第8日目 江藤氏の新婚さん占い(交通事故被害者と保険 チャラ男と新妻)
里見君が、入院の請求書を本人の保険で落とすと病院の事務局に言われたということで、病室は昼過ぎからケンケンゴウゴウとなる。
今までは交通事故の加害者の保険会社に請求がいっていたが、過失割合の関係でこれからは被害者が負担する形になるのだというようなことである。同室者連中もよく知らないので里見君の不安は増すばかりだ。
小生は10年ほど前に加害者となった経験があったので、「加害者から保険会社に申し入れてもらって、保証や支払いの仕組みなどを説明しに来てもらったらどうだ」と助言しておいた。
ところが里見君の新妻、静香ちゃんが夕方やって来て話しているのを聞いていると、なにやら怪しい雲行きだ。
「私に任せると云ったのに何で直ぐ電話しなかったの。事故で悪いのはあんたなんよ。下手をすると全てこっちで負担しなければならなくなるわよ。話をするな ら、こちらもメンバーを揃えないと駄目よ」
静香ちゃんは里見君の云うことは全て無駄と一方的に決めつけて喋っている。 面会にきていた矢野さんの奥さんは目を丸くして驚いているし、同室者も気が気 ではなく、声をひそめて小さくなっている。 以前に確か、里見君には、過失の百パーセントが相手側にあると聞いていたので、最初どういうことか見当も付かなかった。が、聞き耳を立てて探ったところによると、横断禁止の国道をパチンコ屋から手前のレーンを横断して右折で出たのだという。里見君の話からは、交差点を右折しようと止まっているときに相手は信号が赤なのに突っ込んで来て当てられた、と理解していたし、前に加害者が見舞いに来たときの里見君と静香ちゃんの剣幕からすれば、到底考えられない事実に大いに驚いた。
里見君は、女の子にとっては、男の子として確かに面白いし、人懐っこいから人気があるだろう。看護婦連中の名前も直ぐ覚えて気軽に声を掛ける。「缶コーヒーが有るから飲みに来い」と真面目そうに誘ったり、「チャでもシバキに行かへんか」等と気軽に無駄口を叩く。また、無断外出をしても悪びれる様子もなく、それが話題を提供して人気を得ている。
静香ちゃんに怒られても、直ぐに「俺が悪かった」と謝れるということは誰にでも出来るということではないだろう。
しかし一方で、若者に有り勝ちな他人への配慮の欠落を併せ持っていて、ここでもテレビを大音量で聞いたり、タバコを大っびらにふかしたり、面会時間を外れて見舞い客と大声で談笑しても悪びれた様子もない。
詰まるところ女の子にとって、一緒に遊ぶのはいいけれど、生活するには苦労の多い、浮気性の男ということになるのだろう。
。また勝ち気な静香ちゃんにとっては、常にふがいなく頼りにならないことばかりが目立ってくる。その前にカスガイとなる子供が出来ないと危ない。 りたい年頃だろうけど、 破局が訪れる。と危ない。二十四歳というのは、まだコブ無しで遊び回りたい年頃だろうけど、早く作った方がよい。そうでないと二年も経たない内に破局が訪れる。
子供が出来てしまえば里見君も子煩悩になりそうだし、静香ちゃんも未来を亭主でなく子供に託せるようになるから落ち着くだろうということだ。
「でもなあ、この間なんか里見君はあと2時間で手術だというのに高イビキで寝とるんだぜ。手術の間は静香ちゃんがここで待っていたんだが、こちらもスースーお休みさ。外野が余り心配せんでも旨くいくんでないの」
1992-02-29