エピローグ(後編)
あれから何年が経ったのだろうか。
今でも昨日のように思い出してしまう。
シリウスの提案から始まった、【魔王復活計画】は紆余曲折? それどころか、もう本当に迷って、迷って、迷いまくった結果、今の場所に辿り着いた。
昔に比べたら、今の世界は比較的良いものになった、と思う。
悪魔が人間たちに受け入れられるのにはもう暫く掛かるかもしれないが、それも遠くはない未来に思える。それに、貴族や平民みたいな身分の差も、完全に消えはせずとも薄まりつつある。
わたしたちが目指す、種族や身分関係なく謝ることができる世界というのは少しずつではあるが、達成されていっている。
こんな風に昔を思い出してしまうのも、世界が進んでいる証拠なのかもしれない。
今日はマオの十三歳の誕生日だ。つまり魔力啓示の儀の歳である。
あの子が産まれてもう十三年も経つのか、とびっくりする。
リーベルとはいろいろ一緒に悩んだ。まず、どちらが嫁いだことになるのかとか、どちらが子を産むのかとか。女性同士だからこその不思議な悩みがあった。
結局は、リーベルが全てを引き受けてくれた。だから今、リーベルの本名はリーベル・ランタノイドになっている。マオを産んだのも、わたしではなくリーベルだ。
リーベルと出会えたことは、本当に良かったと思ってる。
神が決めた運命かもしれないし、そうじゃないかもしれない。少なくとも、リーベルが決めた運命ではあったし、それを受け入れたのはわたしだった。
わたしたちが神となった今、ある意味では神が決めた運命なのかもしれない。でも、確かに偶然であり、たくさんある未来の糸からたった一つ掴んだ、幸せな未来だった。
「ミリアは食べなくてもいいの?」
ぼーっとしていて、パーティ会場の隅の椅子に座ったまま眠ってしまいそうだった時、両手に小さなお菓子が乗ったお皿を持ったリーベルが話しかけてくる。
「ん? まぁ、もうお腹はいっぱいだから」
「そう? あんまり食べてないと思うけど」
「いや、リーベルがおかしいだけ。そんな風に二つも食べるなんて」
「もぅ! 違うよ。こっちはミリアの」
片方のはわたしのだったらしい。まぁ、リーベルは優しいから分かっていたからそうなんだろうなとは思っていたが。
「もう、からかわないでよ」
「ふふっ、じょーだん」
リーベルからお皿を一枚受け取って、その上に乗っているお菓子を口に運ぶ。
「もうマオも十三歳なんて、時間が進むのって早いね」
もぐもぐしながら聞いたあと、呑み込んでから答える。
「そうね。昨日産まれたばかりみたい」
「それは言い過ぎだよ」
「そう?」
二人向き合うと、思わず笑い合ってしまう。
なんだろうか。何気ない会話だけですぐに楽しくなってしまう。歳か? いや、もう歳は取らないんだが。
笑いが収まった後、「リーベル‥‥」と優しく呼ぶと、「ミリア‥‥」と優しく返って来る。
お互いに顔を近づけていって、それでキスをした。
「―――あー! ママとお母さんがちゅ~してる!」
声が聞こえて思わず咳き込むように唇を離した。
声の方向に目を向けると、マオがわたしたちを指差してからかうような顔をしていた。
「アーデウスに言っちゃおー」
「なっ!?」
そんなことしたら、面倒くさくなる。
本当にアーデウスのところに行ってしまいそうだったマオを触手で掴んでこちらに引き寄せて抱き締める。
「んぁー! 離してー!」
「ダメ。今のは内緒」
「ぶー」
頬を膨らませるマオの頭を撫でてなんとか機嫌を取る。
マオの魔力啓示の儀も終わって夜になったから、今はマオの誕生日パーティをしている。
その誕生日パーティに皆を誘うために今日は朝からいろんなところを回っていたから普通に眠いんだが、仕方ないか。親となった以上、子の誕生日パーティは楽しまないと。
「ほら、パーティに来てくれた皆に挨拶しに行かないとな」
「うん‥‥‥」
まずはディアベルとアーデウスのところに行く。と思ったら、ロリエルとグレイアの二人と一緒にいた。
「これおいしいわ! これもおいしいわ!」とお菓子を漁りまくるアーデウス。
「はい。此度のパーティではランタノイド家の料理人たちが一同に集まってお食事をご用意させていただきましたから」と少し自慢げに言うグレイア。
「甘いものはほどほどに好きですが、この紅茶は素晴らしい。気に入りました、これを淹れたのは誰ですか」と紅茶のカップを持ちながら珍しく興味深そうに言うディアベル。
