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第3日目 矢野氏の懺悔(ギックリ腰の再発 便秘)

 えっ、

「今日はどうしたんや?」

ですって。そうでしょう、朝から静かでしょう。ちょっとねえ、昨日の晩からまた腰の方が痛いんですよ。ちょっと良くなったんで、調子に乗って動き過ぎたんですかねえ。歩き回ってるときには、なんともなかったんですが・・・・・・。

 面会に来たカミさんには内緒にしていたんですけど、口数が少なく大人しいし、それにときどき、顔をしかめたんで、バレてしまいましてねえ。「昨日ちょっと歩いた」と言ったものだから・・・・・・。前にお話ししたようにウチでも一度やってたものだから、

「何度繰り返したら判るの」と、怒鳴られちゃいましたよ。

 ああ、聞いておられましたか、はははは・・・・・・。

 それで、トイレに行くのも禁止ですよ。シビン、生まれて初めて使うんですけど、上手く出来ませんねえ。最初は、こっちは気張っているつもりなのに全然出てこないんですよ。慌てますねえ。病室の中だから音を立てないように気も使うんです。シビンの内面をめがけて放水するのは、技術が要りますねえ。

 そして、何回分かが溜まったら、看護婦さんにお願いして捨ててもらうというのは気が引けます。頼んだときに「はい、わかりました」と言って、嫌な顔一つしないんで、本当にホッとしますよ。ここの病院は足の骨折やらで一時的にしろ歩けない患者が多いですから、笑顔で接するように教育してくれているんですかねえ。特に若い子は内心、イヤでしょうけど。

 それはそうと、こんなときに『大』の方はどうするんですか。えっ、その空色のチリトリみたいなのを尻の下にしてやるんですか。そりゃあ『小』よりも出難いでしょうねえ。

 私ですか、不思議なんですけどねえ、そっちは、ここんとこ十日ばかり出ていないんですよ。

 えっ、「腰痛になると便秘になるんやで」ですって。

 でも、その替わりオナラの方は出るわ出るわ。もう、腰が痛くてウンウン唸っている頃から、プップ、プップと威勢のいいものですよ。便秘の割には飯は入るし、中では詰まってるんでしょうけど、腹は別になんともないんですよ。

 カミさんにはね、寝返りを打つのも禁止されてしまいましてねえ。

「そのまま、仰向けに寝たまま。横を向くのも駄目、うつ伏せになるのも厳禁、ただひたすら上を向いて寝ていなさい」

ですよ。

 このベッドね。ちょっと柔らかいでしょう。私は昔、布団が硬いと腰痛になり易いと聞いたものだから、ウチではわざと、畳の上でホンマのセンベイ布団みたいのを使っているんです。すると、寝て暫くすると尻が痛くなって来て苦しいから、途中で度々右や左に寝返りを打つなんてことを十年も続けてきたんですよ。

 ですから、このベッドを見たとき最初はびっくりしたんです。腰痛に大丈夫なのかってね。まあ、医者のやることなんだから間違いなかろうと、観念したんですけど、寝てみたらホント、一日中、仰向けでも全く苦にならないんですよ。よく出来ていますねえ。なんか特殊な構造をしているんですかねえ。ウチがウサギ小屋でなければ、これ欲しいですねえ。

 とくにね、「V」の字形に角度を自由に変えられるのがいい。足を上げるのは別としても、上体を起こせれば安楽椅子と変わりませんよねえ。

「電動式のもあるよ」ですってえ・・・・・・。そうですねえ、動けない病人には電動式でないと意味がないですねえ。正直な話、飯を食ったり本を呼んだりのその都度、看護婦を呼んでいちいち上げたり下げたりしてられませんもの。

 寝具というのは一日の三分の一、否、人生の三分の一を過ごす場所なんだから、本当はお金を掛けても罰が当らんと思うんですけどねえ。

 それとね、こうして寝た切りでいると三度三度の食事のときが辛いんです。食うこと自体は、身体を起こしてベッドの端に腰掛ける形でなんともないのですけどね。食事のオボンを毎度毎度、同室の方々に運んでもらうのが本当に辛い。

 済みませんけどお願いしますよ。

1992-02-29/2015-01-05

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