5.よくってよ!
「うーん、これでもない。これも違う…」
スーちゃんが先程から俺の肩で何かを作っては壊し、作っては壊しを繰り返している。
最初はコップを作っていたようだが、今見たもの全然違った。
なんか器に翼やら植物のレリーフ、動物が動く等と、通常ではありえない物になっていた。
俺にその摩訶不思議な器でミルクを飲めと?
絶対、味がわからなくなる。
暫く歩いていると、足下の草が金色ばかりになってきた。
本物の金みたいに光輝いている。
売れば儲かりそうと思っていると、クーちゃんが目的の人物を見付けたらしく走り寄っていく。
「ゴートン~。ミルク分けて~」
うん、可愛い。
クーちゃんが近付いていくのは、黄金の体毛を生やし、獅子のように立派な鬣を持ち、頭部に蒼白い光を放つ二本の角を持った山羊?だった。
ゴートン……ゴート?
名前、安直すぎないか?
というか、人じゃなかった!人が居ない!
ここに来るまで一度も会ってないぞ!
もしかして、人は居ないのか?
「あら、クラインどうしたの?私のミルクは三百年前に卒業したわよね?恋しくなっちゃったの?」
「僕じゃなくて、ロノスにあげて!あと、クーちゃんって呼んで!」
「ロノス……?だれ?」
ゴートンは俺の方を見ると固まった。
俺も固まってみる。
数分ほど経つと、ゴートンは俺に近付いてきた。
「貴方、言葉はわかる?」
「あぁ、わかるぞ?」
「本当に?この子達が言っている事も?」
「問題なく」
それだけ話すと、ゴートンは俺を観察するようにぐるぐると周りを歩き始めた。
何かした方が良いだろうか?ポーズとか。
いや、恥ずかしいからポーズは無しだな。
あれこれ考えている間にぐるぐるするのを止めたゴートン。
ゴートンって鬣あるけどメスなのだろうか?
「器は持ってる?」
「器は……」
「はい、これなら満足の仕上がり」
スーちゃんから渡されたのは、器とは言えない物だった。
仏具の高月みたいな物で、上の皿状の部分は何枚もの翼で出来ている。
翼は当然のように動いていて、とてもミルクを受け止めれないだろう。
そう思っていたが、翼が勝手に動いて杯の形になっていく。
杯の淵は翼をリアルに作ってあるためか、羽があり不規則だった。
そこに蛇が現れ、淵に沿うように移動した。
最後に自身の尻尾を噛み、停止する。
淵は蛇の胴体により、丸みを帯び均等になった。
……これで飲めと?
味がわからなくなるなぁ。
「あら、良い趣味じゃない。前は実用的なのしか作らなかったのに」
「うん、ロノスを見て変えてみた。見た目重視の実用性がある物。作るの難しくて楽しい」
「ただのボウルを出してきたら、割ってやろうかと思ってたけど、これならいいわ」
え、本当にこれで飲まなきゃ駄目?
というか、ミルクはゴートン産?
ゴートンは前足を地面より少し高い位置にある石に移動させる。
背筋を伸ばし……人的には姿勢を正す感じだと思う行為をし、一鳴きする。
「よくってよ!」
「ロノス~、搾っていいって!美味しいよ」
「う、うん。…わかった」
人生初の乳搾りは山羊になりそうです。
ゴートンに近付き、乳首?乳房?を搾る。
器に白く輝くミルクが注がれていく。
輝くミルクってなんだ?
人体に悪影響を及ぼさないよな?
搾り終わったので後はミルクを飲むだけなのだが。
……ええい、ままよ!
ミルクを飲む。
感想としては普通に旨い。
こう、感動的な旨さとか情緒溢れんばかりの感想は無い。
ただただ、旨いとしか言いようがない。
舌がバカになってるのだろうか?
ここまで酷い食レポは無いだろう。
…なにやら、周りは俺の感想を待っている風。
嫌だなぁ、語彙力無いって思われそう。
「うん、旨いよ。普通に旨い」
「だよねぇ~。美味しいよね!」
「僕は飲んだこと無いけど、初めて飲む奴は涙とか流してたと思うんだけど。ロノスにとっては、そこまでじゃなかった感じなのかな?」
「嘘……。私のミルクで感想それだけ!?何でなの……、最近は肉ばかり食べていたから味が落ちたの?……」
ゴートンはぶつぶつと独り言を言い始めた。
やっぱり、この感想では駄目だったようだ。
ミルクは普通に旨いので全部飲むことにする。
ゴートンがこっちに戻ってくるまでクーちゃん、スーちゃんと遊んでいた。
ゴートンは俺の目の前まで来て、宣言してきた。
「いいわ!貴方に真のミルクを飲ませるためにしばらく側に居てあげる。毎日、私のミルクを飲んでも、よくってよ!」
最後に決めポーズして終わった。
ゴートンにとって、よくってよポーズは欠かせないものなのだろう。
「あ、はい。よろしく?」