「ふっふ~ん。その紅茶を入れたのは、あ・た・ち、ですの」と鼻高々と言うロリエル。
「チビですか。はぁ、まっずいですねこれ」
「なんですの!?」
そこでわたしたちも会話に混ざる。
「おや、ミリア様」
「楽しんでるか?」
「えぇ、もちろん。此度は素晴らしいパーティにお誘いいただき、感謝しますよ。ところでマオ様」
「ん? なに?」
「この後、一緒にパーティを抜け出しませんか?」
アーデウスが煽るような顔でマオを見て言う。
「い、嫌だ!!!」
「ふふっ」
あはは、と少し呆れているとアーデウスが近づいてきて、耳元で小さく言ってくる。
「ね、ねぇ」
「なに? お菓子だったら別に持って帰ってもいいけど」
「そうじゃなくて、前に言った件よ」
あぁ、確か、アーデウスはディアベルとの子どもが欲しいと言っていたな。
それで同性でも子どもを成すことができるわたしとリーベルの力を借りたいと。
「まぁ確かに、わたしとリーベルの力を使ったら二人の血が繋がった子どもができる」
「おっほほ~! いいわね~」
「でも、しっかりとそのことをディアベルに言ってからじゃないとダメ。お前、ディアベルに言わずに内緒でやろうとしてるだろ」
アーデウスが露骨に顔を逸らした。
はぁ、別に今のディアベルだったら許してくれるどころか、進んで受け入れてくれそうなのに。
どうしてアーデウスはこういうところで臆病なのだろうか。
「お嬢様」
「ん?」
「良かったのでしょうか。わたくしもこのパーティに参加して」
突然話し掛けてきたと思ったら、そんなことを気にしていたのか。
「わたくしもメイドとして、ロリエルも‥‥‥」
「大丈夫」と遮るように言う。
「今回は二人も誘った。ただそれだけのことよ」
「‥‥はい。ありがとうこざいます」
相変わらずメイド感が抜けないグレイアがリラックスできるように肩をポンッと軽く叩く。
まぁ、メイド感が抜けないって言っても、メイドだから仕方ないんだが。
次に向かったのはシリウスのところだ。
シリウスの隣にセレスティアがいるのは当然として、ミカとローズさんもいる。ミカに関しては‥‥一応呼べた? のか? 普通に強制連行されただけにも思えるが。
あとそれに‥‥‥ロゼリアとアリシアとフェシアさんまでいる。なかなかの大所帯になってる。
「おや、ケガレちゃん」
話し掛ける前にシリウスが気付く。
相変わらずわたしのことをそう呼ぶ。まぁ、気にしてはいないが。
こんなにも早く気付かれたのは、彼女によると真理の瞳の精度が増したかららしい。神であるわたしたちの思考も覗けるようになったとのこと。
それでわたしが話し掛ける前に思考を読んで気付いたのか。
「ミカはなんだかんだ呼べたんだな」
「まぁね」
「いや、あたいは‥‥」
「あははっ、大変だったんだよ。あたしがどれだけ説得しても首を縦に振らないから、もう転移魔法で無理やり連れてくることにしたんだよね」
セレスティアの説明にあははっ、とわたしは笑う。
「ミカは普段柔らかい口調ですが、こういうところでは硬いですから。一応私がスケジュールを開けておいたので、今日は時間を気にしなくて問題ありません」
「はぁ、マリーは無駄にしっかりしてるんだよ」
「なにか?」
「わー、なーにーもー」
誤魔化すように幼い口調に戻したミカだった。
次にシリウスたちの奥にいた、アリシアとフェシアさん、そしてロゼリアに話し掛ける。
「あ! アミリアスちゃんにリーベルちゃん。それに、マオちゃん」
時が経って、背もわたしより十センチ高くなったアリシアが迎えてくれる。
「久しぶり、アリシア」
「って言っても今朝来てくれたけどね」
「まぁ、そうか。それで、お腹の子はどうだ?」
わたしはアリシアのお腹を見ながら言う。
アリシアのお腹は膨れていた。太ったのではなく、命を宿したのだ。
そしてもちろん、フェシアさんとの子だった。
半年前、アリシアとフェシアさんがわたしたちに子を創造して欲しいと頼んできた。二人が愛し合っていることは知っていたから、二人が望むならとわたしたちはその頼みを受け入れた。
それで生命の権能とリーベルの魔力を使って、フェシアさんの魔力を基に創り出した命の源をアリシアのお腹に入れることで二人の子を宿した。アリシアが産む役を選んだのは二人がしっかりと相談した上での決定だった。
「もう半年ってことは、もう少しだね」
