第八話 vs黄色の巨人①
初見の人のためのキャラおさらい&会話文のすみわけについて。まだ主人公が初めて戦闘をする所なので初見でもだいじょうぶ!
主人公、東雲朝顔 趣味:ストーキング ひょんなことから化物と戦う羽目になった。
相棒、ホーク・キッド ひょんなことから化物と対峙することになった朝顔の味方をするロボット。
“色付き”、謎の多い化物 朝顔とホーク・キッドと敵対する。
会話文すみわけ 人…「」 霊媒機体…〔〕 色付き…[]
「なんだ…? 勝手に動くのか?」
〔我々霊媒機体はパイロットと共に自身の体を動かすのです〕
「確かに、これだけの機構を一人で操るのは難しそうだ」
〔私単体でも体を動かすことはできますが十分な働きをするには朝顔殿の協力も必要です。詳しくは椅子の下にある説明書を参照していただければ…〕
「椅子の下…」
朝顔はコックピットの椅子の下をまさぐり、堅く重い本を両手で引っ張りあげた。
「いや、分厚すぎるだろ…」
〔申し訳ございません。つい筆が乗ってしまい…〕
「筆者お前かよ!」
〔基本操作の方は一二五六ページ目に載っています。覚え方はイツゴロです〕
朝顔はパラパラとめくり基本操作のページを開く。すると、体育館の正面出入口が破壊され“色付き”が現れた。
[だいじょおぶ?]
「大丈夫じゃないぞ…」
朝顔は大きく息を吸い、ゆっくり吐いた。
「やるしかないか…―――行くぞ。ホーク・キッド‼」
〔承知!〕
朝顔はポケットから取り出したカチューシャで前髪を上げる。勉強する時や激しい運動をする時、朝顔はカチューシャで前髪を上げる癖があるのだ。ルーティンのように、集中力をカチューシャを使ってオンにする。
操縦かんを手前に持ってきて、基本操作の説明のあるページで手を止め、ホーク・キッドに質問する。
「ホーク・キッド。この襲霊武装って奴は使えるのか?」
〔はい、大丈夫です!〕
「早速頼む!」
〔承知‼〕
“襲霊武装”。それは霊媒機体がそれぞれ持つ特殊な武装。襲霊武装の性能は千差万別。機体によって全く異なるのだ。そして、ホーク・キッドの襲霊武装は、
〔“次元装”、起動。朝顔殿、望みの品は?〕
「ショットガンはあるか?」
〔承知。―――プログラムアクセス、検索ワード散弾銃。…α8.高精度ショットガン “マスティマ”をダウンロード〕
次元装。亜空間よりあらゆる装備を取り出す襲霊武装だ。
次元装で取り出せる武装の幅は共鳴率に比例して広がっていく。共鳴率が高いほど強力な武装を取り出すことが出来、尚且つ出せる武器の量も増えていく。亜空間より取り出せる武装はα、β、γ、Δ、Ζの五つのギリシア数字で区分けされており、αとβとγにランクの違いはないがΔ、Ζの二つは高い共鳴率を出さなければ解放されず、解放されれば他を圧倒する武力を発揮する。
ホーク・キッドは紫の歪みから黒ずくめのショットガンを取り出す。ショットガンはホーク・キッドの手に触れた瞬間、銀色の輝きを出し姿を現した。
亜空間より取り出した武装はホーク・キッドが触れるまでは“無干渉状態”となっており、ホーク・キッドが触れなければ他の物体に干渉できない。ゆえに、相手の真上に亜空間を展開し、爆弾を投下して攻撃…といった使用方法はできない。
「すごいな…好きな時に好きな武器を使えるとは…」
「ただし制約が多くあります。多用は禁物です」
「了解だ」
朝顔はおぼつかない手つきでコックピット内の機器を触り、右手で操縦桿を握る。
「こうして、こうか」
すると朝顔の動きに呼応してホーク・キッドの両手が動き出した。
[だいじょお―――]
〔朝顔殿! 攻撃来ます‼〕
「くそ! チュートリアルぐらいやらせろって!」
[ぶ‼]
