1.世界は変わっ……ていた?
一人の成人男性が夜道を歩いている。
とぼとぼとぼとぼと、弱々しい足取り。
(疲れた。昨日も今日もサービス残業。上司は自分の仕事を部下にやらせて早々に帰っていく。しかも、定時の四時間前に……キレる)
男は今の会社に入ったことを後悔しながら道を進む。
もしかしたら、こんな生活を数年、あるいは数十年する可能性に気付き絶望しながら。
「よし!辞めてやる!こんな会社!」
そう宣言したその時。
『ゴゴゴゴ!!!』
「え?えぇ!?なに?地震か?でもこれ、少しおかし……」
言い終わる前に更に激しく揺れた。
遠くに見えていた十階程のビルが一瞬の内に根元から折れるほどの激しい横揺れの地震。
男の数メートル横を亀裂が走り、地割れが生じる。
もちろん、こんな状態で立っていられるわけもなく、男は地に伏していた。
「な、なんだよ!こんな地震あるのか…ぐえっ!」
男が文句を言い終わる前に、押し潰されるような力を受け、喋れなくなる。
今までの重力が何十倍にもなった感覚を受けたが男はなんとか目を開ける。
目に写る景色は、空だった。
地に伏し、顔を横に向けているのにだ。
その答えは。
男が伏した地だけが突き上がっていたのだ。
既に雲の領域を超え、宇宙に放り出される程の高さまで来ている。
だが、男は放り出されずにいる。
そうして、第二の雲の領域に突入した。
青い雲、黄色い雲、赤い雲等々の様々な雲を抜けていき第二の雲の領域を超える。
男は失いそうな意識であるものを見た。
「あ……れっ、て。ドラ……」
『や』
発しきる前に飲み込まれた。
何か、声が聞こえた気がするが食われた男は関係ないかと意識を手放した。痛い思いをしながら死ぬのは嫌だったから。
『やあやあ、皆の衆!元気かな?んー?アハハは!阿鼻叫喚みたいだね!うれぴっぴ。俺はね、地球を創造した神でーす!ちょっと目を離した隙にお猿さんが増えまくっててビックリしたけど、あることを思い付いたので実行したよ。他の神々の要らない世界を全部混ぜ合わせることになったんだ!それで、現在進行形で混ぜ混ぜ中なんだけど、人間くんたち弱すぎるから息するだけで死んじゃうんだよね。だから、僕が話し始めた瞬間から十秒後に存在進化の神術を君たち一人一人が発動するようにしておいたよ。およそ十秒間、周りの力を取り込んで進化するはずだから頑張ってね?これは、……そう!神からの手切れ金だと思ってくだしや。じゃ、ばいぴー』
世界は変わり続けている。
大地は隆起し、海は凍ったりマグマのように熱くなったり、空は裂け何重層も空が出来、ドラゴンや妖精、妖怪に悪魔、天使に化物。
様々な物が変化し、産まれ増える。
この世の終焉を表すかのように。
この日、この時を生き延びた人々はこう言う。
『終焉の坩堝』と。
神創造歴二千年、ある森の祠の前に一人の男が立っていた。
歳は十数歳、青年と呼べる男が産まれたままの姿で立っていた。
ゴブリンの集団がその男を見付け、殆どの者が歓喜した。
ゲラゲラと笑うゴブリンの声で男はぴくりっと動く。
今まで眠っていたのか顔を上げ、眼を開く。
目の前にいるゴブリンを見て叫ぶ。
(なんだ、何かうるさい)
多分、ドラゴンに食べられて死んでる筈なのに生きてるのか?
あれか?巨大生物は消化能力が弱いとか遅いとかなのか?
それで、食べられた俺はまだ生きてて後から食べた物が胃に来て騒いでるとか。
胃の中で生存競争とか意味不明なのは嫌なんだけど。
眼を開けるとそこには、濃い緑色の肌をした小学生ぐらい(百~百二十センチ)のブサイクさんがワラワラといた。
これは……。
「ゴブリンか!?」
スレイヤーさん!助けて!!
ゴブリンをスレイヤーさん出番ですよ!?
だ、駄目だ。逃げなきゃ……。何処に?
「迷ってる暇なんてない!兎に角ここからにげ……」
男はゴブリン達から逃げようと反対側に思いっきりに一歩を踏み出す。
その瞬間、男の踏み出した足から中心に森が吹き飛び、大地を深く抉った。
男は自身が向かおうとした方向にありえない速度で進み、その衝撃によりまた気を失った。
男の身体は進行方向にあった数千の山々を消し飛ばし、数百の山々を穿ち崩す。
幾つもの物にぶつかり、速度が落ちてきたが、今だに止まる気配はない。
そんな時、数百人規模の盗賊が豪華な馬車の扉に手を掛けた時、その横を男の身体が通過した。
男の身体は一瞬の内に通過したが、衝撃波が盗賊と馬車に襲い掛かる。
数百人の盗賊は衝撃波でミンチになった。
本来であれば馬車も木っ端微塵になり、中の人もミンチになっていただろう。
だが、この馬車には衝撃波無効という意味不明な付与がされていた。
衝撃波による被害は無かったが、盗賊全てがミンチになった為に、馬車は真っ赤な血の色に染められた。
男の身体は尚も進む。
そして、進行先に聖竜王国聖都が見えた所で障壁にぶつかる。
減速しなかったが、聖竜が気付き障壁を何重にも増やす。
されど、男の身体は止まらない。
数百の障壁を一瞬の内に貫き砕く。
このままでは一秒も経たずに聖都を貫き吹き飛ばすだろう。
だが、聖都の最後の障壁は違った。
男の身体を数秒止めたのだ。
障壁は破れたが、男の身体が聖都を貫くことなく、聖都の外壁に埋まる。
これにより、男の大量殺は観測上、盗賊数百人に止まった。