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22話:影の本質

 <支配欲>の悪魔が、魔王の残滓を手に入れている‥‥? いや、あくまでまだ可能性の話だが、確かに筋は通っている。それに、全く可能性が無い場所を探すより、その方向性で考えた方がよっぽど効率的だ。とはいえ、まだ<支配欲>の悪魔って誰なんだという感じではあるのだが‥‥‥


 リリリリリリリリリン!!!!


 その時、<影収集機>が激しく鳴り出した。


「おや‥‥はぁ、やっと繋がったね」

「あ、シリウス! そういえばこれまで何してたの?」

「う~ん? あぁ、それはキミたちが勝手に地獄なんて行くからだよ」


 リーベルの問いに、シリウスはしっかりと答えず、根本的な指摘をする。


「魔法の範囲外になっちゃったせいで、何してたかも知らないし、何があったのかも分かんないんだよ。ね‥‥ケガレ、ちゃん?」


 シリウスの声には少し怒りが混じっているようにも聞こえた。


 確かに勝手に地獄に行ったことは悪かった‥‥とでも言うと思ったか。そもそもこんな危険な場所に送り込んでおいて、シリウスはどうこう言える立場じゃない。


「あら、こちらの魔道具は喋ることができるのですか? ふふっ、面白いですね」


 ディアベルはわたしの持っている<影収集機>を興味深そうに覗き込んだ。


「やぁ、初めまして? だね。ボクの名前はシリウス。まぁ、ケガレちゃんたちの保護者? みたいなものかな。これからよろしくね、魔王軍幹部四魔将の、ディアベル‥‥”ちゃん”? 流石に”さん”の方がいいかい?」

「‥‥ふふっ、いえ、構いませんよ。シリウス様、こちらも末永くお願い致します‥‥ね?」


 挨拶が済んだ後、リーベルは興奮した様子でシリウスに地獄で経験したことを話した。終始楽しそうに話すリーベルに、ディアベルはふふっ、と微笑しながら傍観していた。

 その後、わたしはシリウスにアーデウスやディアベルから手に入れた情報を伝えた。


「ふ~む、中々興味深いねぇ。<支配欲>の悪魔‥‥あまり聞いたことはないけど。ディアベルちゃんの言う事はあくまで可能性に過ぎないとはいえ、この中で一番魔王に詳しいディアベルちゃんがそう言う以上、それが正しいのかもね。ところで、ケガレちゃん。その水晶から手に入れた魔力は今どんな感じだい?」

「‥‥あぁ、今は特に問題ない。むしろ全体的に力が増して、調子がいいような気がするぐらいだ」

「ふむ‥‥紛争の影を手に入れた時のように、特別な力に目覚めたわけではないみたいだけど、ボクの眼から見ても、どうやらケガレちゃんの魔力総量はかなり増しているみたいだね。しかし、変だね。その水晶が魔王の残滓による生成物なら、既に魔力としての性質は失っているはずだけど」


 そう言って、シリウスは「ケガレちゃんには魔法を魔力に分解できる力がある?」や「魔力だけで水晶の形を維持できる?」などと、頭の中で自分自身に問い掛けながら、わたしたちにはよく分からないことを解決しようとしていた。


 その時、ディアベルが口を挟み、シリウスのその考えを否定した。


「シリウス様。そもそも、魔王様の魔力を他の普通の魔力として考えることが間違っているのです」

「ふ~ん‥‥どういうことだい?」


 シリウスは自身の考えを否定されて、少し不満そうだったが、ディアベルは気にせず続けた。


「魔王様が持つ、闇属性の魔力‥‥もとい、”影”は、魔力のようで、魔力とは異なるのです。残念ながらワタクシは魔法学に精通しているわけではないので、詳しい説明はできませんが、魔王様が扱うあの”影”は、魔法というより‥‥”神”のような類、全ての理解を超えた先に存在する、ある種の権限のようなもの、とかつてワタクシは感じたのです」


 ディアベルの曖昧、それでも少し納得せざるを得ない説明に首を傾げていると、ディアベルは更に情報を補足する。


「魔法で、地獄、人間界、天界、この三界を行き来するなど、そのようなことがありえるのですか? もし、それを可能とするなら、それこそ”神”の力だと言わざるを得ないのです。魔王様がワタクシに授けたこの”力”も、その類のものだと思います。ワタクシはこの”力”を扱えてこそいますが、それでも未だ理解には達していない。だからこそ、”神”という言葉で説明するしかないのです」