朝顔たちの確認作業を待たず“色付き”は大きな頭を前に出して思い切り地面を蹴った。高速の頭突き、まともに受ければタダでは済まない。
〔む!〕
その攻撃をホーク・キッドが躱す。
現在、ホーク・キッドと朝顔は体を半分に分けて操作していた。朝顔が上半身を、ホーク・キッドが下半身の動きを管理している。
「百六十度回転! 姿勢は下げるな!」
〔承知!〕
ホーク・キッドは回転し、背後へ回った“色付き”を正面に据える。
そして朝顔はホーク・キッドの上半身を動かし、ショットガンを構えさせていた。レッドドットサイトを吹き抜けのコックピットから覗き、引き金を引く。
“マスティマ”の銃口は火を吹き、散弾をばら撒いた。強い反動と大きな発砲音。ホーク・キッドの体は上手く衝撃を吸収し、弾丸はしっかりと“色付き”を捉えた。
[ぶううううううううううう‼]
「いい感じだな」
〔驚きました…まさか初めての操縦でこれほどの動きが出来るとは〕
黄色く大きな体が吹っ飛ばされ体育館のステージに激突する。
「距離を取れ、ついでに武器をアサルトライフルに」
〔アタッチメントに要求はありますか?〕
「任せる、スコープは付けてくれ」
ホーク・キッドが体育館から脱出しつつ“次元装”によって取り出したのは低反動アサルトライフルα⒒“ケルビム”だ。
入り口を突き破り、本校舎と体育館を繋ぐ連絡路で朝顔は“色付き”の様子を見る。
[だいじょうぶ!]
一ツ目の“色付き”はピンピンしていた。
瓦礫の中から立ち上がり無邪気な笑顔でホーク・キッドと対峙する。
「効いてる様子がないな」
〔共鳴率です、朝顔殿〕
「共鳴率?」
〔コックピット上部にあるメーターをご覧ください〕
朝顔は顔を上げる。すると真上には病院にあるような心拍数のメーターのようなものと、“共鳴率32%”と書かれている液晶があった。
〔それが現在の私と朝顔殿の共鳴率を表す数字です。共鳴率とは平たく言えば心のつながり、私と朝顔殿の絆のようなものです〕
「その値によってなにが変わる?」
〔我々霊媒機体の力の源は魂のつながり。共鳴率が高ければ高いほど装甲は厚くなり、武装の幅も広がり武器の威力も機動性も上昇します。…この“色付き”にダメージを与えるには最低六十%は必要ですね〕
「おいおい…絆なんて一朝一夕でなんとかなるもんでもないだろう」
〔ええ。今、純粋な力比べをすれば我々に勝ち目はありません〕
論より証拠。朝顔はとりあえずホーク・キッドの手元にあるアサルトライフル“ケルビム”で一ツ目の“色付き”を攻撃する。
しかし、放たれた弾丸たちは“色付き”の脂肪に跳ねて地面に落下した。
[だいじょうぶ!]
朝顔は「ふむ」と納得した。どうやらこちらの攻撃力では奴の脂肪を突破出来ないらしい。
「なるほどな」
だがまぁ。と朝顔は言葉を紡ぐ。
「力の差は機転で殺す。やりようはあるだろ」
[ダダだダダ!]
跳躍し、体育館の天井を踏みしめて飛来する黄色の化物。同時に後退しながらアサルトライフルから弾丸を連射するホーク・キッド。しかし弾丸はゴム質の肌に弾かれた、さきほどまでホーク・キッドがいた連絡路は“色付き”に突撃され大破させられた。
朝顔はさきほど“色付き”が足場にした体育館の天井を見る。
(あれだけの大きさの奴が思い切り踏んだら天井は破壊されるはず、だが天井は少しヒビが入った程度。あの体の質感…ゴムのようなものか? なら)
〔御主人?〕
「ホーク・キッド。火炎放射器はあるか?」
〔あります。使いますか?〕
「頼む」
ホーク・キッドが亜空間より取り出したのはα‐30。火炎放射器“エンリル”である。
タンクを肩に背負い、ホースを伸ばしてホーク・キッドはスイッチを押す。すると火炎放射器の先から紅蓮の炎が勢いよく噴き出し“色付き”を囲む。しかし、
[だいじょおおおおおおぶ!]
