妹の裏切りで婚約破棄された悪役令嬢が断罪されて辺境追放された森で歩いていたら、空の上から弟からの裏切りで王女から婚約破棄された悪役令息が降ってきて?
「うわあああああ!」
「きゃああああ!」
ずしーんという音とともに空の上から男の人が降ってきました。
「一体?」
「ここは一体どこなんだ!」
金色の髪に青い瞳、端正な顔立ちをした青年は、どことなく私と雰囲気が似ているというか、私のお兄様にも似ていました。
いてええええと頭を抱える青年、年のころも18ほどで私と同じくらいです。
「あなた、空の上から降ってきましたのよ! 飛行船からでも落ちましたの?」
「そんなもん乗るわけないだろう! 俺は王女、王女に婚約破棄して断罪するといわれて審判の門に追いやられて、え? え? ここどこだ!」
「ここは辺境のズール地方の魔の森ですけど」
「え? ズール?」
「ええ、エンヴィール公国の端にある」
「あ? エンヴィール? 聞いたことがない名前だな」
青年は私を見て、お前俺の弟によく似てるなとかいいますが、は? 弟?
「あんた名前は?」
「先に自分の名前を名乗りなさいな」
「俺は、エンリケ・ウィダール。ウィダール公爵の長男だよ。ここはユーディル公国じゃないのか?」
「いいえ違います。私はエミリア・ウィズルール、ウィズルール侯爵の長女です」
「……ウィズルール?」
「ユーディル公国なんて聞いたことがないですけど」
うーんと首を傾げるエンリケ、私は彼に話を整理しません? と話しかけました。
顔立ちはよく見ると私にも似ていましたわ。親戚にしても……聞いたことがないですけど。
「そうだな……」
私はこちらの森に一人私は置き去りにされましたが、いったいどうしましょう? というと、そこからかよ! とエンリケが頭を抱えたのでした。
「へ? 持ち運びの魔法の魔法もないって?」
「ええ便利な魔法ですわねこれ」
彼は持ち運びの魔法の中にあったと呪文を唱えると、なんと簡易テント? とやらがでてきて中にテーブルや椅子も設置して、お茶まで用意してくれましたわ。
「俺のボックスアイテムには旅に使えるようにまだ簡易食糧などもあるが……」
「いえそんな魔法聞いたこともありませんわ」
私たちはテントでお茶をしながら、話を突き合わせました。
彼がどうも暗黒大陸と私たちが呼ぶ処から送られたことがわかりました。
500年ほど前に大陸が分離して、その半分が暗黒大陸と呼ばれ、北と南に分かれたのです。
どうも彼は北、私がいるここが南らしいと。
「鏡合わせのようだな」
「え?」
「俺とあんたの国の話を突き合わせるとよく似ている。俺が婚約破棄された王女の名前がユーリカ、年もあんたが婚約破棄されたユリウスという王太子と同じだ。俺たちも年が同じ、同じく俺は弟、あんたは妹に裏切られ、婚約破棄されて、無実の罪であんたは辺境送り、俺は審判の門に突っ込まれて、どことも知れぬところに行けと送られた……」
「そうですわよねえ」
エンリケと私の境遇はよく似ていました。私はずるーいお姉さまばかりという妹が王太子を誑し込み、妹いじめの罪を私に着せて、婚約破棄させて……。エンリケの場合は弟がそれをしたそうです。
「俺とあんたがよく似ているんだ」
「ええそうですわよねえ」
「多分、大陸が分かれたときなんらかの作用が起きて、鏡合わせになったのかもしれん」
「あなたが魔法師とやらで私が聖女というのもなんとなく……」
「俺は闇魔法師、あんたは光の聖女だしな」
鏡合わせで納得はしたのですが、自分が男になったらこんなかと思うと微妙な気持ちでしたわ。エンリケも微妙な顔をしています。
「しかし、北と南は聞いたところかなり離れているぞ、海で分かたれたからな、船で10年以上かかったという航海日記なら読んだことが……」
「審判の門って、何やら仰々しい名前ですわね」
「煉獄に続くといわれる門でな、罪人が送り込まれるんだ。ああ、南に送り込まれていたとは」
「罪人って……」
「政治犯だけだよ。だから横領などが主だな、それほどは重い罪のやつはいない。殺人などは首ちょんだからな」
でも罪人を送り込まれていたなんて気分悪いですわ。でもエンリケは無実の罪ってかわいそうですけど。
「あー、でも帰る方法がないわけじゃないっていうか、でも面倒くさいな、ケインのやつとやりあうのもいやだな……」
「私もイリスにはもう関わりあいたくないですわ」
私たちはどうしようかと話し合い、とりあえずやばい奴らから離れて生活しようかということになりました。私たちやっぱりどこか似てますわ。
「でも聖女なんて需要ないですわよ。簡単な肩こりとか腰痛しか治せませんし」
「それでも需要はあるさ、闇魔法師のほうが微妙じゃねえ?」
どうも闇の魔法が使えないと頭を抱えるエンリケ、持ち運び系やライティング、明かりの魔法の基礎しか使えないらしいです。
「二人力を合わせればなんとか」
「そうだな」
私たちは魔の森を抜けて、隣国ヘンリエッタに向かいました。
そこで商売をはじめることにしたのですわ。
「いやあ、嬢ちゃんのおかげで腰痛がぴたりとなおったぞい」
「いえいえ」
「エンリケさんの明かりの魔法便利です。夜中でも裁縫仕事ができますし!」
「いやあ」
ライティングの魔法はこちらでもありましたのでエンリケは気軽に使っています。
