第三話 世界を知る
さて、生き残ると決めたからには情報収集しなければ。そう思い、先程持ってきた本を読み漁っていく。
今の西暦は2060年8月3日らしい。俺の生きていた時代から40年後くらいの地球のようだ。そして、「扉」が現れたのは、10年前の2050年12月9日。アニメやマンガ、ラノベが俺の時代より多くの人に読まれ、そのような文化の最先端を走っていた日本では、「ダンジョン説」が真っ先に浮上し、政府が自衛隊を用いて調査に乗りだしたのは、10日後の12月19日。自衛隊は未知の生物と未知の物質を発見したが、未知の生物は凶暴でそれらには銃火器による攻撃が効かなかった。あえなく、撤退せざるを得なかったが未知の物質を持って帰ったという。解析したところダンジョンから持って帰ったそれら全てには、未知の力を持っていることが、当時の最先端技術でわかったらしい。
日本のラノベ作家などの専門家は、その力をマナと呼んだ。また、魔素やマナの力が込められた武器を使えば、未知の生物「モンスター」を倒すことができるのではないか、という意見が上がり、ダンジョン産の鉄を使い銃弾を生産して自衛隊はモンスターと交戦、見事勝利したらしい。
さらに、世界各国で特別な力を持った人間「覚醒者」が現れ始めたそうだ。『LV』、『スキル』、『クラス』、『ステータス』の概念を持つ、まさにRPGゲームのような世界になったという。
ふう〜一旦落ち着こう。まあ、想像通りだった。本当に来てしまったのか……俺の妄想が現実になったこの世界に。
もしこの世界で生きようと思うのなら、ダンジョンの探索を生業とする、冒険者だろう。元の世界でも、大学生だし、もともと頭がいいというわけでもない。今日からバイトを始めたとしても、一日を過ごすための金すらすぐには手に入らない。日雇いで金を貰っても、微々たるものだ。だが、冒険者は登録すれば、すぐにでもダンジョンに潜れるし、探索で手に入った薬草でも、そこそこの金が入るらしい。
正直言って、怖い。モンスターに殺されるかもしれない、致命傷を負うかもしれないという恐怖心が湧いてくる。今までで痛かった経験といえば、中学校の時に放課後、仲のいい友達とバスケをした時、修学旅行で半ケツ状態で寝ていたことから、「半ケツプリンス」と呼ばれていた石井くんがカッコつけながら、俺に向けてキラーパスを放ち、上手くキャッチが出来ず、突き指をした時ぐらいか。思い返せば、今まで呑気に生きてきたものだと思う。大怪我をしたことは覚えてる限りではない。だから、爪や牙、剣が尚のこと怖い。四肢を、胴体を、ズタズタに傷つけられると思うとゾッとする。
一度、自分のほっぺを、バチンッと思いっきり挟んだ。こんなことで怖気付くな、織也。今までなんだかんだで乗り越えられただろう。今更引くことはできないぞ。
自分自身に喝を入れ、決意固める。ここまできたらせいぜい楽しんでやる。そう思い、調べ物を片付けようとまた、紙に目を走らせる。
次に『LV』、『スキル』、『クラス』、『ステータス』についてだ。
『LV』は、想像の通りだがモンスターを倒した後に手に入る経験値により上がる。『LV』が上がるにつれ、各ステータスに影響を与え、時には新たなスキルを覚えるらしい。本当にゲームみたいで、笑える。
『スキル』はいろいろあるが、LVがある一定値に上がると、得ることができる。また『スキルブック』なるものがあるらしく、マナをこめると、その人のマナに反応してスキルを得ることができるらしい。熟練度により強くなり、進化もするようだ。
『クラス』は、いわば『職業』だ。差はあれど、最終的に辿り着く境地は全て同じらしい。そして、種類が半端ないらしい。戦闘職からサポート職、戦いで使えるのか怪しいぐらいのものまで。
