23話:見知らぬ訪問者
ディアベルとの決闘を終えた後、わたしはディアベルに更なる質問をした。それは、他の四魔将の居場所は知っているのか、というものだ。
「残念ながら、ワタクシでも他の者たちが何をしているのかを知りません。それどころか、生きているのすら知りません。もしかしたら‥‥ふふっ、殺されているのかもしれませんね」
と、ディアベルは冗談交じりにそう言った。
それならと、せめて他の四魔将の姿や特徴だけでもと思ったが、ディアベルはそれすら知らなかった。
まぁ、四魔将同士の交流の薄さは置いておくとして、魔王の情報を知るのは一筋縄にはいかないということだ。
だが、今回は<支配欲>の悪魔や魔王の残滓と、様々な情報を手に入れることができた。収穫としては十分。
ディアベルの方は流石に暴れすぎたらしく、このままでは本当に熾天使が討伐しに来る可能性があるから暫くは地獄で大人しくする‥‥と口では言っていたが、あまり熾天使を恐れる様子は無く、むしろそれを望んでいるようだった。
また、ディアベルはわたしたちの【魔王復活計画】に協力するとも言ってくれた。どうやらアーデウスの方も引き続き魔王の残滓に関する情報を集めてくれているらしい。
確かに彼女たちは悪魔であるが故に悪魔らしい部分もあるが、それ以上に悪魔らしくわたしたちの計画の手助けをするという”契約”は絶対に守ってくれるようだ。その点では、かなり信頼できる仲間? が見つかったようで、良かった‥‥のか?
そうして、わたしとリーベルはディアベルに別れを告げてシリウスの転移魔法で家に帰った。
「おかえり~、ケガレちゃん、リーベルちゃん」
シリウスに出迎えられると、何故だかどっと疲れが降りかかってきて、そのままソファに倒れこんでしまった。
リーベルの方も帰って来たことに安心したのか、ソファに座りこむと、「ふへぇ~」という情けない溜息を吐いた。
「あはは~、お疲れ様だねぇお二人さん。そんなところ申し訳ないけど、ケガレちゃん。早速だけど<魔王の書>に手をかざしてくれるかい?」
「え? あ、あぁ」
ソファに座り直して、シリウスが広げている<魔王の書>に触れる。すると、ほんの少し魔力が吸い取られるような感覚がして、何もしていないのにも関わらず、<魔王の書>に文字が浮かび上がってくる。
シリウスはそこに書かれた文字を本当に見えているのかと心配になる程の至近距離で見つめる。そして、何か気付いたのか、ニヤリと笑みを浮かべると、<魔王の書>を閉じ、口を開いた。
「ふ~む。やっぱり紛争の影を手に入れた時のように、何か新しい力に目覚めたわけではないみたいだね。けど‥‥ほら、ここを見て」
シリウスは<魔王の書>の一部分を指差しながらわたしに見せた。
そこには何か数字の羅列が書かれている。しかし、それに規則性はなくて、ぱっと見で理解できるようなことはなかった。
「これはねぇ‥‥”ステータス”だよ、ケガレちゃん。とは言っても、魔力量だけなんだけどね」
「ステー‥‥タス? って何だ?」
「あぁ‥‥そっか。まぁ、単純にケガレちゃんの魔力量を数値化したものだと思えばいいよ」
そんなものがあるのか。自分の実力を知る良い指標にはなりそうだが、正直わざわざ覚えてはいられないな。
「まぁ、数値はおまけで、重要なのは前に記録した時よりも魔力量が二倍‥‥いや、それ以上になっていることだね」
「そんなに増えてたのか? あの水晶だけで?」
「まぁ、ケガレちゃん♪ とボクは呼んでいるけど、ケガレちゃんはもちろん人間だ。だから元々持っていた魔力量は一般人よりも少し多い程度。別に特段多いってわけじゃない。だから一概に二倍と言っても、元が特段多くはない分、それ程大きな量が増えたってわけじゃない」
「‥‥てことは、今回でわたしはあまり強くはなれてない‥‥のか?」
少し、残念だった。
確かに、わたしはこの力をあまり良いものだとは思っていない。だが、それでもこの力のお陰でわたしは守るべきものを守れているのも事実だ。それなら、わたしはこの力を使いこなしたい。
「ミリア?」
体の中に秘められている力を握りしめるように力拳を作って俯いているわたしの名を呼ぶリーベル。
わたしを友達と言ってくれた彼女をわたしの力不足なんかで失うことだけは絶対にあってはならないと、強く決心するのだ。
それ程強くなれていない、という結果に落ち込んでいるとシリウスが俯いているわたしを下から覗き込むように屈んだ。
「けど、今回で得られた面白いことが一つあるよ」
「面白いこと‥‥?」
