【いじめ女の正しい対処法】
「あなた、なに勝手に廊下でマルス様と話をしてるの!?」
『パァァァン!!』
リラはセリーナの頬を平手打ちした。
「そ、そんなつもりでは⋯」
セリーナは倒れ込み、驚いた表情でリラを見上げた。
私は転校初日にこのようなシーンを目撃した。
⋯私は当学院の理事長の娘である。
元々は別の学校に通っていた。
しかし、当学院で問題が起きているとのことで、それを解決してほしいとの理事長からの願いで、今日転校してきたばかりだった。
「理事長であるお父様からの願いだし、断れないわ」
そんな憂鬱な気持ちで過ごしていた矢先の出来事だった。
当学院の問題とは何か。
そう、このリラの事である。
リラはお金持ちの家に生まれた一人娘で、誰もが振り返る美貌の持ち主、身に着けている物は高価で、正真正銘のいわゆる『お嬢様』であった。
しかし、それを鼻にかけるところがあり、学院内でやりたい放題であると理事長は頭を悩ませていたのだ。
「そんなの、お父様から注意すればいいじゃない」
私がこう言うと、
「それが、私たちの前ではそんな部分は一切出さないのだ。非常に礼儀正しく、成績も問題ない」
お父様は困った顔をしていた。
「でも、周りの生徒から訴えはあるでしょう?」
私が問うと、
「確かに一度あった。しかし周りの生徒も皆、リラの事を恐れてしまってか、本当の事が言えないといった感じだった」
私はあきれた顔をしながら、
「まあ分からない事はないけどさ⋯」
と言った。
「結局、真相は分からないまま終わってしまったのだ。だがその後、訴えた生徒がリラからイジメられているようなのだ」
「それ、お父様がなんとかしないと」
私はお父様をにらんだ。
「まあそれはそうなんだが、私たち大人の前ではそんな部分を見せないのだ。そこで、おまえの出番だ。」
「⋯⋯私に調べろって事?」
私がさらににらむと、
「察しがいいな。ハッハッハ」
とお父様は笑った。
「笑い事じゃないでしょ⋯。で、そのイジメられている子の名前は?」
「セリーナだ」
⋯今まさに、私の目の前でリラがセリーナを平手打ちして、セリーナが倒れ込んでいた。
「マルス様と会話をするなんて百年早いわよ」
リラはセリーナを上から見下ろしながらにらみつけた。
「わ、わたしはただ、連絡簿を渡してただけで⋯」
セリーナがそう言いながら立ちあがろうとすると、
「うるさいわね!口ごたえするつもり!?」
とリラは叫び、またセリーナの頬を平手打ちした。
『パァァァン!!』
「ち、ちょっと待って!」
私は思わず間に入った。
「だれ?あなた」
リラが驚いた表情で聞いてきた。
「私の事はどうでもいいのよ。てか、周りのみんな誰も止めないの!?」
私は周囲を見渡したが、みんなうつむいていた。
「だって、悪いのはセリーナじゃない。あなた、何を言ってるの?」
リラは薄笑いを浮かべながら私に言ってきた。
「悪いって⋯連絡簿渡しただけでしょ!?」
と私が言うと、リラは
「それが生意気なのよ。なんでマルス様と自分が話を出来ると思ってるのって。マルス様は公爵家三世の御曹司なのよ。わたしくらいじゃないと釣り合わないわよ」
と、いら立ちの中にも優越感に浸った表情で言った。
(マルスって学院でそんな存在なんだ。マルスを小さい頃から知ってる私はちょっと笑っちゃうかも)
と思ったが、今はそんな場合ではない。
「そのマルスって人の事は分からないけど、同じ学院の生徒なんだから誰とでも話くらいして当然でしょ!?」
と私はリラを問い詰めた。
「あなた転校生?もしかしてわたしの事知らない?じゃあ教えてあげる。私はブランカ財閥の娘、リラよ。あなたと話をする機会はもう無いと思うけど、よろしくね」
と、リラは髪をかき上げながら言った。
私は、
「その、なんちゃら財閥の娘ってのがあなたの説明文?こちらこそよろしくね」
と、リラが髪をかき上げる仕草の真似をしながら答えた。
すると、リラはキッとこちらをにらみ、
「庶民が生意気ね」
と言った。
私は、
「別になんちゃら財閥の娘である事はあなたの努力じゃないでしょ?勝手に生まれた家がそうだっただけって事でしょ?それを冒頭の説明文に持ってきてたから、それ以外何も無い人なのかなって思って」