『ステータス』は、攻撃力、防御力、素早さ、魔力がある。ステータスは、ステータスオープンと心の中で念じると、目の前に現れるらしい。他の人には見えないようだ。
俺が一番、興味があるのは『クラス』だ。なぜなら自分のクラスが気になるから。例えば、俺が「剣聖」であったとする。剣一本で数々の強敵を倒し、全冒険者の憧れになる。「賢者」であったとする。数多の魔法を自由自在に操り、個人で軍に匹敵する大魔法使いになる。
グフフ、フフフフ……やばいニヤニヤが止まらねえ……
おっといけないけない。厨二心を抑えなければ。
どうやら、神、帝、王、聖、魔が付くものが強いらしい。強いと言っても、スタートラインが通常より先にあるだけらしい。例えば、「剣神」になりたいと考えるとする。「剣士」になったとすると努力することでクラスチェンジの試練があるそうで、選択肢ができるらしい。そこから試練をクリアすると、クラスチェンジできるらしい。
そして同じ系統のクラスでも最高クラスはさまざまだそうだ。先ほどの「剣神」を例にすると、現在では「剣聖」も確認されてるらしい。持っているスキルやステータスが違うんだとか。
忘れていたが、クラスごとに『固有スキル』がある。レベルアップでは手に入れられない特別なスキルだそうだ。
なんかワクワクしてきたぜ。よく夢の中では最強のチート能力で戦ってたから、シミュレーションは十分。
モンスターも見てみよう。姿はよく見る、モンスターと同じで、ゴブリン、オーク、オーガ、ミノタウロス、ドラゴンなど有名なやつから神話や御伽噺に出てくる魑魅魍魎まで、これまたたくさんだ。
モンスターからは、爪、牙、体毛、臓器、これら以外にもさまざま、結構なんでも売れるらしい。その素材は、武器や防具、魔導具、スキルブックなどのの材料にされるらしい。
ここまでがダンジョンに関連しそうなことだ。まだまだ、知っといた方がいい情報があるかもしれないが区切りがいいので休憩。
「ふう〜〜〜〜〜」
今は期待で心が満たされている。夢にまで見た、ファンタジー世界に俺はいる。今にも叫び出したい気分だ。ありがとう、謎の神様。あの怪しい白もや人間に感謝しとく。
さてと。他にも気になったことがあったので調べてみる。
なんかランキングがあるらしい。このランキングは冒険者の中の強さの順位で高ければ高いほど、優遇され、国民からも熱い信頼を得るらしい。冒険者協会が開く、冒険者同士の決闘が行われる大会で好成績を残せば、順位が上がるそうだ。海外もこのようなランキングがあり、世界ランキングもある。世界大会も開かれ、その盛り上がりは俺の時代のサッカーワールドカップ並みか、それ以上か。
このような大会の上位勢は殆どがギルドに所属してる。ギルドは想像通りだが、冒険者が所属する事務所だ。所属冒険者を全面的にサポートして、探索しやすくする。ギルドにもランキングがあって上位七位は七大ギルドとよばれる。先ほど見た「剣ギルド」はその一角らしい。だからあんな建物がデカったのか。
こんなものでいいだろう。いや〜楽しみが結構増えてきた。腰と肩が痛い。バキバキッと骨を鳴らしながら本を元の場所へ戻す。コツコツと静かな図書館に軽やかなリズムが響く。俺の足取りは先ほどまでとは少し違った。これから踏み出す新たな人生に対しての希望と、頭の隅からこべりついて離れない一抹の恐怖と。だが、今は希望の方が大きかった。
「次どうしよう」
図書館から出た俺は呟いた。
時刻はちょうど午後二時過ぎたあたり。ということで、冒険者協会に行こう。冒険者協会で登録して、俺の能力を測定しようと思う。
ここから、神永織也の輝かしい英雄譚が開幕する…………なんてな。
また一歩、その足を踏み出した。
次から本格的に始まります