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12話:友達

 わたしが乱入したことで結婚式は中止となり、それと同時に王と長老はこれまでの悪事が明るみに出たことで地下牢に収容された。

 わたしも結婚式を妨害したとして一時的に拘束されたが、リーベルの一声もあり、何とか解放された。


 そして今、わたしはもろもろの説明をする為に応接間でイシュタルテと話をしている。


「では、ミリア様、事情は把握いたしました。少し乱暴‥‥ではありましたが、本当に‥‥ありがとうございます」


 イシュタルテは深く頭を下げた。あまりに誠実な対応に少し驚いたが、本当に彼はあの長老の息子なのだろうか?


「ま、待て。別にわたしは何もして‥‥いや、いろいろしたかもしれないが、そのせいで面倒を増やしてしまった。むしろこっちが謝るべきだ」

「いえ、ミリア様。僕は、僕を救ってくれたことに感謝しているんです。正直、僕もお父さんや王様が何か企んでいると、この結婚には何か裏があると気付いていました。ですが、僕にはそれをどうにかできるほどの力がない。かといって、仮に力があっても、その為の勇気がない」


 勇気。たったそれだけのこと。だが、たったそれだけで済ましていいようなものではない。

 きっと、それはこの世で最も大きな力だが、同時に最もその身を滅ぼす力だろう。無謀な勇気は、ただ自分を殺すだけだ。今回のわたしも運が良かっただけで、変な気を起こしてしまったから死にそうになった。


 だから、彼は間違っていない。


「天使が現れて、ミリア様と戦っている時、僕は隠れることしかできなかった。僕の立場を考えたらリーベル様を守るべきだって分かっていたんですが、それでも‥‥やっぱり怖くて。‥‥ははっ、これじゃあダメですよね」


 イシュタルテは自身の弱さに呆れるように笑った。


「‥‥別に、ダメということはない。お前も、わたしも、勇者じゃないんだから、勇気で自分を犠牲にする必要なんてない。今回のわたしは勇気があったんじゃなくて、ただわがままだっただけだ。ちょっとあの天使にムカついたから、あの王にムカついたから、本当にただそれだけであんなことをしてお前たちに迷惑を掛けた」


 わたしは勇者みたいに誰にでも善意を振りまくことはできない。今回助けたのも、たまたま魔王の残滓があったから。結局はわたしも、良心で動いているわけじゃない。


「ミリア!!」


 突然、扉から元気な声が聞こえてくる。次の瞬間、リーベルが応接間の扉を勢いよく開いて、その勢いのままわたしに飛びついてきた。


「良かったぁ。掴まった時はびっくりしたけど、もう大丈夫なの?」

「リーベル様。ご心配をおかけして申し訳ありません。ミリア様には感謝しなければいけないのですが、それでも結婚式を妨害していることに変わりはないので、拘束しなければならなかったのです。ですが、もう大丈夫です。今は少し、話を聞いているだけですので」

「そうなの‥‥?」


 イシュタルテの説明を聞いて、リーベルは確認するようにわたしの顔を見た。


「はぁ、わざわざわたしに確認する必要はない。イシュタルテの言った通りだ」


 リーベルは安心してホッと息をつくと、わたしの隣に座った。そして、リーベルが来たことにより話が変わる。そう、結婚の話だ。


 王と長老は確かに捕まったが、結婚自体は元からあった話だろう。王と長老の罪は、リーベルを結婚させようとしたことではなく、魔王の残滓という得体の知れない力を利用して、王女であるリーベルを陥れようとしたことだ。


「イシュタルテ。それで、結婚はどうするんだ?」

「結婚‥‥ですか。そうですね、リーベル様はどうなされたいですか? これを決めるのは僕ではないような気がします」

「私は‥‥‥」


 リーベルは今から言おうとしていることを躊躇っているのか、イシュタルテを申し訳なさそうに見た。


「どうか、僕のことは気にせず、正直に答えてもらって構いません」

「‥‥ごめんなさい。その、あなたが悪いからとかじゃなくて‥‥‥」

「えぇ、分かっています。では、この結婚は無かったことにしましょう。もう、お父さんも王様もいませんし」


 イシュタルテは意外にもあっさりと結婚の話を打ち消した。

 結婚は仕組まれたものだが、その被害を受けたのはリーベルだけではない。イシュタルテも同様だ。もし、イシュタルテが誠実な思いで結婚を考えていたのなら、これはイシュタルテを傷つける行為だ。だからこそ、この結婚は最初からあるべきではなかった。


「えっと‥‥その、何か暗い雰囲気ですが、別に僕は気にしてませんよ?」

「ごめんなさい、イシュタルテ。その、嘘はつかなくても‥‥‥」

「あ‥‥えっと、何というか‥‥リーベル様が特別嫌とかではないんですけど、僕‥‥その、女性はちょっと‥‥」

「‥‥え?」


 イシュタルテは恥ずかしそうに頭を掻きながら、衝撃の告白をした。いや、悪いという意味ではなく、単純に驚いたという意味だ。


「リーベル様は素敵な方だと思います。純粋な心も、友達を想う人柄も。だからこそ、ミリア様のような方と巡り会えたのだと思います。なので、リーベル様がエルフたちの未来のことを考えて、結婚をするというのなら、それに従います。ですが、リーベル様にその意思がないのであれば、やはり僕も自由の身ということで、自分の気持ちに従おうと思います」