炎を突き破ってアタックしてくる“色付き”をホーク・キッドは軽やかに躱す。
〔ゴムは限界温度を超える熱を帯びると軟化したり変形したりする…その点をついたアイディアは見事でしたが、しかし…〕
「いや、そんな弱点を克服したゴムなんていっぱいある。見たいのはそこじゃない、全体を攻撃して弱点がないか探りたかった。ホーク・キッド、見てみろ、奴の左わき腹を」
ホーク・キッドは朝顔の言う通り一ツ目の左わき腹に視線を落とす。
一ツ目の左わき腹は焦げていた。それもただの焦げ跡じゃない、まるで瞳孔のような綺麗な焦げ跡がそこにはあった。
〔瞳孔の形をした焦げ跡?〕
「あそこを切断性のある武器で攻撃してみよう。クロスボウはあるか?」
〔用意します!〕
[だいじょうぶぅぅぅ‼]
再び地面を蹴り、飛来する“色付き”。
ホーク・キッドは先ほどと同じように軽く避けた。
〔もう攻撃の軌道は把握しました!〕
だが、
「だダダダダだ‼」
「…!? ホーク・キッド! まだだ‼」
“色付き”はホーク・キッドの背後にあった本校舎を蹴り、バウンドし、空中で避けた姿勢のまま硬直していたホーク・キッドに再びアタックを仕掛けてきた。
〔なんのそら!〕
なんとかその攻撃もギリギリのところでホーク・キッドは回避した。だが“色付き”の攻撃はここでは終わらなかった。
[ぶぅ‼]
今度は再び地面を足場にしバウンドする。
朝顔は寸前の所でホーク・キッドの両腕を胸の前でクロスさせた。ちょうどその交差した腕に“色付き”の頭突きが激突した。
「ぬわ!?」
驚くべきはその威力。
敵の頭突きを受けたホーク・キッドの体は校舎を突き破り、高校周りにある一軒家に激突した。
〔ぐっ…大丈夫ですか? 朝顔殿! 朝顔殿!?〕
「ぬ…ぐっ」
朝顔はヨロヨロとコックピットから顔だし、一瞬口を抑えて胃の内容物を吐き出した。
「なんとか大丈夫だ…クロスボウを、早く! もう一撃は耐えられんぞ‼」
〔はい‼〕
ホーク・キッドは亜空間よりクロスボウと矢を取り出し装備する。そして見晴らしのいい校舎の屋上まで飛行し、校庭でキョロキョロしている“色付き”を視界に収める。
[ぶぅ?]
視線が交錯した。
ギョロっと笑顔でこちらを見る“色付き”、朝顔は生まれて初めて感じる無邪気な不気味さに汗を一滴垂らした。
(失敗したら次はない。当たっても刺さる保証はない。だがやらない選択肢はない!)
[だいじょーーーーーー]
「チャンスは一度…」
“色付き”は足にギュッと力を込める。
[ぶ‼]
「ホーク・キッド。一ミリも機体をブラすなよ」
〔――承知〕
色付きが今までで一番のスピードで飛来する。
朝顔は微動だにせず、心を落ち着かせる。瞳から光が落ち、暗く深く深海の底のような色を醸し出す。
風はなし。敵はもう動きの修正はできない。距離も十分引き付けた。
「ここだ…」
[うううううううううううううう‼]
放たれた矢。
それはドンピシャで“色付き”の脇腹に刺さる軌道…のはずだった。
[ぶぅ!]