 ディアベルはわたしの方を見ると、更に話しを続けた。


「ミリア様、ワタクシはあなたを最初に見た時、実に驚いたのです」

「‥‥?」

「あまりにその”影”を使いこなしていましたので、まさか魔王様がまだ生きているとは、と思う程でしたよ。ですが‥‥やはり、まだミリア様はその”影”を、魔法として認識している。ワタクシの知る魔王様は、その”影”をまるで己の体の一部かのように扱っていました。ワタクシがこの鎌をワタクシの一部かのように大切に扱っているのとは違う。”影”は魔法ではなく、ミリア様、あなた自身なのです」


 そう言われた瞬間、何か重要なことに気付いた気がする。


 ”影”は、魔法ではなくわたし自身。それは言い得て妙な表現だった。つい先ほどまでわたしはこの”影”を魔王の魔法だとしか思っていなかったが、ディアベルの指摘を踏まえると、確かに魔法では説明できない部分がある。


 それは、勝手に動くということだ。確かに魔法で火を出したりすれば、その火は風になびくようにゆらゆらと揺れる。だが、わたしの場合は違う。何か他の干渉を受けて動くのではなく、まるで意思を持っているかのように”影”自身が動くことがあるのだ。それは、魔法はその魔法という効果からは決して外れないという法則からズレる。極端な話、魔法で生成した水が燃えている、そんなわけの分からない状況ということだ。


それこそが、”影”は魔法ではなくわたし自身ということの証明なのかもしれない。


 そう気付いた時、わたしの奥底から何かが漲るように湧き出てくるような感覚がした。


 そう、それは向上心だ。

 強くなる。これはわたしの信念だ。この”ケガレ”という力に目覚めた時から、誰よりも己自身を守る為に強くなった。体のサイズに見合わない剣技を特訓したり、触手の攻撃手段について色々と考えてみたり。だからこそわたしは一度最高位冒険者になっているのだ。決して、ズルをしたからじゃない。


