平成三十一年十二月三十一日 二十二時時四九分四十二秒
「今日も寒いね」
「うん」
十二月三十一日。
夜の学校の屋上に、制服姿の少女が一人立っているというのは、なんとも非日常的でどことなく幻想的だった。
雪が舞っている。
少女の手には“ノストラダムスの秘密”。
昔の特撮みたいだった。
間近で見る給水タンクは意外と圧迫感があって、どことなく無機的な恐怖を煽ってくる。
「後悔はない?」
口元がストールで隠れていて、唇の動きも表情も読み取れない。
ただ、じっとこっちを見て、そう言った。
言葉はすぐに雪に溶けて消える。
屋上は意外と明るい。
月明りだろうか、雪が降っているのに。
そう思って空を見上げる。
大きな、馬鹿みたいに大きな月がこちらを覗いていた。
星々が不気味なほど鮮やかに輝いている。
そういえば、キツネの嫁入りとか聞いたことがある気がする。
晴れているのに雨が降る。
月夜でも雪が積もるみたいに。
「やりのこしたことがあるなら付き合うよ。何でも言って」
月明り、夜の中に、少女が一人浮いているように見えた。
それは、広い広い夜の中に、あんまりにもちっぽけで。
「……やだ。やっぱりやめよう」
「どうして?」
少女は、心底不思議そうな眼をしていた。
疑念も不安も、僕らには無かった。
僕らは親友だ。
とても仲のいい無二の友人。
無粋なことは言わない。
思ったままのことを、思ったまま伝える。
「観てない映画があるんだよ」
「うん」
「四章だか五章だかの構成でさ。来年あたりやっと完結しそうなんだ」
「……何の映画?」
「エヴァンゲリオン」
少女は鉄柵にもたれて、笑いながら答えた。
「好きだったんだ、あれ」
「うん。大好き」
少女は、手に持っていた“ノストラダムスの秘密”を閉じると、鞄にしまって空を見上げた。
雪が降っていた。
僕らは屋上で、屋根もベンチもなく雪に塗れている。
大粒の雪は静かに、ひらひらと降り積もっていく。
世界が――。
世界が終わるまで、こうしていたいな、と思った。