「そう、実はケガレちゃんが紛争の影を手に入れた時と、今回あの水晶から魔力を得た時とで、それほど魔力量の変化率に差が無かったんだよ」
「‥‥? つまり、あの水晶の中に入っていた魔力がそれだけ多かったのか? でも、魔王の残滓並みなんてこと‥‥‥」
怪訝そうな様子のわたしに、シリウスは軽く首を横に振った。
「ううん、違うよ。むしろその逆だ。魔王の残滓という魔力はやっぱりケガレちゃんには多すぎたんだ。まだケガレちゃんでは魔王の残滓という膨大な魔力を受け止めきれる程の器が備わっていない」
そうきっぱりと言い切るシリウスに、また少し肩を落とす。
「けれど、今回で分かった。魔王の残滓に関わらず、ケガレちゃんの魔力量が増えると、その分更に魔王の残滓の力を使いこなせるようになる。ディアベルちゃんは魔王の残滓はただの魔力ではないと言ってたけど、その勝手は魔力とよく似ている。例えるのなら、紛争の影が持つ、武器を生み出す力を”魔法”とするのなら、ケガレちゃんはその”魔法”を使う為の魔力量が足りていなくて、かなり制限された状態で”魔法”を使っているんだ」
なるほど‥‥今回のディアベルとの模擬戦で、”影”の調子が良かったのも、もしかしたらそれが関係しているのかもしれない。
「正直、こんな一気に魔力量が増えることはありえないよ。ケガレちゃんの場合は、他の人よりもより効率的に魔力量を増やせるみたいだけどね。まぁ、もちろんそれを使いこなせるだけの技量を持ち合わせないと、今回魔力暴走を起こしたみたいに、”影”を制御するどころか、むしろ自分が制御される羽目になるけどね」
そう言った後に、シリウスはわたしの隣で疲れてぐで~んとしているリーベルには聞こえないように耳元で「リーベルちゃんを心配させたくないだろう?」と、少し嫌味な言い方をした。
「‥‥どうしてそこでリーベルが出て来るのかは知らないが、まぁ確かに」
最高位冒険者になって、少し浮かれてしまっていたのかもしれない。
最高位冒険者となった後でも、紛争の影の力が無いと上級天使にすら勝てなかったんだ。もし、これから熾天使と対峙するようなことがあれば、このままだと‥‥守れない。それだけはダメだ。わたしのこの力で、わたしの守るべきものが傷つくことだけは、もう二度とあってはならない。
「ミリア~、一緒にお風呂入ろぉ~」
心にそう強く刻んでいるわたしの手をお構いなしにリーベルは引いた。
「‥‥はぁ、別に一人でも入れるだろ」
「えぇ~、でもミリアがいないと私どうやって頭洗うの? それに、一人は‥‥寂しいもん」
本当に寂しそうな顔をするリーベルがほっとけなくなってしまう。
「‥‥はいはい、分かったわよ」
ザブンッと、体を入れるだけでお湯が溢れてしまう程の湯舟に浸かる。
わたしが湯舟に入ると、リーベルもわざわざ同じ湯舟に入って来る。
どうも狭苦しい。ただ、何故だかリーベルと会う前に独りでお風呂に入っていたときよりも、シャワーから落ちる水滴の音が気にならない。何となく、いい気分だった。
そうして、わたしたちはお風呂から出て、服を着る。
濡れた髪をタオルで拭きながらシリウスのいるリビングに向かったいた時、突然玄関の方から音がした。
トントントンッ
一定のリズムを刻みながら軽快に鳴らされるノックにシリウスが応じる。
「おや? こんな時間に誰だろうね」
シリウスは椅子から立つ。すると、長い時間座っていたからなのか、痺れる足を庇うようにしてそのまま倒れ込んだ。
「うへぇ~」
「はぁ、何やってるんだ。わたしが出るぞ」
「あはは~、お願いね~」
痺れる足を「いてて」と押さえるシリウスの横切ってわたしが玄関の前に立つ。
こんな夜遅くに迷惑だ、と思いながらも本当に迷惑な奴ならそのまま叩きのめしてやろうぐらいの意気込みで玄関の扉を勢いよく開けた。
玄関の扉を開く。
視点を真っすぐにしたまま外にいる誰かを見た。
白いフリルが付いたメイド服? のようなものが目に入って来る。
違和感を感じながらも視点を上に移動した。
「‥‥!! ど、どうしてここに‥‥‥どうしているんだ!」
その瞬間、全身が凍り付くかのように焦りがこみ上げてくる。
背の高いメイド姿の女性。サファイアのように青い髪。そして相手を静かに見つめるこの冷たい瞳。
知っている‥‥どうして、どうして今なんだ。
「お迎えに上がりました。アミリアスお嬢様」
次回から第四章に入ります!
今度はミリアのとある”秘密”に関してのお話です。
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