14話:四魔将
はぁ、本当に災難だった。あのエスタルといかいう天使、態度的にはもう悪さはしなさそうだが、面倒な奴に慕われても嬉しくはない。
ただ、一つ気付いたことがあった。この天使が神格化されている状況、かなりまずいな。今すぐにどうにかできることではないが、もしかするとシリウスが言っていたことは強ち間違っていないのかもしれない。
そんなことを思いながらも、わたしたちは最後のやるべきことをする。
わたしはリーベルに連れられて、彼女の母親アイベルの墓に来た。
墓の前に着くと、リーベルは暫く髪で顔を隠すようにして俯いていた。
その目先には、彼女よりも小さい石の中に入ってしまった母親がいる。
「リーベル、大丈夫か?」
わたしがそう呼び掛けると、彼女は俯いていた顔を上げて、空を見た。
「ママ、元気にしてるかな?」
「‥‥きっと、そのはずだ」
「ママは優しいし、私が勝手に里を抜け出しても、怒るけど‥‥最後には許してくれた。あなたは元気な子ねって。私のこと、王女としてじゃなくて、娘として扱ってくれたし、私のこと‥‥‥」
その時、リーベルの声が止まった。
彼女の声は発せられる度に震えが強くなっていく。その声には様々な感情が混ざり合っていて、感情が優先されないように次に発せられそうとしていた言葉を下唇を噛んで無理やり押し込んだのだと気付いた。
その言葉が何なのかは分からない。
だが、それはきっと彼女の母親がよく彼女に対して言っていた、とても温かいものなのだと思う。
「リーベル‥‥?」
「‥‥ううん、何でもない。きっと今頃天国で‥‥って、あんなことがあって、天使がいっぱいいるところに行ってたら、何だかちょっと嫌だけど」
リーベルは自分のちょっとした冗談をおかしく思いながら、わたしに顔を向けた。
リーベルは笑っていた。しかし、それは瞳から流れる涙を笑い涙として隠そうとしているだけに見えてしまった。
それが彼女の決断なら、わたしから言うことはない。それで少しでも彼女の心が落ち着くのなら、それが最善だ。
ひとまず、これで問題事はある程度解決と言える。
ある程度待っていたら、シリウスの方も指輪の改造を終わらせていた。そして、リーベルは指輪に魔力を溜め込んで、それをイシュタルテに渡した。
イシュタルテによれば、その魔力があれば100年は問題ないとのことだ。
エルフの里の周りに張られた結界は、光属性の魔力を原動力として動いているらしく、リーベルの魔力さえあれば、後は任せても大丈夫とのことだ。
これで、今度こそリーベルは自由の身になった。わたしとしてはエルフの里に残ってもいいのではと思ったが、リーベル的にはわたしと一緒にいたいらしい。別に、どっちでもいいが‥‥‥
そうして、わたしたちはシリウスの家に戻った。
「さて、さてさて。お帰り、ケガレちゃん、それにリーベルちゃんも」
「ただいま‥‥でいいの? シリウスさん。今更だけど、この家ってシリウスさんのものだよね? 私はまだシリウスさんにしっかりと挨拶とか‥‥‥」
リーベルは家に着くと、少し申し訳なさそうに家主であるシリウスに対して、かしこまった様子で挨拶をしようとした。
しかし、その瞬間、面倒事を嫌うシリウスは頭を下げようとするリーベルのおでこに人差し指を当てて、その挨拶を阻止した。
「もう~、そんなのいいよ。ボクはね、興味のある対象には優しいんだ。別にキミのこと自体を面倒だとは思ってないし‥‥キミの魔力、なかなか興味深いしね」
「そう‥‥なの? 良かったぁ、じゃあ、シリウス‥‥って呼んでもいい?」
‥‥は?
「あはは、もちろんさぁ~」
「じゃあ、私のことはリーベルって‥‥‥」
「うんうん、よろしくね。リーベル”ちゃん”」
「あれ~?」
ちっ、何よ。そうやってすぐに誰とでも仲良くなるわけ? イシュタルテの時といい、シリウスまでも‥‥‥
「どうしたんだい? ケガレちゃん」
「何でもないわよ。‥‥じゃなくて、何でもない!」
「あはは~。そうだ、ケガレちゃん。キミが今回手に入れた魔王の残滓についてだけど‥‥‥」
そうだ、魔王の残滓。何となく手に入れたが、そういえばわたしの中? に入っている状態だ。このままでは魔王を復活なんてできるのだろうか?
