平成三十一年十二月二十三日 十六時五十七分三十三秒
一斗缶の中で、新聞紙が静かに燃えていた。
拾ってきた枯れ枝は、雪で湿っていてよく燃えない。
堤防沿いの空き地は、冬に居つくには少し寒すぎた。
今年の雪は、降り始めてから一度もやまない。
強弱はあれど一度も。
地に落ちる前に消えてしまう小さな淡雪は、今もはらはらと宙を舞っている。
少女は、新聞紙とか比較的乾いていそうな小枝とかを一斗缶に投げ込んで暖を取ろうと悪戦苦闘していた。
僕はと言えば、やることもなくただ火を眺めている。
目が乾く。
それ以上の感想は浮かばなかった。
「ねえ、君はさ」
少女が、手を止めずに問うた。
「世界を滅ぼす権利をもらったら、どうする?」
少女は手を止めず、顔だけを上げてこっちを見た。
外気の冷たさに赤らんだ頬は、焚き火で少し煤けている。
時代遅れな終末論。
季節外れの『世界の終わり』。
「貰って取っておくかな。必要な時に備えて」
「それはできないんだよ」
少女は、丸めた新聞紙を一斗缶に放る。
「期限付きなんだ。十二月三十一日まで」
「なにそれ」
「この本に隠されてたの。暗号で。解読できたの」
少女は、ぱらぱらと“ノストラダムスの秘密”のページをめくる。
四十二ページ。
三行目。
「世界、滅ぼしちゃおっかな」
悪戯っぽく少女は笑った。
僕は肩をすくめる。
馬鹿々々しい話だった。
インターネットで調べると上から七番目くらいに出てきそうな胡散臭い話。
少女は、とても楽しそうだった。