リーベルが愛おしそうに言う。すると、フェシアさんが近寄ってきて、「はい」と優しく返す。
「お二人とも、ありがとうございます」
フェシアさんが頭を下げてくる。それに続くようにアリシアも頭を下げた。
「だ、大丈夫だよ。二人が愛し合った結果なんだから。私たちはちょっと手助けしただからね、ミリア」
「まぁ、そうだな。感謝されるようなことはしてない。というか、お腹が重たいのにパーティに来てくれて、むしろこっちがありがとうって言いたいぐらいだ」
顔を上げた二人はもう一度「ありがとうございます」と言う。
その時、アリシアのお腹を興味津々に見ていたマオに、アリシアが「触る?」と言う。
マオはアリシアのお腹にぺたりと耳をつける。
「‥‥わっ! 今蹴ったよ!」
嬉しそうに言うマオに思わず、昔のリーベルのお腹を思い出して微笑んだ。
「すごいですわね~。時代が進んでいますわ」
そんなことを言いながら現れたのはロゼリアだ。
「あれ? もしかして、ロゼリアちゃんもそういう相手がいたりするの~?」
アリシアが迫るように言う。ロゼリアはそれに対して手を前にぴたっと貼るように突き出して止める。
「王女様。わたくしは独身貴族なのですわ~~~~」
相変わらず伸びた声でロゼリアが言う。
「独身貴族って‥‥使い方違うくないか?」とぼそりとツッコム。
「え~、でも最近アクチノイド家のフランカって子と仲良いって聞いたよ~?」
「なっ!? フランカとは‥‥そ、そういう関係ではないですわ‥‥」
「ほんと~?」
アリシアの問い詰めにロゼリアは「むむむっ」と顔を赤くする。そんな分かりやすい反応あるか?
「ほら、アリシア。あまりいじめたらかわいそうですよ」
「はぁ~い」
「アリシアちゃん、子どもみたい!」
「マオちゃんに言われたくはないな~」
アリシアたちに別れを告げて、わたしたちは次の場所に向かう。
パーティ会場の二階は会場全体を見渡せるように開けていて、わたしたちは二階に上がる。
そこに置かれていた一つの机に向かい合うように置かれている二脚の椅子に座ったお父様ともう一人、エルフを見つける。
「お父様」
「ミリア。どうした」
「挨拶をしに参りました」
「そのようなことはせずとも‥‥いや、いい。すまないな、わたしも誘ってもらって」
「いえ、お父様はマオのおじい様ですから。参加してもらわないと困ります」
「あっはは、そうだったな」
そういえばお父様はよく笑うようになった。
わたしとリーベルが結婚してから、マオが産まれてから、そういうことがお父様にとっては幸せだったらしくて思い出すように笑う頻度が増していった。
同じように、お母様にも笑って欲しかった。
もう叶わないことだとは分かっているが、願うことはできる。
明日、マオを連れてお母様の墓に行こう。あとリーベルのお母さんの墓にも。それで、マオが十三歳になったこと教えてあげないと。
そう決心して、お父様の向かい側に座っていた男性のエルフに目を向ける。
目が合うと、その男性はたじろいで目を逸らしてしまうが、その時リーベルがその男性の背中を強く叩いた。
「もうっ! ビシッとしてよパパ」
「す、すまない。いやその、アミリアス殿。御父上とは仲良くさせてもらっている」
「あ、は、はい」
「いやその‥‥‥う、うむ」
リーベルが「はぁ~」と長くため息をついて呆れていた。
そう、この男性はリーベルの父親だ。昔、あんなことをした父親だったが、リーベルは父親を許した‥‥いや、それも違うか。
謝る機会を与えたのだ。
リーベルの父親は確かに間違えた。そのことを本人も自覚していた。だから、謝りたいと思っていたのだろう。
マオが産まれる前のことだったが、今でも強く覚えている。リーベルが自身の父親と話をした時、その父親は何度も何度もリーベルに謝っていた。その謝罪にどれだけ意味がなくとも、謝っていた。
そんな父親を見て、リーベルは再び「パパ」と呼ぶようになったのだ。再びそう呼ばれた時、父親は全ての後悔を背負った上で泣いていた。
「あ、ミリア様」
黙りこくる父親を見ていた時、横からイシュタルテが声を掛けてきた。
「イシュタルテ。パーティはどうだ?」
「楽しませていただいてます。今は少し休憩させてもらってます」
「そうか。ところで後ろのそいつは‥‥‥」
イシュタルテの後ろにいた天使に目を向けると、目が合ってしまって近寄ってくる。