「まさか、ケガレちゃんに適応するなんてねぇ~」
「え? でもシリウスは指輪をミリアにはめるんだ! って言ってたけど、あれはその、魔王の残滓? をミリアが使えると思ったからじゃないの?」
「そうだねぇ~、まぁ、確かにそうとも言える。ケガレちゃんは魔王と同じ闇属性の魔力を持っているからね。魔王の残滓にも適応できるとは思っていた。とはいえ、あの時はかなりの賭けではあったけどね」
「おい‥‥つまり、わたしはあの時普通に死ぬ可能性もあったっていうことか‥‥‥」
「ボクはそう思わない。ボクは無謀な賭けはしないタイプなんだ。それに、あの時はリーベルちゃんが守っていてくれたしね」
「私が‥‥?」
「おや、まさか気付いていなかったのかい? あの天使の攻撃が飛んできた時、リーベルちゃんのその濃密な魔力が活性化して、天使の魔法を打ち消した。正直驚いたよ。どちらにせよ、ボクが何とかしようと思ってはいたけど、まさかリーベルちゃんにあれほどの力があるなんて。相手は伯爵の天使、だから上級天使の中では少し格下とはいえ、あの上級天使の魔法を魔力だけで防いだんだから。誇っていいよ、リーベルちゃん」
「えへへ~~」
そうか、道理であの時無事だったのか‥‥‥
というか、シリウスも助ける気があったのなら、もっと早く助けてほしかった。正直、あの時は少し、いや本当にかなり痛かったのに‥‥‥
「あはは~、ごめんねぇ、ケガレちゃん」
「はぁ、思考を読んで返事をするな。はぁ、まぁいい。それで? 魔王の残滓、わたしの中に入っちゃってるが、どうするんだ?」
「それについて考えていたんだけど‥‥どうやらケガレちゃんの魔力と完全に混ざり合って、もう既に一心同体‥‥というか、まるで本来の場所に戻ったようになってる。だから、もう取り除くことはできないんだけど‥‥じゃじゃ~ん!」
シリウスは満面の笑みで一冊の大きな魔導書? を取り出した。
「これ、ボクが新しく開発した魔道具。その名も<魔王の書>。これまでケガレちゃんの魔力に関してはずーっと研究していたからね。その闇属性を写せるようにしたものが、この<魔王の書>さ。つまりは、この中にケガレちゃんの魔力を保存して、それを基に研究し、魔王を復活させる方法を導き出す! ということさ」
なるほど、というか‥‥ん? 待て、まさか魔王の復活方法に関してはまだよく分かっていないのか?
「おやおやぁ~、ケガレちゃん。まさかこのボクが何も分かっていないまま行動に移しているとでも思っているのかい? もちろん、そんなわけない。ひとつ、可能性がある」
「可能性?」
「そう、今回手に入れたのはケガレちゃんの命名を借りると、紛争の影。魔王が起こしたあらゆる争いに関する魔力で、魔王の武力ともいえる魔力だ。だけど、魔王がただ武力だけで世界の頂点になりかけたなんてことはない。あくまで歴史を記した文献による言い伝えのようなものだけど、魔王にはもっと多くの力があった。そして、その中には死者を蘇らせるものもあると言われている」
「つまりは、その死者を蘇らせる力を持った魔王の残滓を探して、魔王を蘇らせるということか?」
わたしがそう言うと、シリウスは指をバチンっと鳴らした。
「ビンゴ! その通りさ。まぁ、もちろんそんな簡単にいくとは思ってないけどね。だからこれからも魔王の残滓を集めて、魔王に関して研究し、いざその時が来ても万全の状態で迎え撃てるようにするのさ」
「はぁ、魔王を蘇らして早々、こっちが滅ばなければいいけどな」
「あはは~。まぁ、ボクが思うに、魔王はそういう存在ではないと思うけどね」
「ん? どういう意味だ?」
シリウスはそこで会話を止めた。こいつ、やっぱり何か隠してる。‥‥はぁ、まぁいいか。
その時、隣にいたリーベルの抜けた声が聞こえてくる。
「う~、二人が何の話をしてるのか分からなくなってきたよぉ~」
「あはは、ごめんね。せっかくだし、ここからはもっとワクワクするような話をしようか」
「ワクワクする話?」
「そう、これからキミたちが具体的に何をするのか、という話さ」
そうだ、今回は偶然魔王の残滓を見つけられたけれど、次もそう上手くいくとは限らない。
魔王の残滓を見つけるには‥‥魔王のことをよく知る者‥‥確か、前シリウスが何か言っていたような‥‥そうか!
「おや、ケガレちゃんは気付いたみたいだね。そう、魔王軍幹部<四魔将>だ。彼らに会いに行こう!」
次回から第三章に入ります。
ついにあの種族が登場します。
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