 そしてたった今、わたしは更なる成長を感じ取った。これを試してみたい。だから、ポケットからハンカチを取り出してディアベルの胸に突き付けた。


「ディアベル、わたしと決闘をしないか?」

「ミリア? 急にどうしたの?」


 これは、決闘の合図。普通は手袋とかを突き付けるのだが、生憎今は着けていないのでハンカチで代用する。

 わたしは、ディアベルという間違いなくこの場で最強の存在に決闘を申し込んだ。ディアベルもわたしの行動の意味を理解していたようだ。


「えぇ、構いませんよ‥‥ですが、ワタクシはあまり手加減ができないので‥‥どうか、死なないで下さいね?」


 そう言って、ディアベルはわたしたちを人気の少ない場所まで連れて行った。


 日の出までには終わらせるということを条件に、わたしは紛争の影で作った剣を片手に、目の前にいる悪魔と睨み合う。


「あわわわ、ミリア、大丈夫‥‥だよね?」

「う~ん、さぁ? どうだろうね。ボクの知る限り、今のケガレちゃんでは、ディアベルちゃんの足元にす及ばないと思うけど」

「えぇ~!!」


 シリウスの合図の下で、戦いの始まりが知らされる。


「じゃあ、初めていいよ~」


 その気の抜けた合図と共に、わたしは触手をディアベルに向かって勢いよく飛ばす。

 相手は圧倒的なまでのスピードタイプ。見失う前に終わらせる。

 しかし‥‥‥


 ディアベルの姿が一瞬にして消える。


 いや、ありえない速さで移動しているだけだ。さっきだってそうだった。気を付けるべきは間合いを見誤らないようにするということ。

 もし、相手が遠くにいると勘違いして攻撃した時

、実際には相手が想定より近くにいたとする。それは、死を意味するのだ。


 考えている暇は無い。常に直感を信じるのも一つの手だ。


 その時、一瞬草が揺れる音がした。その音を聞いた瞬間、触手をその方向に飛ばす。しかし、そこには誰もいなかった。


「ちっ‥‥‥」

「ミリア様、全ての生命には神経が通っているものです」


 背後から声が聞こえ、影の剣を振るが、やはり誰もいない。


「神経を通って、情報を伝達する。その速さは、魔法を発動するのにかかる時間とは桁違いなのです」


 ディアベルの声が聞こえて来るが、ディアベルがあまりに速すぎて、その姿が見えない。


「つまり、ミリア様は確かにその”影”を魔法としては使いこなせていますが、やはりそれでは不完全なのです。もっと、”影”を感じ、”影”こそが自分自身なのだと、そう思い込むこと‥‥さぁ、やってみましょう」


 ディアベルはわたしを追い込むように、四方八方から語り掛け続けた。


 それによってわたしに強いストレスが掛かる。だが、それはわたしの感覚を敏感にしていき、微かな風の感覚にすら反応していくようになる。そして‥‥‥


「あら‥‥‥」


 わたしが考えるよりも先に、触手がディアベルを捉え、襲い掛かる。

 ディアベルは笑みを零しながら、鎌を構えなおす。


 ザンッ!!


 目にも止まらない速さで、わたしの触手が切り裂かれていく。

 その時‥‥‥


「イタッ!」

「そこまでだよ」


 シリウスの合図で、決闘が止められた。


 首元に鎌が置かれ、危うくわたしの首が吹き飛ぶところだった。


 リーベルが心配そうに駆け寄って、わたしの体をくまなく調べる。


「ミリア! 大丈夫? どこが痛いの‥‥?」

「痛い‥‥ん? あれ、どこも斬られてない‥‥?」

「えぇ?」


 わたしは自身の体を見回したが、どこにも傷は無かった。


「斬られてないのに‥‥痛い‥‥どうして?」

「それはそうですよ。ワタクシは別にミリア様の触手しか斬っていませんから」

「‥‥?」

「どうやら、一瞬ですがミリア様と”影”の感覚が同期したようですね。実際、あの一撃は魔法としてではなく、ミリア様の一瞬の判断によって出された”ミリア様自身”の攻撃のようでしたよ。まぁ、そのせいで痛みも共有していまいましたが。安心してください。痛くないように綺麗に斬りましたから」


 いや、安心できる要素はないが‥‥‥


 リーベルがわたしの体に触れていると、不思議と痛みが引いていき、すぐに感じていた痛みが完全に消えた。


「ほぉ、どうやらリーベル様も随分と珍しい魔力をお持ちなのですね。光属性の魔力。天使を殺す時に飽きる程見ましたが、リーベル様のものはワタクシが見てきたものの中でも、特に量が多く、そして質が良い」

「え? もしかして、私すごい!?」

「えぇ。ワタクシが思うに、熾天使にも劣りません。それもそうですね、熾天使なんかより、リーベル様の方がよっぽど綺麗な心をお持ちですから」


 ディアベルの言葉は、恐らく熾天使を皮肉る為のものだ。しかし、リーベルはそんなこと露知らず、はしゃぎながら体全体でその喜びを表現した。そして、わたしの手を取り、笑顔を向ける。


「ミリア! 私、役に立てた?」

「え? ま、まぁ‥‥‥」

「本当‥‥?」

「本当、本当」

「良かったぁ‥‥私、今回ミリアに迷惑ばかりかけてたから‥‥‥」


 リーベルの顔が一瞬悲しくなった。


 まさか、ずっとそんなことを気にしてたのか。いや、きっとリーベルにとってはそんなことじゃない。


「別に‥‥迷惑だけど」

「うぅ‥‥」

「でも、今回はわたしだけじゃ、ディアベルやアーデウスの信頼は得られなかっただろうし、やっぱりリーベルがいてくれて良かったと思うわよ。‥‥じゃなくて、思う」

「ミリア‥‥!」


 リーベルが思いっきりわたしを抱きしめた。その頭を撫でながら、相変わらず元気なリーベルを落ち着かせる。


 確かに、リーベルは少し、いやだいぶ天真爛漫な部分はあるけれど、それぐらいの方がわたしみたいな影を消してくれるから、やっぱり彼女がいてくれて嬉しい。


「あら~、やはりアウスの元に連れて行ったのは正解だったようですね」

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