「お~、主様! 此度はこのような素晴らしいパーティにお誘いいただき感謝いたしますぞ! ワタシは猛烈に感激しているのです。マオ様のお誕生日という素晴らしい日にこれほどの幸福を感じることができるとは」
早口のエスタルに「わ、分かったから」と若干引きながら言う。
そんな時、一階の方から声が掛かる。
「おぉ~い! ケガレちゃぁ~ん!」
一階を見下ろすと、シリウスがこちらに手を振っていた。
皆で一階に降りてシリウスのところまで行く。
シリウスの前に着いた時、突然シリウスがどこから出したのか、目の前になにかを差し出してくる。
それを見てわたしは、
「<影収集機>?」
そう言えば、少し前にシリウスが改良の為にとわたしたちから預かっていたな。
「これまでの<影収集機>とは一味違うよ」
「そ、そうなのか‥‥‥」
「具体的にはどこが進化したの!」
「わたしも気になる!」
何故かリーベルとマオは興味深々だった。
シリウスはもったいぶるように「ふっふ~ん」と腰に手を添える。
「カメラの画質を向上したのさ」
「「おぉ~!」」
「それによって、<影収集機GODEDITION>に進化したのさ」
「「おぉ~~~!!!」」
リーベルとマオの感動の声が大きくなっていたが、わたしは「え? それだけ?」と言ってしまった。
「はぁ~、ケガレちゃんは分かってないな~。カメラの画質向上がどれだけ素晴らしいのかを。なんと、五十倍にまで拡大できるようになったんだよ」
「あ、そう。別に前ので十分だったと思うが」
「も~、分かってないなママは。五十倍だよ? お月様にいるうさぎまで見えちゃうんだよ」
あ、はい。
「あ、あとこれ」
とシリウスが追加で何かを取り出す。
「三脚」
そこは普通なのか。
「これで記念写真を撮ろう。ね? 良い考えだろう?」
「まぁそれは確かに。いやでも、ちょっと待った」
「ん? まだ何か‥‥あぁ、そうか。まだ来てないのがいたね」
その時だった。
タイミング良く、天界の門と地獄の門が同時に開いた。天界の門からはロリエル以外の熾天使が。地獄の門からは四大悪魔が出てきて、最後に飛び出すように出てきたのはキュウベラスだった。
「ぬぉ~! ようやく終わったぞ~!」
と言ってわたしを抱き締め「ミリアよ~!」
次にリーベルを抱き締め「リーベルよ~!」
最後にマオを見つけ、指を気持ち悪い感じでうねうね動かすと「マ~オ~」と近づいていき、「ひぇ~!」と怯えるマオを抱き締めた。
もちろん熾天使と四大悪魔、そしてキュウベラスのこともパーティに誘っていた。
だが、彼女たちは忙しく、連絡を取るのに時間が掛かるから手紙でのお誘いという形を取っていた。それで、パーティが始まってからかなり時間が経ってようやくやって来た。
さっきキュウベラスが『終わったぞ~』と言っていたのも仕事が終わったという意味だろう。
「ぬふふっ、マオよ。大きくなったのではないか~」
「その前に離してよ~。どうして皆わたしを抱きしめたがるのさ~」
「マオはちっちゃくてかわゆいからの~」
キュウベラスはそのままマオを抱き上げてしまう。
「も~、わたしもう十三歳なんだけど」
「童は世界創生歳じゃ」
「そんなことでマウント取らないでよ!」
「ぬははっ」
その時、アネラがゆらゆらと揺れながら歩いてきてわたしに言う。
「ねぇ、酒はある?」
「酒? まぁ、あるが」
「はぁ、飲みたいわ。なんで今日に限ってこんなに忙しいのかしら」
ゆらゆらと揺れたまま倒れそうになるアネラをシェエプが支えた。
「アネラしゃまは今日、ずーっとお仕事で疲れてるです」
「だ、大丈夫なのか? その、無理なら休んでても」
「大丈夫よ、これぐらいでへこたれてたら四大悪魔やってらんないわよ」
「えぇ、そうですねぇ」
びっ‥‥くりした。
急にディアベルが現れてアネラを煽るように言う。その後ろでアーデウスがあわわわと焦っていた。
「四大悪魔なのですから、この程度でそんな風に弱っていては‥‥いけませんよねぇ?」
ディアベルの煽るような視線に、アネラの額にピキッと割れたような怒りマークが浮かんだように見えた。
「黙りなさい、”ニート”。いいわよね、ニートは。ゆっくりできて」
「ふふっ、ワタクシは自由なだけですよ」
「それをニートと言うのよ。馬鹿なの?」
「ほぉ?」
今回の討論? はアネラの勝ちっぽいな。
というかディアベルはすぐに突っかかってくるな。なんだかんだでアネラと仲良いのか?
