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平成三十一年十二月二十二日 十八時四十一分十二秒

 ノスタルジーとは何なのだろうか?

 届かないものに手を伸ばすことをそう呼ぶのだろうか。

 かつてこの手にあったはずのもの。

 かつてこの手のひらからこぼれ落ちたもの。

 皆が『あの頃の夏』を生きていたわけではないだろうに。

 僕らは冬の中で、降り積もる雪の中で、ただ過去に埋もれていく。

 今日という日もいつか過去になるのだろうか。

 郷愁に飲み込まれてしまうのか。

 「郷愁を否定したら、人は空っぽになっちゃうのかな」

 少女が、“ノストラダムスの秘密”のページをめくりながらそう言った。

 旧校舎の図書室には、僕ら二人以外は誰も居ない。

 「『過去にばかり縋っていないで現実を見ろ』って話?」

 僕はそう返した。

 僕らが居る旧校舎は、今年の夏に出来た新校舎と入れ替わりで取り壊される予定だ。

 現在は、いくつかの部室と特別教室が倉庫代わりに残っているだけでほとんど使われてはいない。

 この旧図書室も例外ではなく、新校舎の図書室に入ることの出来なかった本たちが倉庫代わりに眠っている。

 一応まだ生徒なら利用できるのだが、利用している人間はほとんど見たことが無い。

 「そんな意地の悪い話じゃないよ」

 少女は、少々ふくれ面で続けた。

 「でも、『あの頃があるから今がある』とかさ、『あの頃』が無い人間はどうすればいいんだろう?」

 「詰め込むんだよ。偽物でいいから」

 「偽物? 思い出の?」

 「それが『ノスタルジー』ってやつじゃないかな」

 思い出の虚像。

 『あの頃の夏』という共同幻想。

 「空っぽの人間が生きていくには詰め込まなきゃダメなんだ。ありもしない思い出を、在りし日の幻想を」

 業務用のストーブが赤々と燃えていて、少し暑いくらいだった。

 僕は文庫本を閉じて、鞄から貸出カードを取り出す。

 「あー、待って。借りるなら一緒にお願い」

 「自分ので借りたら?」

 「無くしちゃったよそんなの。入学して三日目とかでしょ、そのカード作ったの」

 「うん」

 「持ってるの君くらいだよ」 

 つけっぱなしで放置されているパソコンとバーコードリーダーに、貸出カードと本のバーコードを読ませる。

 本来は図書委員の仕事だが、学生の仕事など適当なものだ。

 まして旧校舎の本の管理など教員でも把握しているのか怪しい。数冊持って帰っても恐らく誰も気づかないだろう。

 ここが無くなったら、この本たちはどこに行くのだろうか。

 近くの学校に寄贈されたりするのか、古本屋にまとめて引き取ってもらうのか、あるいはゴミにでも出すのか。

 こんな本たちにも、誰かの青春があったのだろうか。

 ノスタルジーとはそういうものか。


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