス」


 お父様は単調なトーンでわたしの名前を呼んだ。


「既にグレイアから聞いているだろうが、今回のパーティでお前に相応しい相手を見つけろ。それが、お前にできる唯一のことだ」


 二年振りに会って、お父様がわたしに言ったことは、家の為のことだった。


 昔のお父様なら‥‥いや、今はそんなこどどうでもいい。


「‥‥はい」


 一切覇気のない「はい」という返事をした。

 書斎を出ると、グレイアが静かに立って待っていた。


 書斎の扉にもたれかかり、深く溜息をする。久しく感じた緊張感が、わたしの心をきつく締めあげた。


 その後、グレイアはわたしをまた別の部屋まで連れて行く。


 そこは、わたしの部屋だった。

 お母様がわたしの髪を手入れしてくれていたドレッサー。子どもの頃に気に入ってしまい、今でも捨てていないぬいぐるみ。部屋の中心には懐かしく、そして落ち着ける匂いのするベッドがある。

 二年も放置していたのに、綺麗なのはきっとグレイアが欠かさず手入れしてくれていたからだろう。


 グレイアはわたしを鏡の前に立たせると、何着か服を用意してきた。


「お嬢様、どちらになさいますか?」

「服‥‥別にどっちでも。どうせわたしには似合わないわよ」

「では失礼します」


 そう言うと、グレイアはわたしを着替えさせようとしてきた。


「いい、これぐらい自分でする。もう、子どもじゃないのよ」

「‥‥かしこまりました」


 とりあえず、グレイアが選んだ服を手に取り、鏡で合わせる。


 白いワンピース。グレイアはこんなものがわたしに似合うとでも思っているのだろうか。わたしのような黒い髪と紫色の瞳を持つ者は、おとなしく暗い服を着ておけばいいといつも思う。


「‥‥‥グレイア」

「はい、お嬢様」

「どうしてまだここにいるの?」

「はい、お嬢様」


 グレイアは微動だにしない。

 確かにグレイアはわたしの専属メイドだが、だからといってどこでもわたしと一緒にいるわけじゃない。普通はそのはずだが、何故か彼女はいつもわたしの隣にいる。今思えば、これほどにまで長い間グレイアの顔を見なかったのは初めてだ。


「はぁ、もういいわ」


 諦めて、着替える。

 今着ている黒い服を脱いで、グレイアに渡す。

 次にグレイアから白いワンピースを受け取り、上から被って裾から頭を出す。昔は長い髪だったから頭を出した時に髪が服の中に入ったままで面倒くさかったが、今は髪を短くしたことでその面倒くささがない。


 鏡を見ると、そこには白いワンピースを着た不気味な少女がいる。きっと、リーベルみたいな元気な女の子が着たら、夏特有の涼しさを感じれるのだろう。だが、わたしが着ればそれはただの幽霊だ。


 その後、グレイアはわたしをドレッサーに座らせ、わたしの髪を整え始めた。


「グレイア」

「はい、お嬢様」

「どうして最初に書斎に連れて行ったの? 普通、見た目を整えてから挨拶しに行くものじゃない?」

「はい‥‥ですが、恐らくご主人様がお嬢様を見ることは無いと思いましたので。むしろ服装を整えてしまうと、お嬢様を余計緊張させてしまうかもしれません。そちらの方がお望みでしたか?」


 さも当然かのように答えるグレイアに少し安心する。


「‥‥いえ、大丈夫よ。ありがとう、グレイア」

「‥‥はい、お嬢様」


 綺麗な服を着て、グレイアの腕がいいこともあり、髪も綺麗に整えられた。

 そして、リーベルたちが待つ部屋に戻り、休憩をすることにする。


 客室の扉を開けると、皆がわたしを待っていた。


「あ! ミリア、おかえり」

「えぇ、ただいま」


 扉を開けた瞬間、リーベルは元気よくわたしを迎え入れる。それと同時に、わたしが来ている変な服をじっくりと観察し始めた。


「ミリア、その服‥‥‥」

「あぁ、どう? 似合わ‥‥」

「すっごくかわいい!! やっぱりミリアは何でも似合うね」


 いとも簡単に恥ずかしいことを言うリーベルに頭を悩ませる。


「どうしたんだいケガ‥‥じゃなくて、アミリアスちゃ~ん。綺麗なお顔が真っ赤だよ?」

「‥‥うるさいわよ」


 シリウスは相変わらずウザいが、それでもやっぱりこの二人といると落ち着ける。

 そうこの二人、リーベル、シリウス、ロゼリア。


 その時、変なのが一人混ざっていることに気付いた。


 ‥‥ん? リーベル‥‥シリウス‥‥ロゼリア?


「おーほほほほほほ!! やっとお気づきになられましたのですわ~~」


 そこには扇で上品に口元を隠して笑うおしゃま声の少女がいた。


「‥‥グレイア、不審者よ。つまみ出しなさい」

「かしこまりました」


 グレイアは腕をまくり、じりじりとそのおしゃま声の少女に近づいていく。


「おおおおおお待ちになるのですわ~!!! そ、そこのメイドも、腕をまくるのをやめでくださいまし~!!」


 そのうるささに溜息が零れる。


「はぁ、どうしてここにいるのかしら、ロゼリア」


 ロゼリア。ランタノイド家が管轄している侯爵家の娘で、金髪に縦ロールとかいう如何にもなお嬢様だ。

 妙に鼻につく喋り方に、いつも邪魔そうな扇を持っている。そして、何故かよくわたしの家にやって来る。


「おーほほほほ。わたくし、ミリア様がパーティを開くと聞いて、こうやって飛んできたのですわ~。酷いですわ、ミリア様。どうしてわたくしをパーティの呼んで下さらないのかしら? わたくしは、ミリア様の”心”のご友人だというのにですわ~」


 心の友人って何だ? わたしはこいつとそんなものになった覚えはない。


 そんな口から出まかせを言うロゼリアを隣にいるリーベルは怪訝そうな目で見つめていた。


「え? あなたもミリアのお友達なの?」

「そうですわ~、わたくしとミリア様は舞踏会でよく一緒に踊ったのですわ~」


 ロゼリアの発言を聞くと、リーベルはわたしを見て確認した。


 確かにこいつと舞踏会で踊っていたのは事実だ。こいついつも一人だったし。わたしも他に踊る相手もいなかったから、踊ってあげていただけなんだが‥‥‥


「へぇ~、そうなんだ。私もミリアに指輪をはめたことがあるよ」

「そうだったのですわね。‥‥ん? あなた今なんと‥‥‥」

「よろしくね、ロゼリア」

「‥‥え? えぇ、よろしくですわ~」


 リーベルはロゼリアの手を強く掴み、勢いよく振った。そのせいで、ロゼリアの伸びる声は震えた。


「それにしても‥‥あなた‥‥もしかして」


 その時、ロゼリアは怪訝そうな目をリーベルの耳に向ける。


「うん、私、エルフなんだよ?」

「そうなのですわね‥‥‥」


 緊張が走った。あまりにも簡単に答えるリーベルにおどおどしてしまう。


 まずい、貴族であるロゼリアにエルフだなんて言ったら‥‥‥


「道理でお耳が長いわけですわ~~」


 ‥‥うん、良かった。ロゼリアがこういう奴で。

 エルフに対する反応が、”耳が長い”だけとか、そんなやつそういない。

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