コント 託された未練
ボケ:雅也 英雄の従兄
ツッコミ:英雄 大学を目指す受験生
雅也は仕事から帰る途中、英雄の家を訪ねた。
雅也:「よう、英雄」
英雄:「あ、雅也兄ちゃん!今日はどうしたの?」
雅也は英雄に1冊の本を差し出す。
雅也:「お前が漫才大学を受けるって聞いたから持ってきた。実は俺も目指してたんだ。落ちちまったけどな。俺のお古だけど、良かったら過去問解くのに使ってくれ」
英雄:「ありがとう!」
雅也:「頑張れよ、お前ならきっと受かる!」
それから3日後、雅也は交通事故で帰らぬ人となった。
英雄:「雅也兄ちゃん!僕、絶対、大学に合格してみせるよ!」
英雄は涙を飲んで、雅也からもらった問題集を開く。
雅也:『その意気だぞ、英雄!』
英雄:「その声は雅也兄ちゃん!?」
英雄が後ろを振り向くと、雅也の幽霊が立っていた。
雅也:『お前が大学に受かるか気になって、現世に留まっちまった』
英雄:「そんなに僕のことを…」
雅也:『実の弟みたいなお前が大学に受かってくれたら俺は本望だ』
英雄:「兄ちゃん…」
雅也:『わからないことがあったら俺に聞け』
英雄:「うん!」
早速勉強に取り掛かる英雄。
雅也はその様子を後ろから黙って見守っていたが、スラスラと問題を解いていく英雄に、
雅也:『英雄…そこ…』
英雄:「え、間違った?」
雅也:『…俺を越えたな…』
英雄:「もう挫折!?まだ32ページだよ!?」
雅也:『だって、そこの問題解けなかったんだよ…』
英雄の雅也を見る目が変わる。
英雄:「…確かに、この問題捻ってるよね…」
雅也:『だろう?』
英雄:「敵は取った、兄ちゃんの屍を越えて頑張るよ」
雅也:『偉いぞ!兄ちゃん、背後から見守っているからな!』
英雄:「幽霊だけに悪寒がする」
雅也:『何だって?』
英雄:「兄ちゃんが見ててくれると、頭が冷えるよ」
雅也:『それは現世に留まったかいがあった!』
英雄:「早くこの問題集終わらせて、成仏してもらおう」
雅也:『何だって?』
英雄:「兄ちゃんの分も頑張るよ!」
30分後。
英雄を見守っているはずの雅也は部屋を物色している。
雅也:『英雄…』
英雄は没頭していて気付かない。
雅也は念力で問題集を宙に浮かせる。
英雄:「うわあ!何だよ!?」
驚く英雄に雅也は子供っぽい笑みを浮かべる。
雅也:『勉強はこの辺にして、ゲームしようぜ』
雅也は格闘ゲームのソフトを見せる。
雅也:『2人でよくこのゲームよくやったよな?』
英雄:「懐かしいな…」
雅也:『気分転換も必要だろう?』
英雄:「そうだね…」
誘惑に負けてゲームを始める。
英雄:「完敗だ!やっぱり、兄ちゃんは強いな!」
雅也:『強くなったな、英雄。だが、まだまだ俺の敵じゃないな!』
英雄:「けっこう練習してたんだけどな…ねぇ、強さの秘訣教えてよ」
雅也:『それは俺が年上だからだ!』
英雄:「それだけじゃないでしょう?何かテクニックとかあるでしょう?」
雅也:『そんなものはない!すべては努力だ!勉強する間も惜しんでゲームに没頭した!』
英雄:「眠る間じゃないのかよ!?」
雅也:『英雄、睡眠は人間にとって絶対必要不可欠なんだぞ」
英雄:「知ってるよ!ていうか、それじゃ、大学落ちても文句言えないじゃん!」
雅也は背中に後悔の念を滲ませる。
雅也:『その通りだ!だから、お前にこれを託したんだ!』
英雄:「じゃ、邪魔しないでよ」
雅也:『はい』
問題集を開いたその日から雅也との格闘が始まった。
問題を解くたびに、勉強を妨害される。
雅也:『英雄、今日、あのドラマ最終回だったぜ』
英雄:「録画して後で見る。明日、期末なんだ」
雅也:『そんなこと言わずに見ようぜ』
英雄:「1人で見れば」
英雄はテレビをつけると、ヘッドホンをつけて机に向かった。
しかし、雅也は幽霊、ヘッドホンからテレビの音声を送り込む。
英雄:「一緒に見ればいいんだろう!」
雅也:『そうそう』
ドラマが終了する。
雅也:『ああ、面白かったな…お前泣いてんのか?』
英雄:「皆バラバラになっちゃった…」
雅也:『泣き虫』
雅也は英雄の頬を指で突っつく。
雅也:『ああ、楽しいな。俺1人っ子だったからさ。お前が遊びに来てくれてた時、楽しかったんだよな。いつまでこうしていられるのかな…』
英雄:「いつまでって…」
英雄の脳裏に問題集の残りのページ数が過ぎった。
後1問であの問題集は終わる。
英雄:『あの問題集が終わったら…』
時がが止まったままの雅也に胸が苦しくなる。
英雄は雅也の年を越えて生きるだろう。
英雄:「兄ちゃん、僕…」
雅也:『いいよ、行けよ…』
英雄:「ごめん!」
英雄は最後の1問を解き終わる。
英雄:「つづく!?」
問題集の最後のページには大きく書かれていた。
雅也:『次はパート2だな。因みに3まである』
英雄:「まとめてくれよ!」
雅也:『お前も挫折すると思ってさ』
英雄:「様子見かよ!?」
雅也:『英雄、俺の為にも解ききってくれ!この問題集けっこう高かったんだ』
英雄:「それが本音か!」