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トップギア  作者: 小林 彰人
デリバリーレース編
10/18

10話 デリバリーレース

 


 スマホには15:00と表示している。

 宮野さんと別れてからまいまい寿司の近くで注文を待っていた。

 1分ほど待つと”京極きょうごく 清三さいぞう”という人から注文が入ってくる。

 京極。珍しい名字だ。

 注文先はワクドナルドと明が丘の間に表示している。

 頼まれた料理を受け取りに行って10分ほどで配達先に到着した。

 そこは和風屋敷で、家2軒ほどの大きさはある。

 屋敷の前には門があり、スーツを着た細身の男性が1人立っている。

「ファイートです。注文の品お届けに参りました」

「ありがとうございます」

 頭を下げ、弁当を受けとった。

「お名前聞いてもよろしいでしょうか」

「新城 回です」

「新城様、京極様がお話ししたいことがあるそうです。今、よろしいでしょうか?」

 俺に話がある? 聞いてみるか。

「はい。分かりました」

「案内致します。こちらです」

 案内人は門を通っていく。

「あの、ロードバイクは入れても問題ないですか?」

「はい。京極様から許可を頂いています。ではこちらです」

 ロードバイクを押して敷地内に入る。

「ロードバイクはあちらの蔵に置いて頂きます」

 隅の方にある蔵の中でロードバイクを施錠すると屋敷内に案内された。


 玄関には案内人ような男性が10人ほど立っている。

 いくつか部屋を通り、ふすまが閉まっている奥の部屋で立ちどまった。

「京極様、ファイートの方をお連れ致しました」

「入ってくれ」

 ゆっくり開けると木製のテーブルの奥に座る男性がいた。

 見た目は40代後半で、白髪交じりの髪を七三分けのようにセットしている。

 鼠色ねずみいろの着物を着ており、まっすぐな目でこちらを見ている。

「京極様、こちら料理でございます」

「あぁ、ありがとう」

 微笑みながら料理を受け取る。

「よく来てくれた。まぁ、座ってくれるかな」

 視線が自分に向けられていたため返事を返す。

「はい」

 手前の座布団に座って向き合う。

 それと同時に後ろの襖が静かに閉まる。

「私は京極 清三。オフィスから飲食店まで幅広いジャンルでオーナーをしていてね」

「自分は新城 回といいます」

「新城君か。若いね」

「いえ」

 愛想笑いで返事をする。

「ところで、話というのは?」

「そのことなんだけどね」

 弁当を袋から取り出しながら話す。

「5月1日にデリバリーレースを開催する予定なんだ。出てみないか?」

 デリバリーレース。初めて聞くな。

「デリバリーレースとは何ですか?」

「デリバリーレース実行委員会が運営する、デリバリー業界を盛り上げるために開催する大会でね。ところで、新城君は国がこの業界を活気づけようと打ち立てた政策は知っているかね?」

 おそらく蓮が言っていた、CO2による環境汚染防止を促そうと自転車のように排気ガスを出さない乗り物を推進するためだろう。

「はい。知っています」

 京極は彼の返答に頷き話をつづけた。

「運営する組織がないから国の要請を受けて、自転車競技連盟によって作られたのがデリバリーレース実行委員会だ」

 そう言うと懐から折りたたまれた紙を取り出す。

「これがその紙だよ」

 手渡されて開くと、主催にはデリバリーレース実行委員会、と書かれている。

 金沢観光協会や町の商工会・組合が協賛している。

「SNSやテレビのCMで応募を呼びかけているのだが、まだ参加していない企業に声をかけてほしいと実行委員会に言われていてね。参加リストにFi-Eatの名前は無かったのだが、出場しないのかね?」

 Fi-Eatからそんな話は聞いていないぞ。

「そんな話は聞いていないです」

「そうなのか」

 少し考える素振りを見せた。

「一応参加条件を伝えておくが、各企業で参加人数は1人。条件は始めて1年以内の配達員を対象としている。性別は問わない」

 詳しい話は内田さんに聞いてみるか。

「分かりました。この件は考えさせて頂きます。お返事するのは明日でもよろしいでしょうか」

「分かった。また明日ここに来てほしい」

「ありがとうございます」


 門を出ると遠くの方で何人かの小学生が歩いている。

 時間を見ると15時24分だ。

 もう少しで夕方になるな。

 少し早いけどサポートセンターに向かうか。

 ロードバイクを前に進めたその時――。

「久しぶりだな。新城」

 背後から声がした。

 振り返るとデリバリーバックを担いでいる男性が立っている。

「池西......」

 高校時代、同級生で自転車競技部にいた1人。池西いけにし ようだった。


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