 ‥‥ま、まぁイシュタルテがそれでいいのなら、それが最善だ。


 わたしも驚いたが、それ以上に驚いて、開いた口が塞がらずにいるリーベルが隣にいた。


「えっと‥‥リーベル? 大丈夫か?」


 わたしがリーベルの肩をトントンと軽く叩くと、リーベルは意識が戻ったかのようにビクッと動いた。


「‥‥は! うん。えっと、つまりイシュタルテは男の人が好きなの?」


 ‥‥な! そんな直に聞くか普通。


「えぇ、まぁ‥‥そうですね」

「すごぉ~い!! 良かったぁ~、イシュタルテを傷つけちゃったのかなと思って。でもそうじゃないのなら、本当に良かった」


 ‥‥そうか、そういう反応になるのか。リーベルの方がよっぽどわたしよりも、彼に配慮できているみたいだ‥‥‥


 次の瞬間、リーベルが突然立ち上がってイシュタルテに向かって手を伸ばした。


「じゃあ、イシュタルテ‥‥ちょっと長いから、イシュ。私と友達になろう!」


 突飛な発言に、イシュタルテも困惑している。


「‥‥‥え? 友達ですか?」

「うん!」

「ですが、流石に王女様と”友達”というのは‥‥‥」

「ダメなの?」

「‥‥いえ、分かりました。僕も王女様とは気が合うと思っていたんです。王女様も僕と”同じ”ですよね?」

「同じ? うん、同じエルフだよ」

「いえ、そうではなくて‥‥‥」


 イシュタルテは顔をリーベルに向けたまま目線をわたしに向けていた。それが何を意味しているのか理解するよりも前に――――


 リリリリリリリリリン!!!!


 突然<影収集機>が鳴り出す。

 この相変わらずうるさい音は‥‥シリウスか。

 わたしは<影収集機>を手に取り、机の上に置いた。


「やぁ、ケガレちゃん。それにリーベルちゃん。後、エルフのキミも」

「これ‥‥すごいですね。どこから話してるんですか?」

「おや、もしかして聞きたいかい? 仕方ないなぁ~、それじゃあまずは魔力の性質変化から‥‥‥」


 まずい。またシリウスのうんちくが始まる!


「あぁ! やめろやめろ! そんな無駄話をしにきたんじゃないだろ」

「はぁ~、せっかちだなぁ~、これだからケガレちゃんは。ま、確かに話があるからこうやって通話してるんだけどね。リーベルちゃん」


 シリウスは突然リーベルに話しかけた。リーベルもその<影収集機>の奥にいるシリウスに集中する。


「キミに問おう。ケガレちゃんは”あの計画”の為に、またいろんな所へ向かうことになる。それで、リーベルちゃんはどうしたい? つまりは、このままエルフの里に残るか、それとも‥‥‥」


 リーベルはわたしの顔を見ると、すぐに<影収集機>に向かって大声を出した。


「私、ミリアと一緒にいたい!」


 一切の迷い無くリーベルはそう答えた。


「‥‥!! ま、待て! この里はどうする? リーベルの光魔法がないと、この里はまずいんだろ?」

「そうですね、確かに王族が持つ光魔法がなければ、この里の守りは薄くなり、他の魔物たちからの襲撃を防げなくなるかもしれません」

「そうなの‥‥?」


 そう、リーベルはエルフの王族。つまりは光魔法が使える。これが無くなれば、エルフの里に甚大な被害をもたらす可能性が十分にある。


 リーベルは考え込みながら、わたしの顔を見ては、どこか悲しそうに目を逸らした。


「ミリアと一緒にいたい‥‥でも、エルフの里がなくなっちゃうのも、嫌。う~、どうしよぉ~~」

「ふっふっふ~、そこでだリーベルちゃん。ボクにいい考えがある。聞きたいかい?」

「うん! 聞きたい!」

「よし、いいだろう。ケガレちゃん、今指輪をはめているだろう?」


 リーベルの元気な返事を聞き入れると、シリウスはわたしがはめている指輪に話の焦点を変えた。


 わたしは手を動かして指輪を目の前に持ってきて、よぉ~く観察する。

 指輪に付いている魔王の残滓は既にわたしの中に流れ込んでおり、それもあってか指輪に付いていた宝石は真っ黒な色から一変、無色透明で透き通っており、光の反射もあって黄金に見えた。


 そういえば、あの時は意識がだいぶ薄れていたから気にしてなかったが‥‥‥

 この指輪、どうしてわたしの薬指にはまってるんだ?


「あぁ、これか」

「そう、それを一時的にこちらに渡してほしい。そしたら、それを少し改造して、装着者の魔力を溜め込めるようにしよう。それを利用して光魔法を使う。そうすれば、全て解決! だろう?」

「そんなことできるのか?」

「まぁ、特に問題はないね。その指輪、もとい魔道具だけど、かなり精工に作られているからこそ、むしろボクとしては扱いやすい。それに、元々それは指輪から装着者に魔力を流すものだからね。それを逆にするだけだから、そこまで時間はかからないよ」


 そうか、それでリーベルの魔力をこの指輪に溜め込めば、光魔法に困ることもない。よし、じゃあ早速外すか。


「外しちゃうの?」


 わたしが指輪を外そうとした瞬間、リーベルがもったいなさそうな顔をしてわたしを見てきた。


「‥‥え? そりゃ、そうしないと‥‥‥というか、いつかまた別のものを着ければいい話だ」

「‥‥え」

「‥‥ん?」

「いいの!! 分かった、何か買ってくるね!!」


 リーベルはそう言って応接間を飛び出す。

 相変わらず元気だなと呑気に思っていると、急激に思考が加速し始める。まるで気付け! とわたし自身に言い聞かせるように、先ほどの会話に生じた微かな誤解を読み解いていく。


「ケガレちゃん。追いかけた方がいいんじゃないかい?」


 シリウスにそう言われて、考える暇がないことに気付いた。


「待ちなさい! リーベル!!!」

誤字報告ありがとうございます!

4/18 9時頃修正済みです。

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