平成三十一年十二月二十六日 十九時十十七分三秒
明日の残影だけが揺らめいている。
明日はどんどん遠のいて、昨日はどんどん近づいてくる。
時間は後ろ向きに流れている。 僕らは永遠に明日には辿り着けない。
放課後の学校。
日は落ちて、もう外はかなり暗い。
蛍光灯の冷たい明かりが、廊下の冷えたリノリウムの床を照らしていた。
「そういえば、あっちの駅前にプラネタリウムができたらしいね」
教室を出て玄関までの道のりを、僕らは歩いていた。
『あっちの駅前』とは、僕らがいつも利用している方ではなく、県庁所在地にあるほんの少しだけ都会な方の『駅前』だ。
「いまどきプラネタリウム?」
この街は、プラネタリウムなんてなくても星くらいいくらでも見えるのだけれど。
「分かってないなあ、あれは偶像化した『星』を見るからいいんだよ」
「そんなものかな」
「そうだよ」
あの日、雪の降る堤防沿いの空き地で、『世界を滅ぼす方法を見つけた』のだと少女は言った。
“ノストラダムスの秘密”。
四十二ページの三行目。
「……この前の話、信じてないでしょ」
「世界を滅ぼそうって話?」
「うん」
「信じてないけど」
「やっぱり」
「いいよ、別に。信じなくても」
少女は少し拗ねた感じで言った。
なんだか少し罪悪感。
「ごめん」
「謝るくらいなら、行動で示してもらいたいものです」
「何すればいいの」
少女は、少しだけ考えてから言った。
「一緒に居て欲しい。その時に」
「そんなんでいいの」
「うん。やっぱり、世界を滅ぼすってなったらね、一人きりじゃ締まらないしね」
「僕は何してれば? 」
「なんでも。止めてくれてもいいよ?」
「『世界を滅ぼすなんて間違ってる』って?」
「うん。君は言わなさそうだけど」
「そうかな」
「うん。だって」
少女は、一瞬だけ逡巡して、
「わたしの友達だもん」