と、私は両手で髪を交互にかき上げながら言った。
「あなた、礼儀知らずな女ね!」
リラは顔を赤くして叫んだ。
私は、
「礼儀知らず?礼儀って何かしら?」
とイタズラっぽく尋ねた。
するとリラは、
「礼儀は相手のレベルに合わせた行動の事よ!」
と言った。
なので私は、
「それなら私は礼儀を知っている事になるわ。レベルの高い人にはそれ相応の行動をするし、レベルの低い人には同じくそうするし」
と言った。リラは、
「だからそれが分かってないって事よ!」と言うので、
「ちなみに、私が言ってる『レベル』とは生まれた家とかじゃないわよ。私からみた、その人の『レベル』の話だから。気を悪くしたならゴメン遊ばせ。オホホホ」
と、口に手を添えるポーズを取りながら返答した。
リラの怒りは頂点に達しようとしていた。
「この貧乏人!きっとあなたもセリーナと同じく貧乏人でしょ!」
とリラはののしってきた。
「貧乏?貧乏はいけないことなの?」
と私は聞いた。隣であっけに取られていたセリーナは、少しうつむいた。
「セリーナったら、家にお金がないからって、馬車のフンを掃除する仕事をしてるのよ。本来、この学院に通っていいような身分じゃないわ!」
と、今度はセリーナの方をにらみながら吐き捨てた。
「そう⋯。」
私はクルッと反転し、リラを背にしながら周りの生徒達に向かって次のように尋ねた。
「みなさん聞いて下さい。Aという人物は学業のため、馬車のフンを掃除する仕事をしながら学費を稼ぎ、慎ましく将来のために勉強をしている」
さらに、
「Bという人物は親が金持ちという事を理由に、周りに横柄な態度をとっている。どちらの方が立派で魅力的な人物だと思いますか?」
私は再度クルッと反転し、リラの目をまっすぐみながら、
「答えるまでもないですよね?」
と片方の眉を上げた。
「もう許せない!!」
そして、
『パァァァン!!』
リラは私の頬を力一杯平手打ちした。
「今、殴ったわね」
私はリラに言った。
「殴ったわよ!当たり前じゃない!」
リラは興奮冷めやらぬ様子で吐き捨てた。
私は周りを見渡し、
「みなさん、今の、見てましたよね?」
と言った。
しかし、周りはうつむいていた。
「フゥ、誰も見てないか⋯⋯。じゃあ、今から私がする事も、誰も見てないって事か⋯。」
とつぶやいた。
「何よ?もう一発殴られたい?」
リラは右手を再度、振りかぶるような姿勢を取った。
その瞬間、私は身をかがめてリラの目の前に突進した!
そして、右手で拳を作り、おもいっきり振りかぶり、リラの顔面に向かって強烈な一撃を喰らわした!
『グシャアァァァァン!!』
リラはあまりの衝撃で流血をしながら吹っ飛んだ。
倒れたリラのもとへさらに突進し、私は高く飛び上がった!
そして右膝を折り曲げ、膝先をリラの顔面に突き刺した!
『ドゴオォォォォォオオ!!』
リラの顔面はえぐれ、さらに流血した。
「これで おあいこね!」
私は横たわるリラをのぞきこみながらニコッと微笑んだ。
「う、うぅ⋯⋯」
リラの顔はみるみる腫れ上がり、うっすら涙を流していた。
そこへ、マルスが通りかかった。
「あれ?リラ、どうしたの?」
何も知らないマルスが尋ねた。
「ま、マルスひゃま!な、なんでもございましぇん!ち、ちょっと転んでしまって⋯!」
と、リラは顔を隠しながら言った。
しかし、
「あっ!もう来てたんだ!」
マルスはリラの言葉を聞き終わる前に私に気づいた。
「やっほー」
私は笑顔でマルスに手を振った。
「これから一緒に通えるな!」
マルスは嬉しそうにしていたが、
「うーん、でももう私は元いた学校に戻るよ!この学校は今日だけ!」
と言った。
「えー!さみしいよぉー!」
とマルスが言ってきたので、
「がまんしろ!」
とマルスの頭を『よしよし』した。
一連の会話を聞いていたリラは、
「ま、マルスひゃま⋯」
とつぶやき、そのまま気を失った。
「あとは理事長にお任せするよ!じゃあ!」
と私はみんなに言い残し、学院を去った。
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