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ストーカー・ロボット  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
一 ツ目の怪物“つとむ”
8/59

第七話 ストーカー・ロボット

なんとかここまで来れたな。と少年は学校の前にある一軒家の屋根の上で一呼吸置いた。


目線を落とすと朝顔がいる一軒家と高校の間にある道路にはうじゃうじゃと黒い影たちが蠢いていた。ここまでは屋根を伝い、遠回りながらも建物同士のつながりを意識しながらなんとかたどり着いたが、朝顔の高校の前は二車線の道路によって大きく分断されており渡るのは至難であった。


「飛び越えられる距離じゃない、どうするか…」


〔なにか使えるものは?〕


「この家のガレージに車があるが」


〔残念ながら“裏世界”にある道具は役割を忘れてしまっているため稼働しません。基本的に色が抜けている物体は使えないと考えていただければ…〕


「不思議な世界だな。じゃあ、コイツらがどっか行くまで時間を潰すしかないか」


〔いえ、のんびりしていると“色付き”が出現します〕


「“色付(いろつ)き”?」


「“色付き”は巨大な悪魔です。黒い影達の上位種といったところでしょうか…“色付き”はそこにいる影たちとは違い、高い所にも上りますし、生身の人間の匂いに敏感なので現れたまっすぐ朝顔殿を喰いに来ます。ですので、“色付き”が現れる前に私と合流しなければ対抗する術もなく朝顔殿は死ぬでしょう〕


「おい…そんな奴がいるなら早く言えって―――」


――― REVERSE 00:00


 その時、朝顔の肌に寒いと感じるほどの禍々しいオーラが凄まじい轟音と共に背後に現れた。




[だいじょうぶ?]






 後ろからかわらしい子供っぽい声が聞こえる。声こそ幼いが、その雰囲気は明らかに危ういものであった。


〔朝顔殿‼〕


 朝顔は恐る恐る、後ろを振り向いた。


―――バケモノ。


 朝顔がいる一軒家の後ろの家を踏みつぶして“それ”はいた。


 子供のような体型、口は無く、耳もなく、目は顔にあたる部分の中央に一つだけ。市販されている子供向けの人形から服を剥ぎ、特徴を無くした人体のようなものだ。


[だいじょうぶ?〕


「な、なんだよこのバケモノは…!?」


 二階建ての家より大きな体躯から朝顔を覗きつつ“色付き”は言う。朝顔は恐怖で足が震え、汗を垂らしていた。目の前の物体が特に恐怖を催すのは白黒の世界で、黄色という色がついている所だろう。朝顔はここで、彼らが“色付き”と呼ばれる理由を何の意味もなく理解した。


 硬直する朝顔の脳内に、一人の男の声が響いた。


〔朝顔殿! そこから降りて道路を突っ切ってください!〕

「―――っあ!」


 朝顔は瞬間、屋根を蹴り空へと身を投げ出した。同時に一ツ目の色付きは大きな手でさきほどまで朝顔がいた場所を砕いた。


 ゴォォォン‼ とけたましい音を尻目に朝顔は空中で受け身の態勢を取った。


「だあああああ‼」


 二階からの決死のダイブ。地面に接触する際に地面を思い切り叩き衝撃を軽減させる。一メートル転がった後にすぐに走る態勢を整える。体中を擦りむきながら、痛みを感じる前に朝顔をそうさせたのは目の前の地獄絵図だ。


 そこら中にいる黒い影達が、宝石を見つけたかのように朝顔を凝視していた。呻き、おぼつかない足取りで朝顔に接近する。


「間違いなく今年一番の恐怖体験だ‼」


〔朝顔殿! 私が道を作ります! 当たったら申し訳ございません!〕


「え?」


 朝顔がホークキッドの言葉の意味を測りかねていると、どこか遠くの方、恐らくは体育館から銃声が響き…


 ビュゥン‼ と、学校の外壁を抉り朝顔のすぐ横を強大な破壊の塊が通り過ぎた。


「お、おいおい…」


 黒い影を巻き込みながら朝顔の後方に消えて行った何かは地面の削られた痕を見る限り銃弾なのだろうか。


〔今のうちに!〕


 朝顔はその痕をなぞるように道路を走り抜けた。


「もちろん僕の位置をわかっていてやったんだよな?」


〔残念ながら、朝顔殿の位置を完璧に把握する時間は無く…記憶を頼りに朝顔殿の位置を何となく割り出し、勘で攻撃しました〕


「お前、けっこうアバウトな奴だな…」


 朝顔は破壊された外壁から高校に入る前に後ろへ視線を送る。“色つき”は何故かはわからないが楽しそうにそこら一帯の家を破壊していた。イカれてる、と鳥肌を立たせながら朝顔はホーク・キッドが作った道を行く。


(それにしてもこのバカでかい破壊痕。コイツ…どんな奴なんだ?)


 魔法使いか、錬金術師か、それとも超能力者か。とホーク・キッドの正体について適当な考えを巡らせる内に朝顔はようやく巨大な穴が開いた体育館にたどり着いた。


 穴をくぐって体育館に入る。朝顔はホーク・キッドに対して色々な人物像を用意していたが、その全てが違った。スケールが間違っていたのだ。


「お、お前がホーク・キッド…なのか?」


〔はい。お初にお目にかかります、朝顔殿〕



 それは巨大なロボットだった。



 薄暗い体育館で、膝をつき、その白い巨体は座っていた。床には錆びたバズーカが転がっており、体育館の中は巨大な何かが這いずり回ったような跡があった。


 ロボットと言っても体はボロボロ、隅々が錆びており色が剥げている。胸部にあるコックピットは焼けており座席が丸見えだ。


「機械…? 人工知能ってやつか?」


〔詳しい説明は後で。ひとまず、私のコックピットに搭乗してください。―――“色付き”が来ます〕


 ホーク・キッドの言葉通り、体育館のすぐそばで炸裂音が響いた。朝顔は疑問を瞬時に振り切り、ホーク・キッドに従う。


「わかった‼」


 朝顔は差し伸べられたホーク・キッドの手を伝ってコックピットへと飛び乗る。


 朝顔がコックピットに乗ると急にホーク・キッドの体に光が走りだし、機能が修復されていく。



―――共鳴率30%

〔ようやく、稼働できます!〕



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