平成三十一年十二月十八日 十八時二十三分五十秒
「ノスタルジーな青春の幻想っていうと夏を思い浮かべる人が多いけど、わたしは冬の方が好きなんだよね」
雪が降っていた。
僕らは公園の、簡素な屋根がついたテーブル付きのベンチに向かい合って座っていた。
大粒の雪は静かに、ひらひらと降り積もっていく。
「夏もいいけどさ。石油ストーブのぼんやりした匂いとか、雪が積もった音のない夜の静けさとか……雪国生まれだからそう思うのかな」
「かもね」
雨宿りはよく聞くけれど、雪宿りというのはあまり聞かないのはなぜだろうか?
雪が止む様子は無い。
少女が鞄から参考書を取り出して勉強を始めたので、僕は鞄から文庫本を取り出して開いた。
「君ってさ。いつも本読んでるのに成績悪いよね」
「いつも本読んでるから成績悪いんだよ」
「……なるほど?」
目的の無い会話は空中分解して、僕らは互いに手元に目を落とした。
居心地のいい静けさだった。
雪の降る街は、僕たち以外人が消えてしまったみたいに思える。
遠くから時折聞こえる、自動車のブロロロロ、という音だけが微かに世界が滅んだわけではないのだと教えてくれた。
いや、あるいは、車の中には誰も乗っていないのかもしれないが。
2019年の十二月。
一つの時代が終わって――そして、世界が終わるのだろうと、僕は勝手に思っていた。
なんとなくだ。
なんとなく。
『将来への漠然とした不安』ってやつ。
人類共通の悩み。
なんとなく明日は仄暗くて、昨日はぼんやりと灯っている。