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19話:情報の等価交換

 ついに”情報屋”である<淫欲>の悪魔アーデウスから情報を聞き出すことができるが、正直、もう彼女とはあまり一緒にいたくはない。


 しかし‥‥‥


「グスッ‥‥グスッ‥‥お願い、ディア。私を嫌わないでぇ~、お願い‥‥グスッ」


 先ほどからアーデウスはこの調子だ。

 その涙から、彼女にとってディアベルに拒絶されることがどれだけ重大なことなのかが分かる。

 対してディアベルの方は特に何も思っていないようで、先ほどからアーデウスの涙が服に付かないようにすることだけ気を付けていた。


「アーデウスさん。泣かないで‥‥ほら、これあげる」


 リーベルはどこに隠し持っていたのか、飴玉を取り出して、アーデウスの口に入れた。

 アーデウスはその飴玉を舐めた瞬間、目から涙が溢れ出す。


 リーベルの優しさに触れたアーデウスはリーベルを抱き寄せ、髪の毛が崩れるほど撫でまわした。


「わぁ~ん!! マジ天使~~!!!」

「えぇ~? 私はエルフだよ?」

「もう、かわいい! エルフちゃん。私とセッ‥‥」


 アーデウスが何かを言いかけた瞬間、ディアベルが強く睨みつけた。


「セッ‥‥セッションしましょう?」

「セッション? でも私、楽器なんて弾けないよ?」


 とにかく、リーベルのお陰もあってアーデウスは落ち着きを取り戻した。これで何とか話ができる状態になったわけだ。


「じゃあ、何が聞きたいの? どうせ、その為に来たんでしょ‥‥ディア」


アーデウスは涙で少し赤くなった瞼をディアベルに向けながら、自身の期待からは逸れたことを聞いた。


「えぇ、では‥‥場所を変えましょう」


 一切話し声が漏れないような密閉された部屋に場所を移す。

 そして、互いに向き合いように座ると、質疑応答が始まる。


「それで? 何が聞きたいの? 地獄のことなら答えてあげられるけど」


 ここは慎重にした方がいいか? ディアベルの時はリーベルが勝手に話してしまったけど、全てを話してしまっては、またどこかで面倒になるかもしれない。


「う~んと、ロリちゃん」

「ロリちゃん‥‥」

「ディアと話をしたのなら、”信頼”がどれほど悪魔にとって重要かは知っているでしょ?」


 信頼‥‥確かに重要だが、悪魔相手に信頼も何もあるのだろうか? 

 正直まだ心の中では、ディアベルがわたしたちに対して放った”信頼”という言葉も、わたしからすればまだ胡散臭い。


 納得していない様子のわたしに、アーデウスは肘をつきながら両手を結んで、その上に顎を乗せながらわたしを鋭く見つめた。


「”信頼”は、悪魔の生命線なの。悪魔にもいろんな種類がいるけれど、貴族悪魔を除けば、全員罪を犯した人間。つまり、元は全員悪人なのよ。中には善人面している奴もいるけど、一度罪を犯している以上、悪人であることに変わりはないし、信頼もできない」

「え? でも信頼が重要だって今‥‥‥」

「そう、だから悪魔たちは絶対に裏切られないように、常に対価を求めるの。だからこその”契約”という信頼の手段を取るのよ。互いにメリットを提示して、相手にデメリットという代償を与えることで、縛り、そして信頼を手に入れる。残念だけど、私たち悪魔は天使のように慈悲を与えたりなんかしないの」


 先ほどとは打って変わって、悪魔らしい物言いのアーデウスに固唾を飲む。


「けど、絶対に悪魔は裏切らない。‥‥どう? ディア、私今すっごくかわいかったでしょ?」


 アーデウスはせっかく作り上げた雰囲気を一気に壊すように、かわいさを無理やり詰め込んだような笑顔をディアベルに向けた。


「あーはいはい、いいから続けてください」

「んーもう、相変わらずね。‥‥でも、そういうところが好きぃ」


 悩んでいるわたしを隣でリーベルが心配そうに見ていた。

 リーベルはディアベルの時にうっかり計画のことを話してしまったことを後悔しているのか、今回は余計なことを喋らないように大人しくしていた。


 確かに、アーデウスの言う事は正しい。彼女は情報屋としてわたしたちと話をしているが、それは情報を一方的に提供してくれるという意味ではない。つまりは、情報を手に入れる為の対価を提示しなければならないということだ。


