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第1日目 平山翁の入院尋問(椎間板ヘルニア 脊髄注射 手術)

 なんだね、矢野さん。あんたは何で、ご入院なんだ。

 ほう、「椎間板ヘルニア」か。

 俺も御同病だ。痛いんだよなあ、これが‥‥。やったことの無い他人にはわからんね。起きてればもちろんだが、座ってても、寝てても痛いよ。どんな姿勢でも痛いんだ。仰向けだって、うつ伏せだって、横向きだって痛いよ。よくね、「横向きに丸まって寝れば、痛みが柔らぐ」なんて云う奴がいるが、人によるんだ。

 あんた、院長に背中に注射してもらったかね。そうそう、こんな長い針の奴よ。ちったあ、おさまっただろう。良く利くんだよ、あれ。でもね、あんまり頼っちゃあいけないんだ。最初の内は、いいんだが、段々と利かなくなるっていう話だ。

 この病気はね、カラダの硬い人間がかかり易いんだよ。硬い奴がね、歳取って、常日頃は何も運動しとらんのに急にゴルフやなんかで身体を動かすと、てきめんなんだ。俗にね、「ギックリ腰」って云うけど、全く動けなくなっちゃうときもあるよ。

 直ってもね、なんべんでもやるんだよ。だから、まあ元気になったらだが、予防には、骨を支える腹筋と背筋を鍛えろと、よくいうよ。体重を懸けないで筋肉だけを鍛錬するのには、水の中の水泳が一番。無理をすればそれこそ直ぐに再発するし、余り大事にし過ぎても再発する。程々に鍛えるというのは難しいんだ。腰痛体操というのもあるらしいんだが、よくわからんなあ。


 そうそう、江藤さんも3度やったんだねえ。矢野さんは、まだ若いように見受けるけど、この腰痛は若くたって出るんだ。俺も最初は27のときだったなあ。それから、ほぼ8年毎に病んで、これで5回目だよ。

 そして、とうとう今回は手術だよ、しゅじゅつ。

 えっ、あんたには院長が「手術せんでも直る」と云ってくれたって。そりゃあ良かった。けど、いずれは、しにゃあならんことになるんだね。これが。

 あんたのはね。骨がこんな風に継ながってるだろう。この骨と骨の間に椎間板という軟骨のパッキングがあって、これがはみ出しているんだ。はみ出した軟骨が、そこらにある神経に触って、それで痛いんだね。

 俺のはね、その軟骨が薄くなって骨と骨とがジカに擦れとるんだよ。それで痛いのなんのって。それでね、今度は手術したんだよ。

 そうなんだよ。このパッキングが薄くなるっていうことは、背丈が縮まるっていうことなんだ。俺なんかはこの年代で178センチもあったんだ。それが今では4センチ縮んで、174だ。

 えっ、本当かって。骨の継ぎ目が二十個とするだろう。一個所で2ミリずつ縮まれば全部で4センチになるじゃあないか。

 それに、体重が90キロもあったんだ。村の水防団の演習では100メートル走ったあとに、60キロの土嚢をこういう風に担いで、更に100メートル走るんだ。こいつでいつも一等賞よ。

 それから、20、30年前なんかは面白がってな、サングラス掛けて肩で風を切って、北新地なんかをウロウロしたんだ。するとな、ヤーさんなんかでも恐がって避けて通ったもんだよ。


 俺が9年前に担ぎ込まれた、大川病院の院長は凄いんだ。

 こんな太い針の注射を背骨にブスっとやると、一発で直っちゃうんだよ。ここの院長の長いのとは違う。背中に丸い孔が残るほどなんだ。けどね、失敗すると下半身不随になっちゃう。しかし、その医者は一度も失敗した事がないという評判なんだ。それで、あっちこっちから患者が集まって来るんだね。

 注射の日は、朝から看護婦連中がピリピリしている。それは、医者の方もその日は緊張して、口を全く聞かず恐いからだってよ。患者をベッドに5、6人、横一列に並べておいて、ブシュ、ブシュっと、端からやってくんだ。

 俺もね、やってもらったらね、途端にスーとして、なんともなくなっちゃったよ。あっと言う間で、具合がよかったよ。

 今度も本当はね、そこへ行きたかったんだよ。ところがね、大川院長なんだけど、2年ほど前に税金を胡麻かして捕まっちゃったんだ。3年間の営業停止だってよ。保険診療停止じゃあないよ、営業停止なんだ。


 ここへは、女房が近所で「評判がいい」と聞いて、やって来たんだ。

 色々と検査をされて診てもらうと、「手術しかない」と言うんだ。確率は80パーセントというけど、もうやってもらったんだ。そらあ恐かったよ。この歳になるまで病気は沢山やってきたけど、身体を切るなんてのは初めてなんだからなあ。

 えっ、あとの確率20パーセントはどうなるかって?

 さあ、一生、それこそ下半身不随なんじゃないかなあ。

 手術は俗に言う背開きで「T」の字に切って、骨を削るんだ。全身麻酔だから口にこういう奴を当てられて、知らぬ間に終わってたよ。しかし16日間は、腰をまったく動かしちゃあいけないんだ。足を上げても組んでもいかん。よくわからんが最初の3日はベッドに縛り付けられていたらしいよ。きっと暴れたんだと思うが、こっちは何も覚えていない。この身体を動かしちゃあいけないって、本当にしんどかった。

 院長はホントに上手いよ。けど、手術が好きなんだ。

 しかしなあ、歳を取ると骨粗鬆症といって骨が脆くなっちゃうんだ。だから若い内でないと手術が出来ないよ。あんたもそんなにならない内に、そう、次には手術を受けることだよ。俺は手術した途端に痛みはカラっと直ってしまった。おまけに40の頃から長い間病んでいた座骨神経痛も、ものの見事に完治してしまったよ。

 えっ、江藤さんが言ってるって、なんて?

「平山さんも、手術をする前は夜も眠れないで嫌がっていた」だと・・・・。


現在では一般的に看護[師]と呼びますが、当時は看護[婦]でした。この点は、原作を踏襲します。1992-02-29/2014-12-28

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