しかし魔法使い自体が数少ないのでライティング程度でも重宝しています。
私は腰痛肩こりの治療師、エンリケは簡易魔法レンタルです。
私たち双子の兄妹ということにしました。だってよく似てますしねえ……。
商売はうまくいって生活はできているのですが、エンリケは時折寂しそうにしています。
「故郷が懐かしいのですか?」
「だな、でも俺の魔法もほぼ使えないようじゃ八方塞がりだ。船を使って帰ろうにも俺は全くそのあたりの知識はない」
「……魔の森の上から降ってきたということはもしかしたら一番近いこの国に政治犯という人たちが潜伏しているかもしれませんわよ。知恵を寄せ合えば」
「確か、2年前に政治犯の一人が落とされたはずだ。目立つやつだから探せば……」
私たちはその目立つ人を探すことにしましたが、案外すぐ見つかりました。
「エンリケちゃん、いやだああああ、あんたもこっちに落とされたの?」
「ヴィクトール、俺はお前に二度と会いたくなかったよ」
「いやん、ヴィクトリアって呼んで!」
ええ、立派な筋肉ムキムキのおにい……いえお姉さんでした。政治犯といいますが、どうやらこの性癖とやらのせいで落とされたそうです。
「うーん、エンリケちゃんまでこっちにねえ、あ、割といるわよ。横領でこっちに落とされたクリスちゃんとか」
「あ、あの親父か! まだ生きていたのか……」
「横領は無実って言ったわよ、クリスちゃん」
何人も政治犯とされた人が落とされたようですが、ほぼほぼ「無実」とか気に入らないからぽいしたようです。いい加減な王家ですねえ…。
ヴィクトリアさんは特殊な人たち、いえおかまさんたちがいるお店を経営して成功していて、ほかの人も同様みたいです。
「帰りたくなんてないわよぉ、だってあんな横暴な人たちがいるところなんてぇ」
「そうだな……」
ヴィクトリアさんはそう言いながらも、魔法の力が使えないのではなくて、どうも魔の森の特殊ポイント以外は使えなくなるみたいよとアドバイスをしてくれました。
どうもエンリケが落とされた地点が接点のようだと聞いてエンリケは顔を輝かせます。
「あそこなら使えるってことは、転移陣を構築できれば!」
「帰れる可能性もあるわね」
私たちはもう一度あのポイントに帰ることにしたのです。でも政治犯の人たちはこちらの国で適応できているみたいで、あちらに帰りたくないとか、どんだけひどいのですか……エンリケの国って。
「……おお、使える!」
「なら転移陣とやらを描けば」
「だな、でもなあ、帰ってもあいつらがいたらなあ」
「まあ私もそうですけどねえ」
「そうだなぁ、お前も帰りたくないか?」
「帰りたいのは帰りたいですけど、妹に味方した両親以外はお兄様くらいしか会いたい人はいませんわよ。お兄様だけがかばってくれましたし」
「俺の場合は誰もいないからうらやましいぜ」
「兄弟の数が違うように少しずつ違うようですわね」
「だな」
簡易テントでエンリケが転移陣を構築し、うまくいったと笑ったのですが。
「俺の魔法の一つに便利なものがあってな」
「……そんなものがあるのなら、どうして自分で使わないのですか!」
「魔法を封じられていたんだよ。アンチマジックバリアがあるんだよ城には!」
私はエンリケとともに祖国にこっそりと帰り、お兄様にお願いをして、妹と殿下の婚約式に忍び込んだのです。
「お姉さまは私をいじめてなどいませんわ、あれは嘘です。あははははは、あのバカ王太子、私の証言だけで信じるなんて馬鹿ですわあ」
「イ、イリス?」
「あははははは、これで私が王太子妃ですわ、やりましたわ!」
闇魔法って怖いですわね。人の深層心理、心の奥底にある秘密を口に出される禁忌魔法をエンリケがかけたとたん、妹がペラペラと話だし……。婚約式はめちゃくちゃになりましたわ。
お兄様に話したところ、何度も殿下に私がそんなことはしていないといっても信じてもらえなかったと……。妹はお顔がとてもよいですから、誑し込まれたら最後ですわ……。
エンリケを見てお兄様も驚いていました。でもやはり私によく似ているといっていました。複雑ですわ。
「これでお前も帰れるな」
「あなたはどうします?」
「帰る。まああいつにしてやられたままじゃいやだしな」
「……」
私はエンリケがにやっと笑うのを見ます。そして今まで隠していた言葉を口にしました。
「ついて行ってもいいですか?」
「え?」
「あなたと離れるのが嫌ですのよ」
半年以上一緒でした。確かに私たちはよく似ていましたが、中身は少しずつ違い、私は口が悪いけどでも優しいエンリケに惹かれていて……。
「……わかった。でも帰れるか保証はないが」
「それでもいいですわ」
「すまん、俺のわがままに突き合わせて、俺もお前が好きだ…いつか離れるときが来るので言えなかったが」
「私がついていくっていったのですわ」
「ありがとう」
エンリケが私をぎゅっと抱きしめ、陣を展開しました。
妹が婚約破棄され、辺境送り、私がもう一度婚約者にというのは断りました。
お兄様にお別れもしてきました、エンリケの呪文が終わると光が私たちを包み込みました。
ええ、どんな世界でもあなたがそばにいれば……多分そこが楽園ですわ。
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