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トップギア  作者: 小林 彰人
序章
7/18

7話 スマホホルダー

 


 蓮の店は海沿いの町にあり、アパートからロードバイクで行くと大体1時間ほどかかる。

 この前は蓮に迎えにきてもらったが、何度も頼むのは申し訳ないと思いロードバイクで向かうことにしたのだ。

 水平線が見える頃にスマホで時間を確認すると、10時を過ぎていた。

 デリバリーをしている人が当たり前のようにスマホホルダーを付けていることを知ったからか、ポケットからスマホを出し入れするのがより面倒に感じる。

 一息つくと再びロードバイクを漕ぎ出した。

 店に近づくにつれ、思い入れのある景色が見えてくる。

 街並みや海岸沿いの眺めは高校生の時によく蓮とロードバイクで通った場所だ。

 ここも変わらないな。

 記憶の中にある風景と変わっていなくて安心する自分がいた。

 店に着いてロードバイクを押しながら中に入ると蓮と若い女性が話していた。

「次来た時もタダで色々してあげるよ」

「ありがとう~! 蓮さんまた来るね!」

 女性は嬉しそうに店を出ていった。

 蓮はこちらに気付いて笑顔を見せる。

「来たか、回」

「あんなこと言って大丈夫なのか?」

「女性に優しくすることが俺の仕事やからな。てかそんな堅いこと言ってたらモテねぇぞ」

「そうか......昨日言ってたスマホホルダーはあるか?」

「そうやったな! ちょっと待っとってくれ」

 そう言って奥の方からスマホホルダーを持ってきた。

「これがフックタイプやな」

 見た目は岡さんの物とそう変わらないが、爪の形が少し違う。

 岡さんはL字だったが、これは三角形だ。

 真ん中には長方形の出っ張りと中心に小さな丸ボタンがある。

 蓮は素早く俺のロードバイクに取り付けて説明を始めた。

「これにスマホを付ける時にはこうやってすると勝手に固定されるぞ」

 スマホを置くと自動的に爪が閉まる。

 一瞬の出来事で理屈がよく分からなかった。

「これを外す時には真ん中のこれを押すと外せるし」

 押すと爪が広がりスマホが取り出せるようになった。

「ようは中心のボタンが押されると閉まる仕組みになっとるんや」

 その説明をしてからもう一度同じ動作をすることで理解した。

「回、やってみいや」

 スマホを置くとカチッと固定され、横を押すと開く。

「これ凄いな」

「やろ? 付けるのに3秒もかからんぞ」

「これいくらなんや?」

「1,680円やな」

「やっぱりそれぐらいするのか」

「おうよ」

「これ便利やし買うわ」

「まぁ、せめて100円安くするわ!」

 さっきのサービス精神どこいった――。

 スマホホルダー代を払い、念のため点検をしてもらう。

「一応問題はなかったけど、濡れた道とか走ったか?」

 さすが連、細かいところを見てるな。

「大雨の中で山道を走ったな」

「そうか。修理しんなんほどの無茶はすんなよ」

「気を付けるよ。俺、午後から少し配達しようと思うし、もう行くわ」

「なら配達するエリアまで送るわ!」

「いや、前にも送ってもらったし流石に――」

「気にすんな! 今から準備するわ!」

 結局送ってもらうことになった。


 それから蓮と昼食を済ませ、13時に店を出発した。

「岡さんに会えたんやな!」

「そうだな。岡さんファイートのトップだったよ」

「え! そこまで知らんかったわ!」

 知らなかったのか――。

「岡さんに教えてもらったけど、動きが違ったな」

「さすが岡さんやな! 確かあの人もプロ目指してるはずやからな」

「その話は初めて聞いたな」

「あれ話してなかったっけ?」

「いや、聞いてないな」

「実家が農業していて跡継ぎで岡さんにするとか言うてるらしいけど、岡さんはプロになるって昔言い切っとったし」

「そうなんか」

 農業とプロのロードレーサー、どちらもそう簡単な道ではないな。

「ちょっと熱いな。窓開けるわ!」

 窓を開けると勢いのある風が入ってきて髪が揺れる。

「風強ぇなあ」

 そう言って窓のスキマを調整する。

「最近入ってきた話やけど、回知っとるか?」

「ん?」

「近いうちにデリバリー企業のデータが統一されてポイントが追加されるらしいぞ」

「統一されるってことはアプリかサイトで全部のデリバリー企業の評価が見られるようになるってことか?」

「まぁそういうことなんじゃないか?」

 こんな話ファイートのアプリで一切流れて来なかったけどな――。

「まぁ俺は詳しいことまでは知らんからさ」

「ありがとう。すごく助かる」

「おう」

 色々話していると箔宮駅の近くまで来ていた。

「回、今日はどこのエリアで配達するんや?」

「もうちょい向こうにあるワックとか飲食店の周辺かな」

「駅の向こうか?」

「そうやな」

 駅周辺のビル群を通っていく。

 ワクドナルドに着くと駐車場で蓮とロードバイクを下ろした。

「回、またなんかあれば言えよ!」

「分かった。ありがとな」

 蓮はミニバンに乗ると、こちらに手を上げて去っていった。

 前回といい今回といい、本当に気が利くやつだと思う。

 ありがとな、蓮。

 スマホホルダーにスマホを乗せると瞬時にロックする。

 これめっちゃ楽やわ。

 手間がかからなくなったことについ感動してしまう。

 スマホには13時28分と表示している。

 よし、始めるか。

 いつものようにアプリを開いて注文を確認する。

 これは――。

 見覚えのある名前がそこに書かれていておもわず目を見開く。

 まつ 尭浩たかひろ......。

 元会社の後輩の末だった。

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