木無塚市
木無塚市というところにやってきた。
友達がここに移り住んだらしい。
友達はとても優しく、落ち込んでいた僕を、いつも励ましてくれていた。
友達が結婚して、移り住んでからは初めて会う。
初めて住んでいる場所に行く。
素直でやさしい友達に会えることを、ずっと前から楽しみにしていた。
早めに駅に着いてしまった。
予定よりも、ひとつ早い電車で来てしまった。
車で迎えに来てくれる予定なので、ベンチで待つことにした。
でも、そこにはもう友達がいた。
友達は僕を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。
「はやく来すぎても困るよ」
「ごめん」
「心の準備が出来てないから。早く着きそうなら連絡してくれないと」
「ごめん」
「乗って。後部座席の左側ね」
「あ、うん」
以前の友達と、全く変わっていた。
昔は気を使う人で、あまりこだわりを押し付けてくる人ではなかった。
自分のことより、他人を優先する柔軟な人だった。
それなのに、今は気難しくなりすぎている。
噂には聞いていた。
この木無塚市に住み始めると、どんな人でも、気難しい人間になってしまうと。
「シートベルトはゆっくり動かしてね。それで使い終わったら、ゆっくり元通りにしてよ」
「うん」
昔の友達がとても恋しい。