 仕方ない‥‥と、溜息をついた。


 リーベルに目配せをすると、リーベルはわたしが何を言おうとしているのか分からず首を傾げた。


「えっと、リーベル? その、前はダメと言ったが、今回は計画について話してもいいよ」

「‥‥いいの?」


 リーエルはその長い耳をピコピコと揺らしながら、嬉しそうにアーデウスに計画について話した。


「なるほどぉ‥‥魔王を復活させる。道理でディアが興味を持つわけね」


 アーデウスは納得したように頷いた。


「魔王‥‥久しぶりにその名を聞いたわね」

「もしかして、会ったことがあるのか?」

「いいえ。魔王がいた時代には既に悪魔として生きていたけど‥‥会ったことは‥‥むしろ、ディアが‥‥‥」


 アーデウスはディアベルを横目で少し見たが、その変わらない表情を見て、それ以上言うのを止めた。


「魔王と聞いて気になったのだけれど、ロリちゃん。あなたどうして魔王の魔法が使えるの?」

「それは‥‥‥」


 そんなことは、わたしが知りたいぐらいだ。

 望んでもいないのに、誰が何のためにこの魔法をわたしに授けたのかを知る為に、わたしはこの計画に協力しているんだ。


 一つだけ、不幸中の幸いがあるとしたら、今はこの力を壊す為じゃなく、守る為に使えている。これだけが唯一の救いだ。


「‥‥う~ん、まぁ言いたくないのならいいわ。私も質問するのなら何か対価が必要だものね。とにかく、魔王復活計画。それに、魔王の残滓。中々面白い情報が手に入ったから、私からも情報を提示してあげないとよね」


 そう言うと、アーデウスは意味もなく胸の間から何か黒い球体を取り出し、机の上に置いた。


「これは‥‥何だ?」

「さぁ、分からない」


 投げやりな発言をするアーデウスに、ディアベルは「アウス」と低い声で切り捨てる。


「あ、ちち違うのよ? 本当にこんなもの知らないの。だからこうやって見せて、何なのかあなたたちに聞こうと思ったのよ」


 ジジジジジジジジジジ‥‥‥‥


 その時、微かに<影収集機>の針が揺れた。

 まさか、魔王の残滓? いや‥‥でも、指輪の時ほど揺れてはいない。つまりは、”影”ではあるけれど、魔王の残滓ではない?


「これ、どこで手に入れたんだ?」

「これは、私のお客さんが持ってた物よ。お金が無いからって代わりにこれを渡してきたの。最初はただの宝石か何かかと思ってたけど、そのお客さんが<支配欲>のところの領地から来たと知って、こうやって置いといたのよ」

「<支配欲>?」


 わたしが頭に疑問符を浮かべていると、ディアベルが話を補足するように情報を付け加えた。


「あぁ、<支配欲>の悪魔ですよ。最近業魔になった新米です。業魔は大抵領地を持っていて、複数で群れていることが多いのです。ちなみに、ここはアウスの領地で、サキュバスの街です」


 ‥‥なるほど、道理で女性悪魔しかいなかったわけだ‥‥‥


「ディアベルも領地を持ってるのか?」

「いえ? ザコを集めたところで何になるのですか?」


 ディアベルはさも当然の如く聞き返した。


「‥‥そ、それで? その<支配欲>の領地から来たら、何かあるのか?」

「それはね‥‥これは、本当に極秘の情報なんだけど、今回はディアを連れてきてくれたお礼に教えてあげる」


 そうしてアーデウスは顔を近づけ、他には誰もいないが、他の誰にも聞こえないような小さな声で話し始めた。


 その話を聞いた瞬間、驚きで目が丸くなる。


「え!? 悪魔たちが攻めて来るの!?」

「しっ! リーベル、声が大きい」

「‥‥あ、ごめん」

「えぇ、まぁそうなの。独自のルートで<支配欲>の領地の女の子たちから色々聞いてみたら、どうやら<支配欲>のやつ、人間界に攻め入ろうとしているみたいなの」

「ほぉ。ですが、悪魔は本来人間界に行くには、契約等が必要では? ワタクシでもあるまい」

「さぁ、そこまでは流石に分からないけど‥‥ロリちゃんはどうやらこの黒い球体のこと、何か知ってるみたいだし、どう? 何か分かる?」


 この球体‥‥<影収集機>が少し反応しているし、それに‥‥さっきから、闇魔法の影が激しく反応している。


「多分‥‥これは魔王の残滓ほどではないが、その力の影響を受けた水晶? だと思う。もう魔法としての効果は無いみたいだが‥‥微かにわたしと同じ闇属性を感じる。少し、触ってもいいか?」

「えぇ、いいわよ」


 わたしがその黒い球体に触れた瞬間、一気に体の奥底から魔力が溢れ出した。


「な!? 影が勝手に‥‥!!」

「ミリア!!」


 わたしの意思を無視して、触手が水晶を貫き、その中から黒い霧のような魔力が流れ出した。


 これは‥‥闇属性の魔力? まずい、わたしの影が勝手に吸収している!!


「おや‥‥どうやら、魔力暴走を起こしているみたいですね」

「ミリア! どうしよう、助けないと!!」

「ふ~む‥‥ワタクシでは怪我をさせてしまうかもしれませんね。アウス、お願いできますか?」

「えぇ‥‥えぇ!! ま、まさかディアが私を頼るなんて‥‥ふふっ、ふふふふふっ」

「早く、してください」

「え? えぇ! さぁ、ロリちゃん。少し‥‥おねんねしましょうね」


 =睡魔の香=

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