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平成三十一年十二月二十七日 十七時四十二分一秒

 コンビニで買ったホットコーヒーを飲みながら、僕らは帰路についていた。

 透明なビニール傘に淡雪が降り積もっていく様をぼんやりと眺める。

 「好きなドラマがあったの。何回も見返すくらい好きなやつ」

 「うん」

 「シリアスな話なんだけどコメディタッチで、ちょっとビターなんだけど希望に満ち溢れたハッピーエンドでさ」

 「うん」

 「『後を言うのは無粋だよね』って。『続きはご想像にお任せします』ってやつ。その希望に満ち溢れたハッピーエンドの続きを、わたしは見ることができないの。きっとそこには、わたしには想像もできないくらいの、とびっきり幸せな未来が待ってるのに」

 僕は、冷め始めているコーヒーで唇を濡らした。安っぽい苦みが舌先に広がる。

 「そんなもの、案外無いんじゃないかな」

 「そんなものって?」

 「『とびっきり幸せな未来』なんてさ」

 道の隅の雪は、積雪防止用の水と泥と混じり合ってコーヒーシャーベットみたいになっていた。

 べしゃり。

 水を含んだ雪は独特な感触で、子供の頃これを踏んで歩くのが好きだった。

 漠とした未来。

 漠とした希望。

 『将来への漠然とした不安』。

 べしゃり。

 「未来って、なんとなく薄暗くて、ぼんやりと辛いものなんじゃないかな」

 「どうしてそう思うの?」

 「どうして……どうしてだろう」

 子供の頃から、なんとなくそんなイメージがあった。

 『明るい未来』というのはどうしても胡散臭くて、ゴミの塊で出来た『夢の島』みたいな、笑えないジョークのようで。 

 VHSに録画した古い洋画を見ているような、現実からの淡い遊離感。

 そういうものが、僕にはずっとあった。

 黙り込んだ僕を見て、少女は言う。

 「『この国はもうダメです』とか、『人類のせいでもう地球はおしまいです』とか、みんなそんなことを言うけどさ」

 「うん」

 「『あなたたちが何もしないから、怠惰だから、世界はおしまいです』って。でも、大好きな人が病気になったら、医者になって治すだけが愛じゃないでしょ」

 少女は、紙コップの中で揺れるミルク入りのコーヒーを見ながら続けた。

 「最期まで手を握って一緒に居てあげるのも、お医者さんに『もういいです。ありがとうございました』って言ってあげるのも、一つの愛だと思わない?」

 

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