「ここで喧嘩するなよ」とだけ釘をさしておくと、今度は別の言い争いが聞こえてくる。
「これはボクちゃんのお菓子だぞ! 取るな~天使!」
「は? これを先に取ったのはぼくだ。勝手に自分のものにするな、悪魔」
エンゼルとマルシエルがしょうもなさそうなことで喧嘩している。‥‥というか、本当にしょうもないことだ。お菓子の取り合いって‥‥子どもか。
普段のマルシエルだったらそんなことしないのに、悪魔であるエンゼル相手にムキになっているのか、もしくはエンゼルのアホさにつられたのか。
「まぁまぁ、二人とも。うちらは誘われてきたんやで、喧嘩したらあかん」
ラヴィエルが間に入って収めると、マルシエルは「ラヴィが言うなら」と大人しくなる。
「はぁ? なんでボクちゃんが天使の言うことを聞かないとダメなの~? いやでぇ~す」
「おい、シエスタ。いい加減にしろ」
とバウセルがエンゼルの頭を軽く叩いて「いって~よ」とようやくエンゼルも大人しくなる。
「すみませんね、うるさくしてしまって」
突然、隣からグランシエルが話し掛けてくる。
「いや、まぁ、元気で何より? だ」
「ふふっ。確かに、昔であればあのように喧嘩することもできませんでしたから」
そうだ。確かにそこも変わった。
天使と悪魔があんな風に仲良く? 喧嘩できているのも、世界が変わった証拠だ。
「だとしても、今日はマオが主役だからもうちょっと静かにして欲しいけど」
リーベルがボソッと文句を言って、グランシエルが笑う。
「強く言っておきますよ。ところで、セレスはどこですか?」
「あたしならここにいるけど」
グランシエルの側に来ていたセレスティアが気付かせるようにグランシエルの袖を掴みながら言う。
「あら、セレス、どうですか? 楽しめていますか?」
「それならさっきミリアに訊かれたよ。ほら、お母さんもお菓子食べよ」
「えぇ、そうしましょう」
セレスティアがグランシエルの手を引いてお菓子の置かれた机まで走る。
そして、入れ替わるように現れたシリウスが近寄ってきながら言う。
「おやおや、写真はどうしようか」
「まぁ、それはあとでもいいだろう。というか、今皆を撮ってもいいんじゃないか?」
「それは良い考えだね。じゃあ、ケガレちゃん頼んだよ?」
「え?」
聞き返す前にシリウスに<影収集機GODEDITION>を渡される。
それでシリウスはマオの肩を抱き寄せて、「イェ~イ」とピースした。
「はぁ。‥‥あっはは」と呆れながらも笑ってわたしは写真を撮った。
「ミリア、私も!」
リーベルも加わって写真を撮る。
「今度はボクが撮ってあげるよ」
「いや、普通は家族のわたしが先だろ」
「それはそうだけどさ」
シリウスと入れ替わって、わたしたち家族で写真を撮ってもらう。
それから暫く、パーティを楽しみながら皆の様子を写真で撮っていく。
写真を撮る度、思い出が増えていく。
消えることのない思い出が記憶となって、最終的には幸せになる。
きっと、この写真たちは宝物になる。そう確信している。
パーティの終わりが近づいてきた頃、全員で集まって集合写真を撮る。
「ほら、マオが主役なんだから真ん中だよ」
「うん」
「ケガレちゃんのリーベルちゃんはもちろんマオの両隣だよね」
「まぁ、そうだな」
と、それぞれの配置を決めていったら、シリウスが三脚に<影収集機GODEDITION>をセットする。それで自分の配置につく。
「写真は”恒例の言葉”を言ったら勝手に撮られるようになってるよ」
そう言われて、カウントダウンを始める。
わたしがまず「3」
次にリーベルが「2」
そしてマオが「1」
最後に皆で言う。
「「「「はい、チーズ!!!!」」」」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
あんまり長い感想を言うのはあれなので、これだけ言っておきます。
幸せになって良かった。




